第23話 聖女の決闘 その3
決闘当日の朝――営業していない店にリネットが現れた。
「おはようございます、皆さん。今日は絶好の冒険日和ですね。ウフフフフフ」
「何をしに来た?」
一応は元気(?)なようで安心するが、同時に警戒してしまう。
だがリネットは、
「私と一緒に行けばエヴァンさんたちも関係者席を使えますからね。ウフフフフフ」
「無関係だと思うが、使えるのなら使わせてもらう」
こうして、俺はララ、レイチェル、アリサ、そしてリネットと共に闘技場に向かった。
多くの人々が俺たちと同じ方向に向かっている。
決闘というのはそれだけで人気のイベントだが、今回は聖女ソフィアの戦いが見れるのである。
このエスティアにおいてソフィアは容姿、知性、人格に優れた人物として尊敬されている。
だがそれだけではなく、彼女は多種多様なスキルを持っているのだ。
だから戦っても強いのである。
ソフィア・セラーズは「家柄以外はすべてを持つ女」と呼ばれているのである。
もはや彼女ぐらいになると孤児であったことがステータスになっている。
……………………。
…………。
闘技場に到着すると、リネットの言った通り、裏口から入ることができた。
「遅かったわね、アンタたち」
中にはすでにエディスとフローラが待っていた。
「いや、時間には余裕で間に合っているんだが? そもそも俺は無関係だし……」
「そうよ! 肝心の司祭様はどうしたのよ?」
「子供たちの世話で忙しいんじゃないのか?」
そんなことを話しているていると、高い声の集団が近づいてくるのがわかった。
――こ、これは……まさか……。
「おっはよ~♪ お姉ちゃんと愉快な子供たちだよ~」
ソフィアは孤児院の子供たちを全員連れてきたらしい。
……………………。
…………。
開始の時刻が近づくに闘技場の熱気はぐんぐん上昇していく。
定刻になると司会者の男が現れた。
「皆さ~~ん、盛り上がっていますか~~!?」
「「オーーーーーーーー!!!!」」
観客たちのアツい叫びに司会者は満足気である。
「グッド! ベリ~グゥッド!! 本日は絶好の決闘日和ッ!! 今回の決闘者はアンバール男爵の娘・エディスと冒険者ギルドの事務の職に就いているリネット・フォーサイスです。エディス・アンバールは自身の従者であるフローラ・ドートリスを、リネット・フォーサイスはソフィア・セラーズ司祭をそれぞれ代理人として立てています。それでは選手入場オオオオオッ!!」
司会の叫びに応えて、アリーナにソフィアとフローラが現れた。
「セラーズ司祭だ! ホントにやるんだ!」
「うぉおおおおおおお、聖女様の決闘が見れるなんて!」
会場の熱気はさらに高まる。
司会者の言う通り、
二人が規定の位置に着いたことを確認した司会者は――、
「それでは用意――」
それぞれが剣を抜いて構える。
ソフィアの
パッと見た感じ鋼鉄の剣に見えるが、何かが違う……。
一方でフローラが持っている
「始めェ――ッ!!」
開始直後から二人の刃が激しくぶつかり合う。
異常にレベルの高い戦いだ。
「ドートリス選手が持っているのは木剣に見えます! これは何かの作戦でしょうかッ!?」
木剣を活かせるスキルか、もしくは木剣でも勝てるほど強力なスキルか……。
エディスがあえて鋼鉄の剣を使っていたことを考えると前者の可能性は否定できない。
「一方のセラーズ司祭の剣もクリスタリウムではありません!」
フローラの剣術はエディスとよく似ている。
彼女がエディスに剣術を教えたのか、もしくは同じ師から習ったのか……。
意外にもソフィアの剣術もかなり洗練されている。
王都で身につけたのだろうか?
「まったく……この街にはスキルの持ち腐れが多くて困りますねェ。ウフフフフフ」
リネットは当事者なのに緊張感のないことを言っている。
「「がんばれ~~~ソフィアお姉ちゃ~ん!!」」
子供たちは無邪気に応援している。
「ただの樫の木にしてはずいぶんと頑丈――やっぱり“そういうスキル”なんだね♪」
ソフィアはニコニコしながら言う。
「特に隠すほどのことでもございません。私には〈植物強化〉のスキルがございますので。司祭様こそただの鋼鉄の剣にしてはずいぶんと頑丈ではありませんか? まさかエディスお嬢様のように〈鋼鉄強化〉のスキルをお持ちではありませんよね?」
一方のフローラは落ち着いた様子で答える。
「えーっとね、これ実は“聖剣グランデュラス”なんだよね~」
――聖剣グランデュラス。
どこかで聞いたことあるというレベルではない。
「伝説の聖者ダリルが使用していたという……?」
フローラは目を丸くして言った。
「おーっと、ここで衝撃発言! なんとセラーズ司祭の剣は伝説の聖剣グランデュラスだというのです!!」
この国では聖者ダリルの名は特別な意味を持つ。
何せ通貨の単位になるぐらいだ。
その聖者ダリルが振るっていたのが“聖剣グランデュラス”だ。
まさか現存していたのか!?
「みたいだよ~。私も実際に聖者ダリルが使っているところを見たわけじゃないけど、何か特別な力を感じるんだよね~。え? もしかして卑怯かな?」
「いいえ。伝説の聖剣を使ってはいけないというルールは存在しません。むしろ、強力なものを使えるのでしたら積極的に使っていくべきでしょう。ですが……頑丈なのはあくまで剣。あなたの身体の方を斬ればすむこと……。例えば――」
フローラの足元から密かに植物の蔓のようなものが伸びる!
「えっ!?」
足に蔦が巻き付いたことで、ソフィアは怯んだ。
その隙をフローラが見逃すことはない。
彼女の鋭い斬撃がソフィアの右腕を切り落とした!
だが、ソフィアも只者ではない。
スキルで光の輪を作り出すと、それを飛ばしてフローラの左足を切断したのである。
「うぐっ……」
「ふふっ……身体を斬ればいいというのは、お互い様だったみたいだね♪」
あまりの出来事に観客たちは熱狂から反転して息を呑む。
通常ならこの状態なら決闘停止となるが、今回は特殊だ。
まぁ、見ていれば誰もが理解するだろう。
不自然なくらい出血してないし……。
ソフィアの右腕は溢れる光の粒子と共にどんどん再生していき、それと同時に落ちた腕は消滅していった。
すっかり復活した右手で悠々と“聖剣”を拾う。
さすがソフィア、〈回復〉スキルも強力だ。
一方、フローラの左足は切断面同士から蔓が伸び出す。
そのまま蔓に引っ張られるように足は元の位置に戻った。
なんというか……エディスと同じで変わった〈回復〉スキルだな……。
「さすが超ハイレベルな
司会者も大興奮である。
「さて……決闘再開といきましょうか……」
フローラはそう言って剣を構え直す。
「そうだね♪」
ソフィアも同じく構え直した。
「両者、まだまだやる気です!!」
「「オーーーーーーーー!!!!」」
会場は再び熱狂に包まれる。
「ふむ……剣術で仕留めるのは難しそうですので、別の引き出しをお見せしましょう」
「それは楽しみだなぁ♪」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
フローラから凄まじいプレッシャーを感じるッ!!
アリーナのいたる所から植物が育ち始め、たちまち数メートルの樹になった。
こ……これはフローラの
「おーっと、アリーナ中に謎の樹が! これもスキルなのかああああああっ!?」
「レアスキルゆえ名前を存じませんが、私はこれを〈
――シュッ!!
ソフィアは後方から飛んできた何かを躱した。
地面に刺さったものを見て、その正体を理解したらしい。
「これは……葉っぱなのかな……?」
「はい、葉っぱでございます。もっとも切れ味は抜群ですが……。さらにこれがあらゆる方向からあなたを狙います」
――シュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!
フローラの予告通り、無数の“葉”がソフィアに襲いかかる!!
「そんな攻撃、私には効かないよ~♪」
ソフィアは素早く動き回り、“樹”を次々と切り倒す!
倒れた“樹”はすぐに朽ちて消滅していった。
「さすがでございます……。ですが、かなり“葉”の攻撃をもらってしまいましたね」
「それがどうしたのかな?」
確かにかなりの枚数の“葉”がソフィアに刺さった。
服はかなりボロボロになっているが、強力な〈回復〉スキルで身体は無傷だろう。
「いえ、大したことではございませんが、“葉”には毒を仕込んでおりまして……」
「残念だけど私、毒には強いんだよ♪」
それが虚勢でないことが、ソフィアの表情から読み取れる。
むしろ表情が険しいのはフローラの方だ。
「少しばかり運動すれば効いてくるかもしれません」
そう言ってフローラは再び接近戦を仕掛ける。
激しい斬撃戦を繰り広げるが、ソフィアが押し始めている。
どうやら、毒というのはブラフか、そうでなければソフィアには効かなかったようだ。
「う~ん、ブレイクダウンね」
エディスが呟いた。
ブレイクダウン――つまりはスキルの使い過ぎで効果が保てなくなってきているのだ。
――ズシャッ!!
そしてついにフローラの木剣が折られたのである。
「どうする~? まだやる~?」
どうする……ここからまだ巻き返せるのか……?
「いえ……私の負けです……」
フローラが負けを認めた!?
「けっちゃ~く!! ドートリス選手が敗北を認めたことにより、セラーズ司祭の勝利ですッ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」
「いい戦いだった!」「また戦ってくれよ~!」
派手な戦いを見せた二人に対して、観客から惜しみない賞賛が送られる。
とりあえず、これでリネットの薬は大丈夫だな。
ちなみに、勝者コメントとしてソフィアは孤児院への寄付を呼びかけた。
ああ、これが目的だったんだな……。
それにしても――フローラはやけにあっさりを負けたな……。
そこまで必死になることでもないということか。
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