第22話 聖女の決闘 その2
「隠れてるやつら、そろそろ出てきたらどうだ?」
俺が叫ぶと、窓から見覚えのある人物が2人、入ってきた。
「よ、よく気付いたわね! 褒めてあげるわ!」
「窓から失礼いたします」
貴族令嬢のエディスと従者のフローラである。
特にフローラは一度見たら忘れない奇抜な特徴がある。
結局、あの頭の花は何なんだよ……。
「……何をしてたんだ?」
俺は二人を睨みつけながら問いかける。
「ええっと、街ですごい勢いで屋根の上走ってるアンタを見かけたから、何かおもしろいことあるんじゃないかと思って……」
なるほど、エディスらしい行動原理かもしれない。
というか、きっちり追いついてくるあたりさすがだな……。
「残念だったな。この通り、病人がいるだけだ」
俺の簡潔な説明に足してエディスは、
「なんか薬の価格がどうとか言ってたけど、フローラならなんとかなるんじゃない?」
と言った。
「なん……だと……!?」
「服用なさっている薬そのものをいただければ可能かと思いますが……」
つまり、薬を作ることができるのか?
だが、この辺りで材料が採れないというのがそもそもの問題だったはず。
「それではお願いします」
リネットは薬の入った小瓶をフローラに渡した。
「お預かりいたします――」
フローラは小瓶のコルク栓を抜くと――ぐびっと中身を飲み干した!!
「……飲むのかよッ!?」
ま、まぁ……そういうスキルなのだろう。
「薬について理解できました。セラーズ司祭、この施設に製薬室はございますか?」
「あるよ~」
「ありがとうございます。とりあえず土が必要ですので庭に移動します」
俺たちは庭にやってきた。
もちろん、リネットはベッドでお留守番だ。
フローラが種らしきものを撒くと、見かけない植物が生えてきた。
凄まじい速さで成長すると、次々と実が成っていく!
「〈栽培〉のスキルか?」
「左様にございます」
「フローラの〈栽培〉はずば抜けて優秀よ。〈薬効解析〉と合わせて任意の効果を持つ植物を生み出せるわ」
エディスは自分のことように誇らしげである。
本当なら確かにすごい能力だ。
ここでようやく気付いた。
彼女の花冠はただの飾りではない……と。
そして薔薇は彼女の頭部から直接生えているのだと!
エディスの骨が鋼鉄で出来ているように、スキルが本人の身体に恒常的な影響を与えることは稀にある。
従者が主人より目立つ装飾していることに違和感を覚えたが、そういうことだったのか!
実を摘み取ったフローラは、
「次は製薬室をお借りします」
と言った。
実は孤児院には寄付以外にも収入がある。
それが薬の製造と販売だ。
孤児院を管理する
だから教会の施設である孤児院には製薬室があるのだ。
製薬室でフローラは摘み取った実をすり潰し、他の材料と混ぜ合わせ、最終的に毒々しい色の液体が出来上がった。
それを小さな薬瓶に小分けにしていく。
リネットが待つ部屋に戻るとフローラは薬を2瓶だけ渡した。
「どうして2瓶だけなんだ? もっとたくさん作っただろ?」
「お預かりした分を返しただけにございます。1瓶は成功したか確かめるために今飲んでいただけますでしょうか?」
「わかりました」
リネットは起き上がると、小瓶を開けて薬をグビッと飲み干した。
よくそんな得体の知れないものを飲む気になるなぁ……と思う。
だが、信じるしかない場合もあるからなぁ……。
「味は……こちらの方が美味しいですね」
「効果は元の薬より早く出ます」
「それで残りはどうするんだよ? というか、ここまでしておいてリネットにあげないのか?」
それを聞いたエディスが不敵に笑う。
「残りが欲しかったら……わかるわよね?」
「……いくらだ? 店で買うよりは安くなるんだよな?」
それを聞いたエディスは、地面をダンダン踏んで苛立ちを見せた!
「ちーがーうーでーしょー!! 決闘に決まってるじゃないっ!」
「別に決まってない。それにリネットでは勝てないんじゃないか?」
エディスってめっちゃ強いし。
リネットも強いことは強いが、エディスは格が違う。
「代理人は認めるわよ。元からそのつもりだし」
「代理人って俺のことか? 俺とエディスって先月戦ったばかりだろ……」
勝てたのもほとんど運みたいなもので、できれば二度と戦いたくない。
「だからね……私はフローラを代理人に指名するわよっ!」
エディスはビシッとフローラを指差した。
「おまえが代理人を使うのかよ……」
「こんな美人とヤれるのよ! 嬉しいでしょ?」
「いや、俺はバイオレンスなの嫌いだし……」
おそらくだが、フローラはエディスに近い戦闘力を持っている。
俺のそういう感はよく当たるんだ。
もしかしたらフローラの方が強い可能性もあるし、そうでなくても相性問題によって俺が不利な可能性がある。
そ・も・そ・も!
そこまでしてリネットを助ける必要があるのか?
何もすぐに死ぬわけじゃないだろう。
悪いのは物価高騰、その原因となっている戦争なのに。
俺が腕を組んで唸っているとソフィアが、
「エヴァンくんが悩むことはないんだよ~」
と言ってくれた。
「まぁ、俺が何かする義務はないんだが、だからといって何もしなくていいのかという……」
「うんうん、エヴァンくんは優しいから気にしちゃうんだね~。だけど大丈夫! 代わりにお姉ちゃんが戦うから♪」
ソフィアの言葉に一瞬耳を疑った。
「――ソフィアが!?」
「任せてよ♪」
ソフィアはかわいくガッツポーズして見せる。
どうやら聞き間違いではないらしい。
「そうか……悪いな……」
これは渡りに船である。
「司祭様って虫も殺せないような顔をして強いの?」
エディスの疑問はもっともだが、実際強い。
「いえ、お嬢様……おそらくセラーズ司祭こそ“伝説の決闘者”です」
ほう……“あの話”を知っているのか。
「え? ホント!? “伝説”って、そもそもセラーズ司祭って決闘したことあるの?」
「王都にいた時にかなりね~。かわいそうだな~って人の代理人をよくやっていたんだよね~」
「そして、あまりにも勝ちすぎたため、やがてあなたが代理人を引き受けた時点で相手は負けを認めるようになった。付いた異名は“
本当にカッコイイ異名だよな。
「こっちに帰ってきてからは孤児院の子供たち優先でそういうことやってないけど、たまにはいいよね?」
「ソフィアがいいなら、いいんじゃないか? リネット、よかったな!」
「はい、ありがとうございます」
「ちょっとちょっと、何勝った気でいるのよ?」
エディスが頬を膨らませている。
た、確かに……。いくらソフィアが強いとはいえ、フローラの能力も未知なのだ。
「まったくおっしゃる通りなのですが、私なんかのためにセラーズ司祭が戦ってくださる、それだけで十分です」
リネットは言った。
「なるほど、セラーズ司祭はこの街ではかなり人気があるみたいね。それは倒し甲斐があるわ」
エディスは少し嬉しそうに言った。
リネットは立ち上がり、
「そういえば、身体の調子はかなり良くなりました。この薬の効果は確かなようです」
とりあえず“いつも通り”の状態に戻ったように見える。
「それじゃ、決闘の届け出に行きましょ♪」
エディスが嬉しそうに言うが、
「待て、条件が明確でじゃない。リネットが勝った場合どれだけの薬が得られて、エディスが勝った場合、何を差し出す必要がある?」
「とりあえず1ヶ月分――30本でいいかしら? そっちは別に何も賭けなくていいわ。病人に対する慈悲よ」
「慈悲なら普通にあげろよ」
「それじゃおもしろくないモン」
エディスがモジモジしながら言う。
パッと見た感じ可愛く感じるかもしれないが、中身は決闘狂いの
「ま、まぁいい。残る問題だが、今回も王都でやれって言われたらどうするんだ? ソフィアは孤児院を離れるわけにはいかないだろ?」
俺の疑問に対してソフィアは自信満々で答えた。
「そこはお姉ちゃんがなんとかするから大丈夫だよ」
……………………。
…………。
そして、無事にエスティアにて開催となったのである。
1日なら店を閉めてみんなで応援に行ってもいいだろう。
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