第25話 盗賊王を討て! その2
さて、今回の冒険を行うにあたっての作戦会議を行うこととなった――。
「作戦? ダアアアアッて行って、サクッとぶち殺せばいいんじゃない?」
エディスはしれっと言う。
「そういうのは作戦とはいわない。もっと具体的に考えるぞ」
「はいはい」
俺はテーブルの上に地図を広げた。
「まず、フリートウッド州にどこから侵入するかだ。北のマイルズ街道、南のハーマン街道――」
と、俺が地理の説明をしていると――、
「船が楽そうじゃない?」
エディスは“タリス川”を指でなぞりながら言った。
「確かに領主の屋敷へは近いが……船着き場の前でこっそり下船するということか?」
「なんでコソコソしないといけないの? 船着き場で堂々と下船して立ちはだかる者すべてなぎ倒せばいいじゃない?」
「あまりの漢らしさに涙が出そうだよ……。フローラの意見を聞こう」
と、ずっと静かにしているフローラに振ってみたが、
「私としては、お嬢様の意向に従うまでです」
「いやだけど、エディスの身の危険とかあるからなぁ……。ちゃんとした決闘と違って止めてくれる審判もいないのだから」
「お嬢様がやりたいようになさる中で、身の安全もお守りします」
「アンタもフローラを見習ったら~?」
「正気ではないな……」
普通なら心労で倒れそうだが、フローラはこれに耐えられるのだろう。
とりあえず、エディスの強い要望により船で強襲ということになってしまった。
揉めていた報酬についてだが、俺の取り分は3億2000万ダリルということになった。
エディスが3億5000万ダリル、フローラが3億3000万ダリルということらしい……。
……………………。
…………。
リネットに計画を伝えたところ、ギルドの支援を受けられることになった。
具体的には強襲に使用する船の手配をしてくれるらしい。
放任主義の冒険者ギルドにしてはずいぶんと親切なことだと思うが、
あとは、こちらはこちらで旅の準備を整えなくては……。
*
――出発の日、“パーティ”を乗せた船は予定通りに船着き場を発ち、川を下っていた。
甲板の上で景色を眺めていると、稀に上りの船とすれ違う。
あの船も“関税”を絞り取られたんだろうな……。
少し離れたところでエディスとフローラがいる。
「ねぇフローラ、ジュース出してよ」
冒険中にずいぶん贅沢言うのだな!?
この無茶な要求に対してフローラは、
「申し訳ございません。ここは船の上ですので〈栽培〉スキルを使うわけには……」
――え?
つまり、いつもはわざわざスキルで樹を生やして果実を取って絞っていると!?
「じゃあ、なんか代わりに飲むものちょーだい」
「ただいまご用意いたします」
そう言って、フローラが鞄から取り出したのは、紅茶らしき液体で満たされた瓶だった。
エディスは渡された紅茶をグビグビ飲む。
「ぷは~~やっぱりフローラの紅茶は美味しいわね♪」
「ありがとうございます。時間が経っても美味しい紅茶が飲める植物を作り出しております」
瓶は割れやすいからあまり使わない方が良いのだが、そういう話をすると逆ギレされそうなのでやめておこう。
……………………。
…………。
船は順調に進み、出立からちょうど1日後には目的の船着き場に到着しようとしていた。
「さ~て、戦闘開始ね♪」
エディスが嬉しそうに言っている。
船が泊まると、盗賊らしき者たちが船に乗り込んできた。
「それでは関税のために荷物を改めさせてもらう!」
盗賊らしき男がそう言ったが、エディスが前に出て、
「い・や・よ! アタシはお金持ちだけど、アンタたちに払う分は1ダリルたもないわね」
と煽ったのだった。
男は真剣に相手をするでもなく、
「ほらほら、お嬢ちゃんはどいてな――」
と、手で押しのけようとしたのだが、
「何っ!?」
エディスはビクともしない。
「てめェ……スキルを使ってやがるな……? ならばオレも――」
と、男も対抗してスキルを使ったようだが……。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……な・ぜ・だ……?」
「ほら、アタシをどかすんでしょ? がんばりなさいよ? まさかそれで全力じゃないわよね……?」
エディスは真顔で言う。
ここで男も一旦手を引っ込めた。
「おーい、責任者はいるか? このガキが邪魔するんだが何とかしろー」
俺は男に近づき、
「俺がこの一行の責任者だ」
「は? 何勝手なことを――」
エディスが異論を挟もうとするが強引に続ける。
「“王の道”である川で関税を取ることは認められていない。よっておまえたちに1ダリルも払わない」
それを聞いた男は本格的に激怒し、
「おとなしく払っていればいいものを! 野郎ども、痛めつけてやれ! 女子供だろうと容赦するな!」
本性を表すのが早いなァ。
「「うぉおおおおおおおっ!!」」
俺とエディスは突っ込んでくる盗賊どもを次々と殴り飛ばす。
フローラは少し離れた位置で様子を見ている。
手伝うほどのことではないということだろう。
あっという間に全員を倒した。
船の上に倒れられたままではこまるから、陸に上げておく。
そして俺たちも船から降りた。
もちろん、冒険に必要なものが詰まった背嚢を忘れずに背負って。
「とりあえず、最初にやるべきは川の門を開くことだな」
船に被害があってはいけないから、なるべく早く退避してほしいのだが、川の門が閉じていて進めないのだ。
「そっちはアンタに任せたわ。アタシはならず者たちと遊んでるから」
騒ぎに気が付いたらしく、警備員たちがワラワラと寄ってくる。
「そっちは任せたぞ」
そう言って俺は門の制御装置を探しに向かった。
具体的な場所は知らないが、門の近くにあるはずだ。
それらしき小屋はすぐに見つけることができた。
中に入ると、操作係らしい男たちが驚く。
「な、なんだテメェは!?」
「レストラン経営者だッ!!」
――ドカッ!! バキッ!!
男たちを軽く倒す。
小屋の中を見渡すと、それらしきハンドルが見つかった。
これを回せばいいのだろう。
窓からは門の開閉具合が伺えるようになっている。
――ぎゅるんぎゅるん。
ハンドルを回すと鈍い音を立てて門が上がっていく。
普通に回すと時間がかかりそうなのではあるが、やりすぎて壊さないように〈身体強化〉の強さを抑えている。
――ぎゅるんぎゅるん。
よし、完全に開いた!
予め打ち合わせいた通り、俺たちが乗っていた船が進み始めた。
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