第5話 シーン16〜19

シーン16


2日後。

都内一等地にある貝藤弁護士の事務所。

美人秘書が電話を取る。


秘書 「はい、貝藤弁護士法律事務所です。いつもお世話になっております。はい、少々お待ち下さい」


電話を保留にし、コールボタンを押す秘書。


秘書 「岡村ハムの深大寺様から1番にお電話です」


高級感溢れるオフィスで電話を取る貝藤弁護士。


貝藤弁護士 「これは深大寺さん、はい、はい。先日伺った案件ですね。分かりました。では最優先事項として扱わせていただきます。はい、詳しいお話はいつもの料亭で。はい、では」


受話器を置き、自分の携帯電話を取り出す貝藤弁護士。


貝藤弁護士 「砥賀、私だ。岡村ハムの案件だが、クラスB扱いになった。詳しい話は追ってするから、必要となる人材を手配しておけ。そうだ。クラスBだ。頼んだぞ」


シーン17


東京湾が見渡せるお台場の駐車場。

黒いベンツで携帯電話を切る砥賀。


砥賀 「分かりました。お任せ下さい」


パワーウィンドウを下げ、葉巻に火を付けながら別の電話をかける砥賀。


砥賀 「俺だ。例の鈴木恵子と言う女の件だが、調査の方はどうなった? 何?フリーカメラマン? 名前は? 坂上真? それは大した問題にはならんだろう。いや、念の為に身辺調査をしておけ」


葉巻の煙を夕陽に向かって吹く砥賀。


砥賀 「坂上真・・・、聞き覚えがあるな」


シーン18


都内の高級料亭。

深大寺課長と貝藤弁護士、それに砥賀が会食をしている。


貝藤弁護士 「深大寺さん、この度は大変な目に合われましたね」

深大寺課長 「まったくとんでもないアバズレ女ですよ。医者の話では、しばらく使い物にならんと言われました」

貝藤弁護士 「法的には職務規程違反の他に、傷害罪でも訴えられますが?」

深大寺課長 「いや、それは困ります。性病でも拾いかねないAV嬢が大事な食品の品質管理をやっていた等とマスコミに知られれば、ある事無い事書き立てられかねません。今回の件がスキャンダルになれば、私が引責辞任しなきゃならなくなります」

貝藤弁護士 「岡村ハム様は、以前にも衛生問題や賞味期限偽装問題で痛手を受けていらっしゃいますからねえ」

深大寺課長 「お陰さまであの案件はうまく運んで頂きましたが、今回は少々面倒な事になるかも知れません」

貝藤弁護士 「とおっしゃられますのは?」

深大寺課長 「実は以前、私の工場から問題がある食品をコンビニに出荷してしまったのですが、恵子を含む職員達に極秘回収指令を出し、一般の購買客を装わせて店頭の製品を全て買い占めさせた事があるんです」

貝藤弁護士 「恵子が、悔しさ紛れにその隠蔽工作を内部告発されてはマズイですな」

深大寺課長 「あんな事があった直後だ。それだけは事前に防ぎたい」

砥賀 「実は恵子が接触している人物の中に、マスコミ関係らしき人物がいる様です」

深大寺課長 「それは困る! なんとかなりませんか?」

砥賀 「お任せ下さい。手配はもう済ませてあります。今夜中に解決する事をお約束しましょう」

深大寺課長 「そうですか、やはり貴方がたは頼もしい。今回の案件は特に隠密裏にお願いします」

貝藤弁護士 「もちろんです。私は企業戦略のスペシャリストですよ」


シーン19


夕暮れ迫る郊外の一般道。

坂上と恵子の乗ったジープが走っている。

黙ったままうつむいている恵子。


河川敷にジープを止める坂上。


坂上 「ほら、これを着なよ」


厚手のダウンジャケットと使い捨てカイロを恵子に渡す坂上。


恵子 「うん・・」

坂上 「大変だったんだね?」

恵子 「うん・・・」

坂上 「いや、実はさ、俺も責任感じてるんだよ。何しろ恵子ちゃんをこの業界にスカウトしたのは俺だしさ」

恵子 「そんな事は・・・。私だって自分でやろうって決心したんですから」

坂上 「それはそうだけど。でも俺もプロダクションから斡旋マージンもらってる以上は、ちゃんと最後まで面倒見るからね」

恵子 「坂上さん・・・」


ジープのサイドミラーに車のヘッドライトが映る。


坂上の目が鋭く光る。


坂上 「言っている側から面倒がお出ましになったな」

恵子 「え?」

坂上 「恵子ちゃん、シートベルト締めて!」

恵子 「どうして?」

坂上 「さっきから、俺達をつけてる車がいたんだよな」


ジープを急発進させる坂上。


二台のポルシェ4WDが坂上のジープを追いかけて来る。


河川敷の段差を利用して二台を巻こうとする坂上だが、ポルシェは物ともせずに追跡して来る。


坂上 「あっちもヨンクかよ! でもこっちは特別仕様だぜ! これならどうだっ!」


ジープとポルシェのオフロードでの激しいカーチェイスが繰り広げられる中、坂上はジープを急加速させて用水路をジャンプで飛び越える。


ポルシェの一台は上手くジャンプ出来ずに横転するが、坂上のジープもコントロールを誤り、土手にはまってスタックしてしまう。


用水路を超えたもう一台のポルシェが停車し、ドアからH&K MP5Kサブマシンガンを構えた男達が降りて来る。


坂上 「やばい! タイヤの影に隠れて‼」


恵子をかばいながら男達の反対側に身を伏せる坂上。


男達の放った銃弾がジープに当たって火花をあげる。


坂上の車とタイヤは防弾使用なので、かろうじて二人は被弾しない。


坂上 「岡村ハムの社員にしちゃハデ過ぎじゃねーか‼」

恵子 「あの人達は一体? どうしてこんな事を⁉」

坂上 「君に喋られると困る事があるんだよ!」

恵子 「まさか・・・」

坂上 「恵子ちゃん、助手席に発煙筒があるから、取ってくれる?」

恵子 「これですか? キャア‼」


坂上達に激しい弾幕が襲いかかる。


坂上 「こっちは丸腰なんだから、ちょっとは手加減しろよな‼」


ジープの荷台に積んであったガソリンタンクを外し、ベルトのナイフで数カ所に穴を開けると、敵の弾幕が切れた合間を狙ってガソリンタンクをポルシェめがけて投げつける坂上。


タンクはポルシェのボディに当たり、周囲にガソリンが漏れ始める。


坂上 「今だ! 発煙筒投げて!!」

恵子 「そんなの出来ないよ!!」

坂上 「いいから!早く!!」


その時、恵子の手にした発煙筒の先を銃弾がかすめ、自然に発火してしまう。


恵子 「きゃあっ‼」


恵子は思わず発煙筒を放り投げると、それがポルシェ周辺に漏れたガソリンに落ちて引火する。


燃え上がった炎は、ポルシェと男達をまたたく間に包み込む。


坂上 「ナイスピッチング!」

恵子 「燃えてる・・・」

坂上 「恵子ちゃん、ソフトボールかなんかやってた?」

恵子 「そんなんじゃ・・・。坂上さん! もう一台の!」


横転していたポルシェからグロック17を持った男が這い出して来る。


坂上 「まだ生きてやがったか!」


炎上するポルシェの側に落ちているMP5Kを拾い、構えながら這い出した男に駆け寄ると、男の頭に銃口を突きつける坂上。


坂上 「動くな!!」

男 「You are finished already・・・

(お前らは終わりだぞ)」

坂上 「You Are, Ain't it?

(それはお前だろう?)」


男がグロック17を坂上に向ける動きと同時に、男に一発お見舞いしてとどめを刺す坂上。


そこに男の携帯電話が鳴る。

それを拾って通話ボタンを押す坂上。


砥賀 「Is it done?

(済ませたか?)」

坂上 「Welldone, Sir.

岡村ハムの丸焼けがこんがりウェルダンにな」

砥賀 「・・・、坂上か」

坂上 「俺の名前を知ってる奴、誰だ?」

砥賀 「今度は直接会いに行こう」

坂上 「察しは付いてる。お手柔らかにな」

砥賀 「お前がそのオンナに骨抜きにされてなければな」


携帯電話の通話が途切れる。


燃え盛るポルシェに携帯電話を投げ捨てる坂上。


坂上 「追っ手がまた来るそうだ。

車を引っ張り出して早く退散しよう」


死んだ追っ手達の銃と予備の弾倉を回収してバックパックに入れる坂上。


恵子 「坂上さん・・・? 私、人を殺してしまったの?」

坂上 「何を言ってるんだ。ああしなきゃ俺達がやられてたんだよ?」

恵子 「そうだけど・・・、でも」

坂上 「無理もないけど、すぐに気は落ち着くよ。さあ、早く行こう」


スタックしたジープを巧みな運転で回復させる坂上。


横転したポルシェで圧死した男を横目で見ながら、


坂上 「シートベルトしとけよ」

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