第3話 シーン7〜11

 シーン7


夕暮れのとある住宅地近くの駅前。


駐車エリアに停まったジープで坂上がタバコを吸っている。


そこに駅の改札から出て来た恵子が駆け寄って来る。


ジープの助手席に乗る恵子。


恵子 「スイマセーン、坂上さん! また遅れちゃった!」

坂上 「もう、恵子ちゃん。仕事は時間厳守が基本だよ! まあ、これは半分プライベートだから良いんだけどね」

恵子 「そう言っていただけると助かりますぅ~」

坂上 「恵子ちゃんは可愛いから許しちゃう!」

恵子 「また~、ホントですかぁ~?」

坂上 「ホントですよぉ~!」


恵子に詰め寄り、キスしようとする坂上。


恵子 「ダメですよぉ~、まだ早~い!」

坂上 「もう、今日は逢うの待ち切れなかったんだよ」

恵子 「それはホテルに入ってからにしようネ‼」

坂上 「はぁ~い。オタノシミはこれからデス!」


ジープを発車させる坂上。

夜の街並が通り過ぎる。


恵子 「さむっ!! なんで坂上さんは今時ジープなんですか?」

坂上 「ゴメン! これは俺みたいなカメラマンにとって憧れなんだよ。いつかサファリに行って、夕焼けのライオンを撮りたい、みたいな」

恵子 「ライオンですか?」

坂上 「ライオンってのはさ、オスが一匹でメスを何匹も囲ってる訳。だからハーレムなんだよね」

恵子 「そんなのに憧れるんですか? 分かんないな~」

坂上 「何言ってるんだよ。恵子ちゃんだって、俺みたいな常連カメラマンさんが何人も居て、言わば逆ハーレム状態なくせに」

恵子 「そぉですけど~」

坂上 「恵子ちゃんくらい若いコは知らないだろうけど、日本の有名なハードボイルド作家がいたのよ。その人が良くアフリカでハンティングしてたんだよなぁ」

恵子 「あ、知ってますよ。最近リメイク映画ありましたよね」

坂上 「そうそう、あの男の世界に憧れるんだよね」

恵子 「憧れは良いんですけど。坂上さん、寒いですっ!」

坂上 「もうそこだよ、いつものホテル」


ネオン輝くラブホテルに入って行く坂上のジープ。


シーン8


坂上のカメラのファインダー越しに、セクシーなコスプレをした恵子の姿がシャッター音と共に映し出される。


枚数を追うごとに恵子の肌があらわになって行く・。


ホテルの灰皿に置かれたタバコが紫煙を上げている。


ベッドに全裸で横たわる恵子と坂上。


坂上 「あ、そう言えばこないだ発売になった恵子ちゃんのDVD、持って来たよ」

恵子 「え、どれですか?」

坂上 「『夜露に濡れる変態人妻 松原さとみ 30歳』」

恵子 「やだぁ~、買ったんですか?」

坂上 「しょうがないじゃん。俺が紹介した仕事なのに、メーカーさんの人くれないんだもん。一緒に見ようか?」

恵子 「エーっ!! 恥ずかしいな~」

坂上 「ちゃんと自分の出演作見て、演技の勉強しなきゃね~」

恵子 「イヤァ~ッ」


ホテルのDVDプレイヤーにディスクをセットする坂上。


大型ディスプレイに、恵子の出演しているアダルトビデオが映し出される。


坂上 「どうでもいいけどさ、なんで人妻30歳って設定なんだろうね。実際は独身25歳なのに」

恵子 「今って人妻熟女モノ人気ありますからね~」

坂上 「まあ、このメイクさん上手いから、それなりに見えなくはないけど。これなら会社や親にもバレないんじゃない?」

恵子 「だと良いんですけどね。バレたらなかりやばいし」

坂上 「これはもしもの話だけど、そうなった時にどうするかって考えた事ある?」

恵子 「え~、そりゃあ、シラを切り通しますね。私じゃないって」

坂上 「そう・・・。でも何かトラブルになりそうな時は俺に相談してね。及ばずながら力になるから」

恵子 「はい、分かりました」


ロープで縛られた恵子の肢体が過激に翻弄されている姿がディスプレイに映る。


坂上 「ほ~ら、あんなエッチな格好させられちゃって。恥ずかしく無かったの?」

恵子 「恥ずかしかったけど、気持ち良かったんだも~ん」

坂上 「いけないコ! 俺がもっと気持ち良くさせちゃおうかな~」

恵子 「アッ、ダメそこ~、あぁ~~ん」


シーン9


恵子の自宅マンションの近く。

坂上が恵子をジープで送り届ける。


坂上 「今日はお疲れさまでした。これ、今日のお礼ね。1、2、3、4、5万円っと」

恵子 「いつもすいません。確かにいただきます」

坂上 「じゃあ、次のスケジュール決まったらメールするね!」

恵子 「はぁ~い、待ってま~す。お休みなさ~い!」

坂上 「お休み!」


シーン10


マンションの階段を上って部屋へ入る恵子。


パソコンを立ち上げながら財布を取出すと、押し入れの隠し金庫を開け、中の一万円札の束を数え始める。


恵子 「50、60、70、・・・まだまだだなあ」


PCでメールチェックする恵子。


恵子 「お、来てる来てる。え~っと、何々?二時間で三万円? カァ~~ッ、ショボイけど引き受けるかぁ」


ヌードモデル撮影希望のメールに返信する恵子。


恵子 「メールありがとうございました。ご希望の条件でヌードモデルお引き受け致します。期日が近くなりましたら双方の携帯電話番号を交換しましょう。それでは、よろしくお願い致します。 松原さとみ」


服のままベッドに身体を投げ出す恵子。

そのまま眠りに付いてしまう。


シーン11


翌朝、いつもの様に会社に出勤する恵子。


だが、職場に入ると何か様子が違う。


今井係長が恵子に封書を持って近寄って来る。


今井係長 「鈴木君、これは人事課からだ。中身を確認したら私物をまとめたまえ。引き継ぎは私がやる」

恵子 「私物? 引き継ぎって、一体何の事ですか?」

今井係長 「解雇通知だよ。詳しい事は聞かない方が良いんじゃないのか?」


封書を開けて青ざめる恵子。


恵子 「解雇通知って・・・、私何もしてません!」

今井係長 「訳を知りたかったら深大寺課長に聞きたまえ」

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