第30話 テレビの影響

演奏が終了し、スタジオは暫くの間騒然となった。

 

 それはスタジオだけには留まらない。

 現在、テレビを視聴している全ての人が騒いでることだろう。

 だが、一旦テレビを通してしまうとやはり生の演奏に比べると劣ってしまう。

 それでも、テレビ越しに心を揺さぶるぐらいの演奏はできたと思い俺は少しの充実感と満足感に浸っていた。

 

 「私たちはすごいものを見てしまいました……これは何と形容していいか分かりません。」

 葉鳥さんが我に返りやっとの思いで言葉を絞り出した。

 

 「何て言えばいいんでしょう、私たちの想像の遥か先をいっていて、今はただただ蒼くんに脱帽しています。」

  

 コメンテーターの女性が驚きに満ちた顔で付け加えた。

 

 「あれは何なんですか!? 立って弾いてましたよ!そんなこと普通できる!? 蒼くん半端ないって!」

 ちょっとテンション高めの最近売れ出したお笑い芸人が興奮気味に言った。

 

 それからのスタジオは俺への質問の嵐で、大変盛り上がった。

 しかし、朝の生放送で時間を押せないので、惜しまれつつ俺は退場となった。


 この出来事をきっかけに俺の知名度は爆発的に上がり、テレビや新聞などマスコミの取材がひっきりなしに来るようになった。

 

 また、芸能事務所からもお誘いなどがきた。しかし、それははっきりと断っておいた。

 

 事務所に所属してしまえば、自由は制限されるので今後好き勝手に生きることが出来なくなってしまうし、そんな窮屈な将来は面白くないので、検討の余地はなかった。


 これからは好きな時に好きな番組に出るぐらいが丁度良いと思い、母からも了承を得ておいた。

 

 また勝手に話を進められては困るからだ。

 

 しかし、今回の母からの許可は割とあっさり貰えて驚いたが、そんなこともあるかとあまり深くは考えず、ラッキーぐらいに思っていた。

 

 実際は父親が最近の母の行き過ぎな言動を見て、これを諌いさめてくれていたらしい。


 ほんとにお父さんありがとうー!


 父は運送業者の運ちゃんをしているため、家族と過ごす時間は少なく、ほとんど家にはいないが俺のことを静かに見守ってくれている感じが今も昔も変わらず、とても感謝しているのと同時に何処か、かっこよくも感じる。


 

 それからの日々はテレビの収録のためにときどき学校を休むことが増えたが基本的には前と変わらない生活を送っていった。

 

 学校ではテレビへの露出が増えたため学校での俺の立場はものすごく異質なものとなり、孤立化の一途を辿ることとなった。

 

 このことはもう諦めることにした。


 俺は小学一年はもっと純粋できゃっきゃわいわいしていると思っていたが、一年生と言えど複雑な人間関係は存在し未成熟ではあるがヒエラルキーは着実に構築されてきていた。

 

 そんな中俺はテレビに出たり、ピアノができたりと同学年の許容範囲を超えた活動をしているため、みんな俺をどう扱えばいいのか分からず、とりあえず関わらないを決めている感じだ。

 

 多分これは俺がもっとわかりやすく凄ければ何の問題もなかったように思う。

 

 例えば、俺が運動神経がいい男の子だったとする。

そうすれば、俺はクラスの男の子からも女の子からもチヤホヤされたに違いない。

 

 これは俺が自意識過剰な訳ではなく、小学校ではいや、もしかすると中学校でも運動神経がいい奴が持てるのは自明の理だろう。


 それが運動はできないが、ピアノはできるとなると男の子たちの反応は180度変わる。

 (あと10年も経てば多分一周回って結構チヤホヤされると思うが……)


 今は運動のできが全てを支配する小学生時代。

 

 ピアノができることは何のアドバンテージにもならず、逆に女の子っぽいと笑われる要素となる。

 

 しかし、俺は神様から貰ったグッドフェイスのお陰でそこまで露骨に嫌がらせをされることがない。

 

 それにプラスしてテレビに出ていることも俺をこの超弱肉強食な世界から守る盾となっている。

 

 これらの要素が絶妙なバランスで合わさることで、俺の今の立ち位置が築かれている。

 

 俺がちょっと女の子からモテ始めたら、男の子の反感を一斉に浴びることとなる。


 俺はそんな周りに敵だらけな世界であと6年間も過ごしたくないので、小学生の間の友達作りは諦め、なるべくこの立場を守りながら、生活することにした。

 

 実際には密かに人気はありそうだが、あったらあったでピアノバカを演じて、というよりいつも通り生活して相手が冷めるのを待つだけである。


 俺が思っていた程、世界は甘くなかった。

 

 こんな大変な学校生活を無事終えて今、更に大変な社会という世界で生きている人たちには心のそこから脱帽だ。

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