第28話 テレビデビュー⁉︎
俺は舞台裏で自分の出番を待っていた。
俺の目の前ではいつもテレビで見ている光景が繰り広げられている。
司会の葉鳥はとりさんが今日もキレッキレのズームインポーズを連発している。
まさかそれを生で見られる日が来るとは......
そう俺は今、テレビ局の収録現場にいるのだ。
そもそもなぜ、俺がこんな場所にいるのかという話だが、順を追って説明しよう。
ことの発端は、一週間前に遡さかのぼる。
母さんがノリノリで記者の対応をしていた日である。
俺はその日、普段通り学校から家に帰ってくるとスーツを着た男の人と女の人が母さんと話をしていた。
俺は誰なのか疑問に思いながら、話の邪魔をしないように自分の部屋へ向かおうとすると、母さんに呼び止められた。
「蒼、丁度良かった。こっちに来て。」
俺は不審に思いながら、母さんの隣り、スーツの人達とは対面する形でソファーに座った。
「こちら、日本テレビの番組制作、企画担当の方々よ。今日は蒼に是非、番組に出て欲しいという事で来てくださったのよ。」
スーツの二人はどうやらテレビ関係者だったようだ。
しかし、なぜ俺をテレビに出したいのだろうか。
俺はよく理解出来ずにフリーズしていると、その二人の内の男の人の方が説明し出した。
「はい、私たち日本テレビで番組の制作、企画を担当しています田中と伊藤です。私達は蒼くんのピアノ演奏の噂を聞き、是非とも私達の番組に出演して頂きたくこちらに参りました。」
なるほどそういう事だったのか。
しかし、噂だけでここまでするはずもないので、裏が取れているのだろう。
俺はなんと返事をしていいか迷ってしまった。
俺としてはあまり出たくはなかった。
テレビに出て変に注目を集めてもいい事があるようには思えなかった。
それに、俺がテレビに出る事で学校で更に孤立するのが嫌だった。
学校は閉鎖的な空間ということもあり、異質な者を排除する性質がある。
これはどんなに年齢が低くても必ず存在する学校の普遍のルールだ。
俺は既に異質の存在になりつつあるが、テレビに出る事で更に周囲との関係に亀裂が入ることは避けたかった。
俺はせっかく家まで来てもらって申し訳なく思うが、断ろうと心に決めた。
その時、母さんは俺に言ってきた。
「蒼、これとってもいい話だと思わない。だって日本テレビと言ったら全国で放送されるのよ。そんなに沢山の人に演奏する機会はなかなか無いわよ。」
母さんは俺がテレビに出ることにノリノリだった。
俺は本格的に困ってしまった。
母さんが一度言い始めるとその意見を変えるのは大変だ。
それは本選で俺が意識を失った時のことからもよく分かっている。
というか、母さんは俺がピアノを弾くことに反対だった筈だが......
本当に母さんはよく分からない。
しかし、俺が出たくないと言えば渋々母さんも認めてくれるとは思うが、理由を聞かれた時に何と言えばいいのか.......
学校で孤立するのが怖いと言うのは簡単だが、言った後に母さんはとても心配する筈だ。
もしかしたら、母さんのことだがら転校させられてしまうかも知れない。
いや、絶対にそうだ。
母さんはいつも極論を選択してくる。
俺が学校で孤立するのは周りの友達がいけないからだと思うだろう。
そうしたら、転校するしかないと暴論にはしるだろう。
しかし、俺にとってはそれの方が嫌だ。
何故なら、佐々木さんと離れ離れになってしまうからだ。
では、俺はもうテレビに出演するしかないのか......
「はぁー、分かった。出演するよ。田中さんと伊藤さんよろしくお願いします。」
「本当ですか⁉︎ ありがとうございます。ではスケジュールは追って連絡します。」
そう言って田中さんと伊藤さんは慌ただしく家を出て行った。
母さんはとても気分が良さそうだ。
その証拠に鼻歌が聞こえてくる。
俺はとても憂鬱な気分だ。
もう、学校で友達を作ることは諦めた方が良いかも知れない。
もう学校が始まって、9ヶ月が経とうとしているのに友達が一人しかいない状況は俺を絶望的な気分にさせる。
それから一週間後、田中さんから連絡があり色んなことがトントン拍子に決まっていき、今俺はテレビの収録現場で自分の出番を待っていた。
しかし、俺はテレビ業界に詳しくないが普通一週間で撮影なんてありえるのか?
それとも、俺のテレビ出演は決定したものとして、前々から準備していたのか。
まあ、そんなことは考えても分からない。
テレビ収録はどんどん進んで行く。
それに伴い俺も緊張が増していくのを感じる。
人生であんなにカメラに囲まれることは一度もない。
しかも、これは朝の情報番組だ。
つまり、生放送である。
その事実が俺を否応なしに緊張させる。
こんなのコンクールの時とは比べものにならない。
番組は俺の気持ちをよそに予定通り進み遂に俺の出番がやって来た。
司会の葉鳥さんがついに俺の説明に入る。
「皆さん、今日はスペシャルゲストにお越しいただいています。何とその方は小学一年生という異例の若さで日本ジュニア、トップレベルのピアノのコンクールで一位入賞を果たした天才です。ご登場いただきましょう。佐藤蒼くんです!」
俺はそれを合図にカメラの前に出て行く。
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