第27話 日常、少しの変化

 俺は今、玄関の前で固まっていた。


 俺はいつもの様に学校に行こうと玄関を出たら、目の前にはたくさんの大人の人達がカメラやマイクを構えて待っていた。


 俺は突然のことに頭がついていかず、慌てて玄関に戻って一旦落ち着くことにした。


 なぜ、俺の家の前にあんなに人マスコミがいるのか。

 俺は考えて、一つのことに思い至った。


 それは先週行われた、全日本学生音楽コンクールの全国大会のピアノ部門で俺が一位入賞したことだ。


 これは凄く嬉しかった。


 このコンクールは主催が毎日新聞社なので、一位入賞者などは名前と学校名と学年が新聞の記事に掲載されるのだ。


 通常は新聞の記事に掲載されると言っても、小さい枠で、ピアノの小学生の部なんて本当に注意して見ていないと見逃してしまう程だ。


 しかし、今回は俺の写真が大きく新聞の一面を飾った。

 多分、小学一年にして一位入賞したことが影響しているのだろう。


 これらの所為で俺の家の前には沢山のマスコミがいるのだろう。


 こんな記事になりそうな事(既に記事になっているが)マスコミが見逃すはずもなかった。


 俺はどうしたものかと考え、このままだと学校に行けないので面倒臭いが取材を受けることにした。


 そんな時、後ろから母さんがやって来た。


 「どうしたの蒼、なんだか外が騒がしいけど......」


 「なんか、記者の人達が沢山いて、取材しようとしてるんだよ。」


 俺がそう言うと母さんは嬉しそうに言った。


 「じゃあ、私が蒼の凄いところを余すことなく伝えなくっちゃ!」


 母さんは急いでメイクをして、玄関を飛び出して行った。


 俺は止めようと思ったが、母さんはやる気満々だったので、そのまま母さんに面倒臭い記者達の相手を任せて、俺は学校に行くことにした。


 母さんがどんなことを言うのか心配だったが、一応常識はあるだろうと無理矢理思い込み、それ以上は考えないことにした。


 学校に着くと、クラスでも新聞の記事のことが話題になっていた。


 多分、親から聞いたのだろう。

 俺のことを凄いと褒めてくれる子たちも何人かいた。


 しかし、小学一年生にとって、コンクールや全国大会といったことはあまりピンと来ないものらしく、すぐに話題は昨日のテレビの面白かったことなどの話に移っていった。


 それに伴い俺の周りからも人が居なくなった。


 これを機に少しでも友達が増えたらいいなと思っていた俺の願いはあっけなく終わった。


 まあ、友達が増えても、あまり会話についていけないので良かったかもしれない。


 これが中身が30歳の辛さだと思いながら、暗い気分のまま席に着いた。


 すると、横からやや興奮気味の声で話かけられた。


 「ねえねえ、蒼くん!ピアノのコンクールで一位になったんだってね!凄いね!」  


 その声の主は佐々木さんだった。

 俺は嬉しさのあまり舞い上がりそうだったが、何とか堪えた。


 「うん、佐々木さんのアドバイスのおかげだよ。ありがとう。」


 そう言うと佐々木さんははにかんだ様な笑顔をした。


 「そんなことないよ、私、蒼くんがすっごく練習してたの知ってるもん。それに蒼くんのピアノは聞いてて楽しい気分になれる魔法のピアノなんだよ。」


 俺は佐々木さんが俺のピアノについてそんなふうに思ってくれていることを知れて嬉しかった。


 「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい。」


 そこから、佐々木さんとはたわいもない話をした。


 佐々木さんと俺との距離感はだいぶ近づいて来た気がする。


 今日のように普通に話をすることも最近多くなって来た。


 俺には数少ない友達のうちの一人で好きな人だ。

 これからも、段々と仲良くなっていきたい。


 しかし、佐々木さんの万能っぷりはすさまじい。

 頭が良いのは最早当然で、最近はピアノまで出来るようになってきた。


 というのも、俺のピアノを聴いているうちに佐々木さんも一緒に弾きたくなってきたらしく、休み時間に俺と一緒に練習する様になった。


 音楽室には2台ピアノがあったのでピアノに困ることはなかった。

 しかし、俺はコンクールもあったため、佐々木さんにピアノを教えている暇がなかった。


 佐々木さんもそれを知っていて、コンクールが終わるまで俺に教えてと言ってくることはなかった。


 しかし、佐々木さんは独学である程度弾けるようになってしまった。


 俺がコンクールを終えて、佐々木さんのピアノを弾いているところを見た時には楽譜を見れば簡単な曲ならば弾けるようになっていた。


 それをたった一ヵ月で誰にも教わらずにやってのけるあたり、本当に天才だと思った。


 俺的にはもうちょっと手取り足取り教えたかったが......


 まあ、最近の夢は佐々木さんと連弾することだ。

 そのため、最近はミッション○ ○ポッシブルのテーマ曲を練習中だ。


 そんなことをやりながら、今日も普段通りの1日が始まって行った。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る