第14話 予選、結果発表
俺はその時を固唾を呑んで見守っていた。
待っている時間がとても長く感じる。
実際はここ東京オペラシティのリサイタルホールがあるロビーに来て十分程しか立ってないのにも関わらず、俺は一時間ぐらい待たされたような気分でいた。
周囲を見渡すと、俺と同じように固唾を呑んで結果の開示されるのを待っている小学校高学年の人とその親が相当な人数いた。
皆一様に、コンクールの予選の結果が開示されるところを見ていた。
そんな緊張で張り詰めた空気が結果の紙を持った係員が現れたことで最高潮に達した。
そして、結果が張り出されるや否やあちらこちらから、歓声や落胆の声、泣き声などが聞こえる。
俺はそんな人集りをなんとか、潜り抜け結果が張り出されている紙を見て、自分の番号を探した。
予選を受けたのは80人ほどと聞いてたので、最初はそこに書いてある番号の少なさに驚いた。
番号は全部で12個しか無かった。
その中に俺の番号はしっかりとあった。
俺は全身から力が抜けるのを感じ、それと同時に喜びの感情が胸の奥から溢れてきた。
実は俺は今まで散々、イキってきたが、この予選を通過できるかとても心配だった。
なぜなら、一曲目の演奏で大暴走してしまったからだ。
あのピアノに触れた瞬間、俺は凄まじい快楽を感じた。
俺はピアノと一体化したような感覚になり、ピアノがなんでも思いのままになった。
そんな初めての感覚が嬉しく、ただただ全力で鍵盤を叩き、大きな音を出すのに夢中になってしまった。
だから、あの演奏は楽譜の指示や作曲家の意図などをことごとく無視して、力尽くで弾き切ってしまったのだ。
ピアノの形式に厳しい人だったら、俺の演奏は冒涜だと非難するだろう。
審査員の中にもそう感じる人が居れば、俺が予選を通過するのは難しくなる。
だから俺は予選が終わって、結果発表までの一週間とても不安だった。
だから俺はこの結果を見て嬉しさと同時に安堵感を感じていた。
そこへ駆け寄ってくる二つの影があった。
母さんと先生である。
「おめでとう!蒼、流石私の自慢の息子だわ!」
そう言って母さんは俺に抱きついてきた。
正直、前世とは違い美人で若いので嬉しい。
そんな姿を微笑ましいそうに、ではなく羨ましいそうに見ている先生からもお祝いの言葉を貰った。
正直、今の演奏が出来るようになったのは先生が俺のスキルを目覚めさせてくれたお陰なので少しサービスすることにした。
俺は先生を上目遣いで見つめる。
先生はそんな俺を見て、既に悩殺されてしまった様子だが、俺の攻撃はまだ続く。
「あの、先生。先生のお陰で予選通過出来ました。ありがとうございます。先生だーい好き!」
そう言って俺は先生に抱きついていった。
大人の男性がやったら犯罪だが、小学生でしかもイケメンがやると許されるというのが現実だ。
先生は感極まって、嬉し涙を流してしまった。
どうやら、俺のサービスは攻撃力が高すぎたようだ。
そうな俺たちを先程とは打って変わって母さんが恨めしそうな表情をしているので、お母さんにも大好きと言って抱きついておいた。
そうすると母さんはご満悦の様子だった。
ある程度落ち着くと、俺の気持ちは本選の方に向いた。
それは先生も同じようで先程まで光悦な表情で弛緩しまくっていた顔を引き締め、俺に聞いてきた。
「蒼くん、本選の課題曲の方はどう?」
「う〜ん、一応ある程度まで弾けるようになってるけど、まだ納得がいく演奏までは持って行けてないかな。」
「そう、じゃあ一度私に聴かせて。これから私の家でレッスンしましょう。ここで、気を抜いたらいくら蒼くんでも負けちゃうかも知れないからね。」
と言うことで、俺は予選通過の喜びに浸ることが許されず、早速本選の課題曲の練習に取り掛かる事となった。
本選は10月中旬で一ヶ月を切っていた。
ここから、また猛練習の日々が始まるのだった。
あと言い忘れていたが、俺はコンクール中に新しいスキルを取得していた。
それは本選までのお楽しみという事で。
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