第9話 スキル取得!!
ついにその時がやってきた。
それは太陽がその存在を遺憾無く発揮して、各地で猛暑日が連日続いている日のことだった。
俺の額にも汗が浮かび、背中は汗でシャツとくっつき気持ち悪い。
家からピアノ教室までの道のりは十分ほどだが、それでもこの有り様だ。
ここ最近は、気分が上向きにならない日が続いていた。
それは猛暑日のせいで、体力が奪われている事も少しは関係があると思うが、それが主な要因ではない。
コンクールまで1ヶ月を切りいよいよラストスパートのなのだが、肝心のスキルがまだ手に入っていない。
このまま、本番を迎えるたらどうしようか、とても不安でならない。
ピアノ教室に着き、冷房の効いた涼しい部屋に入っても俺の心の憂鬱は消えなかった。
そんな様子の俺をみて先生が心配そうに声をかけてきた。
「蒼くん、どうしたの?あまり、調子が良くなさそうだけど......」
まさか、先生にスキルのことを言うわけにはいかないので、少し言葉を選んで説明した。
「はい、最近ピアノがあまり上達しなくて、以前に比べたら良くなっているのは分かるのですが、先生が言っていたみたいな演奏にはまだ届かなくて......」
「あぁ、そういうことだったの。でも蒼くんは十分凄い演奏をしているわよ。あの時言ったことはそんな直ぐに出来ると思っていないのよ。もしかしたら、何十年も掛かるかも知れないことなのよ。」
俺は驚いた。
そんなに掛かることだったのか!
「だから、私はこんなに早く上手くなってきているのが本当に凄いことだと思うよ。でも、蒼くんが悩んでいるんだったら、私も協力するわ。」
先生はピアノ前の椅子に腰をかけ俺に言ってきた。
「蒼くんはあまり、他人の演奏を聴いたことがなかったよね。もしかしたら、他人の演奏を聴いて何か掴めるかも知れないから、今から私が弾いてみるね。」
先生はピアノの鍵盤の上にそっと手をのせた。
その瞬間、先生の表情が変わり、辺りを漂う空気が緊張した。
ピアノの音が鳴ると共に緊張が爆ぜ、そこに音の濁流が押し寄せてきた。
先生が弾き始めたのは、ショパン「革命のエチュード」だった。
今までの先生のイメージを根底から覆すような荒々しく、でも何処か繊細な音だった。
最初は全身を突き抜けるような右手の和音に始まり、左手は直ぐに下へ駆けていく。
この曲は1830〜1831年に起こった「11月蜂起カデット・レボリューション 」と同時期に書かれたものと言われている。
「11月蜂起」はポーランドやリトアニアで発生したロシアの支配に対する武装反乱のことだ。
この反乱には多くのポーランド人が参加したが、ショパンは体が弱かったため参加できなかった。
そして、これはロシア軍によって鎮圧されてしまう。
ショパンがこの怒りの感情を音楽で表現しようとして書いたのが「革命のエチュード」と言われている。
しかし、これにも諸説あり、今ではこの説はあまり有力ではない。
曲は勢いを増し、それにつられるようにして、先生の思いも曲を通して伝わってきた。
先生はこの「革命のエチュード」を僕が新たに生まれ変わるための、起爆剤として演奏してくれているようだった。
だから、先生の演奏はとても躍動感に溢れ、まるで何かを突き動かそうとしているように感じる。
その一方で、何処か暖かみがあり優しい印象を受ける。
「凄い...」
俺は全身に突き刺さるように音を浴びながら、そう思った。
先生はいつもは俺の演奏を聴いて、アドバイスをしてくれる程度で、あまりピアノを弾いているところは見たことがなかった。
そんなこともあり、俺は余計に驚いてしまった。
曲は最後のクライマックスに突入した。
両手で高音域から一気に低音域まで駆け降りる。
その荒々しい音の粒があらゆる所から体の奥深くを揺らす。
そして、低音の和音を力強く打ち、曲は終わりを告げた。
先生の全力の演奏を聴いて、暫くの間、放心状態でいる時それは聞こえた。
【スキル<表現力(超)>を取得しました。】
......
暫くの空白の後に俺は心の中で発狂した。
よっしゃーー!
ついにスキルをゲットできた!
そして、ここから佐藤蒼のピアノ無双が始まるのであった。
現在のステータス
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佐藤蒼 6歳 男
職業 : ピアニスト
STR (体の強さ) : 11 (1up)
DEX (器用さ) : 75(60 up)
VIT (持久力) : 12 (2up)
AGI (敏捷性) :12 (2up)
INT (知力) : 50 (38 up)
LUK(運) : 10
CHA(魅力) : 99
スキル : 才能 努力 根性 超絶技巧 耳コピ 音感 譜読み 初見弾き 表現力(超) (new)
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