第2話 プロローグ 2

 高校一年のうちにすっかり学校が嫌いになってしまった俺であるが、これでも高校は一応卒業している。


 これは俺がこの高校に入学しようと決意した理由とも大きく関わってくる。


 これを聞いたら、ひかれるかも知れないが、俺は小学生の時からずっと同級生の佐々木紬ささき つむぎさんという女の子に片思いをしていた。


 佐々木さんは小さい頃からとても優秀だった。


 同い年の子が絵本を読んでいる時には400ページはある小説を読んでいた。


 他にも掛け算を習ったばかりなのに先生と掛け算の問題を解く時間を競わせたら、あっさり勝ってしまったりもしていた。

 しかも、その頃から自分の実力を鼻にかけるような事はせず、他人に対しても優しく接していた。おまけに超絶美人(オードリー・ヘップバーン似)だったこともあり、俺はすぐに恋に落ちてしまった。



 それで、佐々木さんが高校を地元の進学校の学修陰高校を受験することを知り、俺もなんとか佐々木さんに追いつきたくて受験することに決めたのだ。


 そして二人とも見事入学できたわけだが、クラスまで一緒になる奇跡は起こらなかった。


 しかし、二年時からは文理または選択科目別の類ごとに授業が行われる。


 そこで奇跡は起きた。


 なんと佐々木さんと同じ類だったのだ。


 俺は嬉しさを感じるのと同時に二年も折り返し時期に差し掛かった今の今まで知らなかったことに少し後悔をした。


 それからは、なるべく行ける時は学校に行くようにした。

 しかし、勉強は学校を半年以上休んでいたこともあり、元々分かんなかったことがさらにわからなくなった。

 それでも、佐々木さんと一緒に居られるのも高校生の間だけだと分かっていたので、頑張って授業という苦行に耐えていた。


 その甲斐もあって、なんとか高校は卒業できた。

 しかし、その後の人生で佐々木さんと再会することはなかった。


 佐々木さんは日本最高峰の東京都大学に進学していったが俺は大学へは進学せず家に閉じこもった。


 ニートになったのである。


 ニートになってからは本当に何もやる気が起きず、寝て起きて食べては寝るということを繰り返していた。

 およそ生産性のあることは、何もせず、ただ親のすねをかじり続けた。


 今までのやる気の源であった佐々木さんは自分とは違う世界に行ってしまい、俺の前を明るく照らしてくれていた光源が失われてしまった。


 文字通り、お先真っ暗である。


 そんな生活をし始めて、12年が過ぎようとしていたある日、俺の耳に衝撃的な出来事が入ってきた。



 佐々木さんが亡くなったのだ。



 死因は癌ガンだった。運が悪く癌が発見されたときは、体の至る所に転移をしていて、手術ですべて取り除くことは不可能だったらしい。


 俺はあまりの衝撃に目眩めまいがして立つことさえままならなかった。


 佐々木さんのことは今でも好きだった。この20年間以上想い続けてきた人の死は俺がこれから先、生きていく気力を失わさせるのには十分すぎた。


 そしてそこからの行動は早かった。


 まずどのように自殺するか方法を考えた。


 そして、最適だと思ったのが崖から海に飛び降りることだった。

 そして、インターネットなどを駆使して場所を決めた。


 それが福井県にある『東○坊』だった。






****




 あれこれと過去のことを思い出していたら、太陽が日本海に沈み始めていた。


「そろそろ、俺も心の準備ができてきたな」


 そして、太陽が完全に海に沈むのと同時にこの世界から一人の男の命も海へと沈んでいった ......




****




 いくら時間が経ったのだろうか、急にあたりが明るくなり俺は目を覚ました。

「あれ ? 俺死んだはずじゃ...... 何で五体満足でこんな白い空間にいるんだ ? 」


 白い空間に突然、女性が現れた。


 俺は思わず息を呑んだ。


 その女性は、およそ人間とは思えない程整った顔に、手足はスラッと伸び、肌はきめ細かく輝いていた。


「めちゃくちゃ綺麗だ。」

 気づいたら、口から言葉が出ていた。


 その言葉を聞いてその女性は微笑んだ。


『とても嬉しいことをおしゃってくださいますね。私は女神です。あなた、佐藤蒼さとうあおい様にお願いがあって一時的にあなたの肉体と魂をこの空間に閉じ込めていています。』


 俺は驚いた。俺も様々なライトノベルを読んできたが、本当にそんな展開が起こるものなのかと。


 しかし、俺はあの時約20mの高さの崖から飛び降りたから確実に死んでいるはずだ。


 だから、ここに存在し尚且つ思考しているという状況が現実的にはありえない。


 よって、あの自称女神は本当に女神かもしれない。


「あの、女神様だったとしてお願いとはなんですか。」


 女神は少し意外そうな表情で答える。


『意外と混乱なさらないんですね。』


「まあ、少し混乱はしていますが、話を全部聞いてからまた考えた方がいいと思いまして。」


『まあ、そうですか、賢明な判断だと思います。それでは説明させて頂きます。』

 そう言って女神はここまでの経緯を話し始めた。


 女神曰く、最近の地球の、特に日本では人々が自ら命を断つことが増えてきていて、それを天界から見ている女神はとても心苦しく感じていたらしい。


 それで女神はあれこれ良い方法がないか考え、そして、思いついたらしい。


 それは人々にステータスというシステムを取り入れ、スキルなどを駆使してより人生をゲーム感覚で楽しんでもらえれば、自殺する人は減るんじゃないかと。


 しかし、このシステムをいきなり人々に導入して、もしも女神が想定していないことが起きては困るのでどこかで試験的に実施してみたいと思っていたらしい。


 そしたら、丁度いい時に俺が自殺する所を発見したので俺でその実験をしようとここに連れてきたらしい。


「そうなんですか。結構無茶苦茶な話ですね ...... まあ、仮に真実だとして、俺は何をされるんですか?」


 俺はこの女神が言った話を一応信じてみることにした。


 もしかしたら、これは俺が死ぬ間際に見ている夢かもしれないが、夢だとしてもなんだか信じた方が面白そうだと思った。


『そうですね、あなたにはステータスのシステムを組み込みもう一度幼少期から人生をやり直してもらいます。そして、スキルなどを駆使して今度は自殺をしないような人生にして欲しいんです。』


「本当ですか!? 夢見たいな話ですね! できるなら是非ともお願いしたいです。」


 そうしたら今度こそ、悔いがないように全力で生きてやる。


『ありがとうございます。しかし、本当にいいのですか? あなたが戻るのは一度自分で生きることを拒んだ世界ですが?』



「はい、確かにそうですが、俺はニートになってから毎日人生をやり直せたらどんなに良いだろうかと思っていました。そうしたら、こんなチャンスが死後にやって来て、やらない手はないです。」


 本当にやり直せたなら、部活も勉強も諦めずにやり切りたいし、今回の人生でできなかったいろんなことに挑戦してみたい。


 なんたって、ステータスと言うシステムか俺には入るらしいから、今まで目に見えなかった自分の成長とかも可視化できるのではないだろうか。


 そう思うと今からワクワクが止まらない。


 しかし、俺には一つ懸念材料がある。それは俺の顔面が終わっていると言うことだ。


 俺の顔はよくゴリラに似ていて、さらに低身長である。


 それが原因でずっと好きだった佐々木さんにとうとう気持ちを伝えることができなかった。


 そんなことを考えていると、女神は何かを感じたように尋ねてきた。


『どうかしましたか?』


「あのこんなことを言うのは図々しいんですが、女神様なら俺の顔をイケメンにすることは可能ですか?。」


『ああ、そんなことですか、もちろんできますよ。じゃあ転生した時の蒼さんの顔をイケメンにしておきますね。 他に何かご要望はありますか? 身長も上げられますよ?』


 そんなこともできるのか!? 


 高身長イケメンは長年の夢だったが、俺は少しだけこの身長に愛着を持っているので遠慮することにした。


「いえ、大丈夫です。イケメンになるのであれば十分です。」


 これは決して、低身長をバカにした奴のブロックの上からスパイクを打ちたいとかそんな歪んだ感情からではない。


 断じて違う。


『そうですか、わかりました。じゃあ、そろそろ時間になるのであとは転生してからのお楽しみということにしましょう。』


 そう女神が言った途端白い空間が歪み始めた。

 そして、それに合わせるように俺の意識も徐々に朦朧もうろうとし始め、意識を失った。



 この時、女神は蒼の素直な態度や、出会って開口一番に綺麗と言われたことで少し気分が良くなっていた。


 だから、プレゼントとしてスキルを3つ密かに渡し、顔は少しやり過ぎてしまっていた ......


 それが今後の蒼の人生を大きく変えていくことになる。

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