現実世界でスキルが使えるようになった!〜人生2回目悔いが無いよう全力で挑む〜

麒麟

第1話 プロローグ 1

 ここ東○坊は福井県坂井市三国町にあり、日本海側に位置する崖である。


 日本海に面した海食崖で、険しい岩壁が続いている。


 俺はその最も高いところから眼下に広がる白波だった海を見ていた。


 そこは、高さ約20mで海に対して垂直に切り立った崖で、海の迫力を肌で感じる。


「これでようやく、この最悪の人生に終止符が打てる。」


 しかし、この後に及んでこの凄まじい自然のパワーの前に怖気付いて、飛び降りることを躊躇している自分がいた。


「くそ、またここでも逃げるのか俺は!」


 思えば俺は、今までの30年という人生のあらゆる事から逃げてきた。




****



 俺は佐藤蒼さとう あおい 30歳のニートである。この時点で社会としっかりと向き合わず、逃げているのがバレてしまうが、俺とて最初からこうではなかった。


 小〜中学までは勉強もスポーツもそれなりに頑張ってやっていた。


 そして、高校は進学校と言われている偏差値70の学修陰高校に入学した。


 この高校はその時どうしても、入学したい理由があり、背伸びをして足をつるぐらい無理をして入学した。


 この時は、今の自分では想像できないくらい勉強した。


 元々、勉強は真面目にしていたが、特別頭が良いわけではなかった。


 こんな事を言っていると、嫌味か?と言われてしましそうだが、そうでは無い。


 三年になり、部活動を引退してからは、本当に死ぬ気で勉強した。


 親に頼んで塾に通わせてもらい、そして塾がない日は学校から家までの通り道にある図書館で閉館時間の夜10時まで勉強をした。

 そして、模試などは3年の時に受けられるものは全て受け、自分の弱い所を徹底的にあぶり出し、そこを一個一個潰していった。


 こうして、やっとの思いで合格できた。


 ここまでが俺の人生の絶頂期であった。


 高校では周りと自分との地頭の差に完全に心を折られてしまい、勉強をするのが嫌になった。

 それでも少しは弁解させてほしい。


 本当に周りの奴らは化け物だらけだったんだ。


 クラスのほとんどは、授業を聞けば大抵、応用問題まで解けるし、授業を聞かないでいつも周りの奴と雑談ばかりしている奴に限って、テストでは良い点とるし。


 頭の作りが俺とは根本的に違うのである。


 こっちは、休み時間や電車の中で英単語の小テストのために必死になってやっているのに、周りの奴らは休み時間は勉強してないし、放課後もカラオケとかで遊んでいるのに、小テストは俺より点数が高いし。


 本当に真面目にやってるのが馬鹿みたいに思えた。

 そんなこんなで、勉強はしなくなった。



 勉強だけならまだよかったが、高校の部活でも上手くいかなかった。


 部活は中学の時と同じバレーボール部に所属した。

 俺は、身長は160cmしかないもののそれをジャンプ力で補い、中学ではエースをしていた。


 しかし、高校で入部した時のポジション決めの時に身長を理由にリベロにされてしまった。


 別にリベロが悪いとは言わないが、俺はスパイクを打つためにバレーをしているといってもいい程スパイクが好きだった。


 スパイクを打つ時の地面を蹴り上げて、跳ぶ瞬間、そしてそこから見下ろす相手コート、スパイクを打った時の手に伝わるボールの感触、そして決まった時に体の中心から全身へと駆け巡る高揚感、全てが好きだった。


 それなのに、監督に身長を理由にろくにプレーも見ずにリベロにされてしまった。


 しかし、その頃の俺は自分に自信があったから、何度も監督に頼み込んだ。


 そうしたら、監督は今度やる練習試合で結果が出ればスパイカーにしてもいいと言った。


 だが、それはあまりに困難なことだということをその時の俺は知らなかった。


 練習試合当日、いつも対戦している近隣の高校3校との練習試合だと聞かされていた俺は、久しぶりにスパイクが打てることに気分が高まるのを感じながら体育館に入っていった。

 そこでは、早くに着いた高校がそれぞれ自分たちの準備をしていた。


 そこで、あまり見たことのない高校がいることに気がついた。


 よくよく見てみると、地元では強豪と言われている聖風高校だった。


 なぜこんな所にいるのか理解ができなかった。


 地元では今や敵なしの聖風が俺たちのような県内で少し良いとこにいくことがあるぐらいの高校と試合をしてもあまり、意味があるようには思えなかった。


 そして、その日俺の心は木端微塵にされた。


 あろう事か監督はその日、聖風と対戦する時には必ず俺をスパイカーのポジションにし、全てのスパイクを俺が打つように指示した。


 そんなことをすれば結果は明白だ。

 相手は格上であるし、ブロックだって、そこらのチームとは完成度が違う。


 最初こそ相手は分からないが、時間が経てば俺しか打たないことがわかる。


 そうしたら、俺に全てのブロッカーを当てれば良いだけだ。そして俺のスパイクを3枚ブロックで幾度となくシャットアウトをしてきた。


 その時のことを思い出すと今でも変な冷たい汗が体から出てくる。


 決めなければいけないと思えば思うほど、全身が力んで跳べずスパイクはブロックに叩き落とされる。 

 たとえ、良いトスに最高の状態で入れたとしても、目の前には高い3枚の壁があり、打つコースを見つけることができなかった。


 それでもトスは俺にしか上がらない。


 そんなんことを繰り返すうちにスパイクを打つのが怖くなった。


 それを見計らったように監督は言った。

「だから、お前はスパイカーには向かないんだよ。大人しくリベロをしていればこんな目には遭わずに済んだんだよ」と。

 この時、監督の口角が少し上がり、したり顔をしていたのを今でも鮮明に覚えている。


 その後、何試合かしたはずだが、記憶はここで途切れていて次に気づいたら、自分の部屋で泣いていた。



 それから俺は様々なことから逃げるようになった。


「どうせ頑張ったところで、勉強や部活の二の舞になるだけだ」


 そんなんことを思い始めると今まで頑張ってきたことが全てどうでもいい事のように思えてきた。



 そして、部活に行かなくなってから程なくして学校にも行かなくなった。


 これが高校一年の冬までの話である。

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