ミスドへ行こう(2)
くそッ、まさかあからさまにそんな態度に出ていたとは……。確かに俺は休み時間、鈴村たちが話してる内容を盗み聞きながら妄想をしていた。「もし自分がその場にいたら……」とか、休みの日の話とかしてる時も、「俺だったら……」とか色々考えてた……けども。正直、同い年なのに憧れとかあるよチキショーめ。
「沈黙ってことは当たりかな?」はにかむ委員長。
クソっ、はにかむ笑顔が眩しすぎる……。
「さっさと仲良しになっちゃえばいいのに」
「簡単に言うなよな」
「だって気になっちゃうんだもん」
「気にしなくていいよ」
「そう言われても気になっちゃうの。何で鈴村君たちと話さないの? 有栖川君の態度というか、ノリというか姿勢は、むしろ鈴村君たちに近そうな気もするんだけど……」
「そんなわけあるかよ。鈴村たちはAグループで俺はCグループだぜ? クラスの人気者と嫌われ者が似てるなんておかしな話だ。それに、俺なんかが鈴村や田中たちに仲良くしてもらえるわけがないじゃん」
「そんなの分かんないじゃない。じゃあ、私が聞いてきてあげよっか?」
「は? 誰に?」
「鈴村君に」
「何を?」
「有栖川君と友達にならない? って」
「絶対そんなこと言うなよ」
「何で?」
「何でって、考えなくても分かるだろ。俺が鈴村たちに友達になってほしいなんて言うこと自体がおかしな話なのに、鍵山さんが、有栖川君と友達になってあげてなんて言ったら、まるで俺が友達がいないみたいだし、なにより俺が鍵山さんに頼んだみたいで、増々キモいじゃん」
「何で? 別に良いじゃない、おかしなことなんてどこにもないわよ?」
「いやいやおかしいだろうよ! そんなことしたら絶対ネタにされてクラスの笑いものになるし、明日から間違いなくボッチの実績解除まっしぐらだろ! まっしぐらなのはフリスキーモンプチーで十分だよ! いよいよ教室にすらいられなくなっちまう……」
「フリスキー? じゃなくて、それこそ被害妄想よ。もし仮にそうなりそうになっても私がそんなことさせないわ」
「させないとかじゃなくて無理なんだよ。鍵山さんがどんなに学校で上手くやっても絶対に影口とかSNSとかで色々言われるに決まってる。それに、ヘタしたら鍵山さんと俺が付き合ってて、クラスに友達のいない俺のことを憂いた鍵山さんが、クラスで一番元気のあるグループに入れようとしている、なんて変な妄想書かれるかもしれないじゃん」
「私と有栖川君は付き合わないわよ! 変なこと言わないで! いきなり何言い出すのよ気持ち悪いわね」
「そ、そんなこと分かってるよ! あ、あくまで妄想の噂の例を出しただけだよ。っていうか面と向かって気持ち悪いとかさすがに胸が痛いわ……。普段の鍵山さんならそんなヒドいこと言わないのにさすがにちょっとショック……今夜は涙で枕が濡れそうだわ……」
「だ、だって有栖川君が変なこというから……! ……そうね、言い過ぎたわ……、ごめんなさい……。というか、普段の私って何よ?」
「と、とにかく! 余計なことはしなくていいから! 俺は一人でいいし、クラスに友達がいなくても別に困らないし、それに友達いるっての」
「他校の子でしょ?」
「悪いかよ!」
「いえ、悪くはないけど……。有栖川君にクラスで友達を作って欲しいから。有栖川君ワクワク友達大作戦!」
「心配してくれてどーも! というか、ワクワク大作戦ってなんだ! それ以前に、なんでそんなに鈴村たちと俺をくっつけたいわけ?」
「なんか、ふだんは斜に構えてCグループとか言ってるけど、本当は鈴村君たちみたいになりたいんじゃないかなあって思ったら、本来の有栖川君ってどんな人なんだろうって気になって」
おいおい! そんなドキッとするセリフをさらっと言うなや! めっちゃくちゃ恥ずかしいやないか!! 勘違いしてまうわ!!
俺は顔がすごく火照っているのが分かるので黙ったまま咄嗟にうつむく……。
「何? 今の私の言葉にちょっとドキッとした?」
鍵山さんがイタズラな笑顔で顔を覗きこんでくる。この女、自分の言葉を自覚してやがるのか……。何たる策士! 何たる魔性! 田中もきっとこの術に嵌められたんだな……。ああ、そういえば田中の話で思い出した。
「つーか、俺の話じゃなくて田中の話だろ」
「ああ、田中君ね」
あからさまに興味のなさそうな反応……。好意を寄せる人にこんな扱いされたらさすがにツライだろうな……。
「もちろん、田中君の気持ちには気づいてるわよ。でも、私つまらない人は嫌なのよ」
「鍵山さんって普段みんなの前で話す感じと違って裏では意外と口悪いのな」
「いえ、言葉どおりのとかそういうことじゃなくて。ほら、田中君って普段元気でわかりやすい性格じゃない? あの性格自体は私はむしろ好感が持てるのよ。自分に正直で、周りの目も特に気にせず思ったこと発言できる人だと思ってるし」
あれ? 意外に田中の評価高いのな……。
「じゃあ、何でつまらないんだよ?」
「あまりにも真っ直ぐすぎてどんなこと考えてるかとか、どんな行動取るかとか、全部先読み出来ちゃって、どんな人間なのかすぐに分かっちゃうのよ。途端につまらない男の子だなあって思ったら興味が全然沸かないのよ」
それじゃあもう仕方ないな……。田中、残念だが性格から変えないと鍵山さんに振り向いてもらえることはなさそうだぞ……。
「だから、これは傲慢でイヤな女の発言かもしれないけど、もし告白とか好意を寄せられていることを面と向かって言われた時は、丁重にお断りするつもりよ」
「なんだかんだで一応は考えてるんだな……」
「当たり前じゃない。人に好かれて喜ばない人なんていないわよ。」
「でも断るのな」
「好意がないのに付き合ったらそれこそ相手に悪いでしょ」
「まあ確かにな」
なんだかんだ鍵山さんと話していたら駅前まで来ていた。案外あっという間だったな。
俺たちは駅前の大通りに出るため、曲がり角を曲がろうとしたちょうどその時だった。曲がり角の先から声が聞こえる――。
「いけねえ! 寝坊しちまった! 遅れちまう遅れちまう! お嬢にまたドヤされるぜ!!」
距離的には近いと分かっていたものの、身体はすでに曲がる体勢に入っていたため、出会い頭で見事に声の主とぶつかってしまった。
ガッチーン!
「いてててて。すみません! ちょっとよそ見をしていました!」
相手は走って来ていたのか、ぶつかった時の勢いは結構なもので、俺は反動で尻もちをついてしまった。お尻を擦りながら立ち上がり、ぶつかった主の顔を見ようと目を前に向けると、そこには同じく尻もちをついたのか、お尻を擦りながら立ち上がるウサギの姿があった……。
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