第10話 生きたい

 お母さんのお腹の毛に入りこんだ、あの時のようなぬくもりが、サクラを抱いていました。

 再び目を覚ましたサクラは、すぐに笑顔になりました。

「ユキ、よかった。帰ってきたんだね」

 すぐ近くに、ユキの鼻があります。なぜだか、ユキの顔が大きく見えます。

「ただいま。……ごめんね、サクラ。サクラを助けたいと思って……。」

 その言葉に首をかしげた後、なるほどと合点しました。

「そっか、ユキ、大きくなってくれたんだね。それで穴をあったかくしてくれたんだ。」

 弱々しい声でしたが、サクラの声に明るさがよみがえってきました。

「そうだよ。」ふふふ、とユキはほほえみます。

 穴の中は、ユキの体でぎゅうぎゅうです。外から入ってくる凍える風をしのごうと、ユキお得意の大きくなるで、穴の入り口をふさいでくれたんです。おかげで穴の中はぽっかぽっかです。サクラの体も、ぽっかぽっかです。

「よかったぁ。」

 サクラの喜びが胸を満たして、あふれだした分だけ、涙がぼろぼろ出てきます。

「サクラ……何で泣いてるの?」

 ユキのきょとんとした顔が、少しうらめしいです。

「ねえ、ユキ。」

 サクラは真剣な面差しをします。

「ん? なに?」

「これからも、ずっと一緒だからね。ずっとずっと、一生友だちだからね。どこにも行かないで。」

 ユキはじっと、サクラの顔を見つめました。それから優しい笑顔になっていいました。

「いいよ。わたしはどこにも行かない。」

「ほんとう? 約束だからね。」

「うん。そのかわり……。」

 喜んだサクラに、ユキはいいます。

「早く元気になって、また遊ぼうね。だから、負けないで。」

 負けないで。

 その言葉が、強くサクラの胸の中でひびきました。

(がんばらなきゃ。)

 その時、サクラの中で何かがはじけたように「生きたい」という願望が、生まれました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る