第6話 ハル?

すっかり仲良くなった二匹は、たくさんおしゃべりしました。

 サクラは、自分の名前についても、教えてあげました。

「あたしのサクラはね、春のさくらなんだよ。」

「ハル? ハルってなに?」

 ユキは首をかしげます。

「春はね、冬の後に来るんだよ。とってもあったかくて、鳥さんも虫さんもいっぱい出てくるの。ちょうちょがひらひら飛ぶんだよ! それにね……!」

 サクラは途中で、口を閉じました。ユキの様子が変です。

「ユキ、どうしたの? あっ、耳がこおってる。」

「う、ううん。何でもない!」

 ユキは顔をいきおいよくふります。氷が飛び散って、まるで凍りつきそうな表情はなくなりました。

「サクラのさくらは、春にうまれるんだね。さくらはどんなものなの? 土の中から出てくるの? おいしいの?」

 ユキは早口でたずねます。

「おいしい? ぷっ、あはは。ちがうよ、ユキ! さくらは空にあるんだよ。」

 サクラは大爆笑です。

「空? じゃあ、お空の中から出てくるの?」

「あっ、まちがえた。木からさくらの花が生えるの。お花なんだよ。それでね、地面から見あげると、空にばって、ピンクの色がいっぱい見えるの。とってもきれいなんだよ。」

「ピンクのお花が、いっぱい咲くんだね。」

「そうそう。」

 やっとユキにわかってもらえて、サクラは笑顔でうなずきます。自分の説明の下手さも、自覚しているのですが。

 サクラはもう少し上手く、「さくら」を伝えたくて、考えます。

(そうだ!)

 いいことを思いつきました。

「ねえねえ、ユキ。あたしの体の色、さくらと同じ色なんだよ。」

 サクラはくるりと後ろを向いて、背中を見せます。しっぽもふりふり動かします。

 サクラの体は、波のうさぎよりも毛が少なく、ピンク色が目立ちます。

 それは、さくら色でした。

「わかった! わかったよ、サクラ。これがさくらなんだね。」

 ユキの顔がぱあっと明るくなりました。それから、ぴょんぴょんはねていいます。

「見てみたいな。サクラの色のさくら。」

「ほんと?! うれしい!」

 サクラもぴょんぴょん、ユキと一緒に飛びはねました。

 初めてです。初めて、サクラは自分の色に自信がもてました。ほんのいっしゅんのことでしたが、この色にほこりがもてました。

 ユキのおかげで、恥ずかしくなくなりました。

 胸をはって生きられる。

 唐突に、サクラにその強い思いがこみあげてきました。

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