第3話 白いうさぎ

やっとつきました。

 サクラはいったん、雪をかぶった草のしげみにかくれます。

 子どもの笑い声が、すぐ近くでします。同時に、サクラの胸の音が、ばくばくとひびきます。

 いっしゅんにげだしたくなりましたが、どうしてもあのふしぎな音が気になります。

 サクラは勇気をふりしぼって、おそるおそるしげみの影から顔をだしました。

「あっ、うさぎだ。」

 サクラは小さな声でさけびました。

 人の子三人に囲まれて、一匹のうさぎがいました。

 まっしろです。目は赤くて丸っこく、耳はうすっぺらくて緑でした。あとはすべて、きれいな白です。

「早くにげて。」

 サクラは悲鳴をあげます。

 このままじゃ危ないです。人間は危険です。

 しかし、人間に囲まれているせいか、まっしろうさぎはにげられません。それどころか、ちっとも身動きしないのです。きんちょうでガチゴチにかたまっているのでしょう。

(助けなきゃ。)

 そう思いましたが、体が動きません。足がすくんで、一歩もふみだせません。

 その時でした。子どもたちがきゃっきゃっとはしゃぎながら、まっしろうさぎをさわりはじめたのです!

(だめ! やめて!)

 止めたいのに、声もでません。

 そのうち、子どもたちはまっしろうさぎを手でぱんぱん叩き始めます。

 サクラはぎゅっと目をつぶり、しげみの後ろでちぢこまります。

 耳の奥に、人間がうさぎを叩く音が聞こえてきます。

 サクラはその音からにげるように、さらに体を固く、丸くしました。

 でも、うさぎが叩かれる音は耳の奥でひびき、サクラのむねはずきんと痛みをうったえていました。

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