色を求めて私は歌う。

阿誰青芭

色を求めて私は歌う。

鏡を見ていた。そこに映る自分の姿は、僕には透けているように見えた。



SNSが普及したことで、今までの時代だったら埋もれてきたであろう才能が綺麗に咲きほこれる時代になったと思う。それは同時に埋もれることすらできなかった凡人を掘り返すことでもあると僕は思ってしまう。

タイムラインに流れてきた初めて聞くその曲を良い曲だと直感したから、僕は最後まで聞かずにそっと閉じて「いいね」を押した。


僕には何もなかった、無色で透明だった。だから毎日流れてくる才能の塊があまりにも眩しくて、色鮮やかで、敏感な僕の五感では受け止めきれない。最初の一口をかみしめるだけで精一杯なんだ。その一口だけでも良いものであることは十分に伝わってくるから僕はいいねを押す。


そのいいねがいつか自分にも返ってくるかもしれないという淡い期待を抱きながら。



僕は音楽を作っている。今はまだ音楽というにはおこがましい、音の集合体でしかないけれど。始めたのは最近だ。何もない自分を変えたくて始めた、それが音楽である必要は別になくて絵でも小説でも良かった。ただ、なんとなく自分の作った音楽が街中で流れていたら幸せだろうなと思ったから、僕は音楽を選んだ。


音楽をやっている間だけは自分への嫌悪感を忘れられた。拙いメロディでも不協和音でも自分の中にはちゃんと何かがあるんだということを自覚できたから。それに音楽は思ったよりも理論的だった。やってみようなんて思うまで、音楽は才能あふれる人たちが魔法のような力で作っているような気がしていた、でもそうじゃなかった。


僕にもできるかもしれないと思える、それだけでその時の自分にとっては十分だった。


音楽を作り始めてからしばらくして、やっと曲としての体を為すようになってきたのでSNSに投稿してみようと思った。投稿ボタンを押す僕の親指には確かに期待がこもっていた、人生が変わるのではないかと思った。僕だけの色を見つけられるのではないかと思った。



だが、現実は甘くはない。SNSには毎日輝かしい才能たちが溢れている、道端の石ころがちょっと真ん中の方に寄ってみたとて誰も興味は示さない。きっとボタンを押す前からわかっていた、それでも認めたくなかったから蓋をしていた。


また僕の透明度が上がったような気がした。



ここで諦めていたらつらい思いはしなくて済んだかもしれない。でも、僕は諦められなかった。すっからかんの自分の中を必死に探した。


どんなに淡くてもいい、汚くてもいい、僕だけの色を。


誰か教えてほしい。今の僕は何色ですか?あなたの目は僕を移すことができますか?


透明は、嫌だ。

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色を求めて私は歌う。 阿誰青芭 @Asui-Aoba

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