第12章 父と王 3

静かに扉が開いた。

過去から呼び覚まされた王は、顔を上げた。

そこにはカイが立っていた。

あの日、ルラー・ガトを全滅させたと述べた後から、カイの瞳は冷ややかだった。

「シーの様子はどうだ?」

「元気がなさそうですね。悲しんでおられます。自分が国を救えなかったからと」

カイは淡々と言う。

「そうか。……最近のこの国は災害続きだ。お前たちが島を出た後、高潮でパール街が浸水した。シーの言う、島が沈む話は本当なんだろうな」

「あのリャオト家の血を引いています。海の占いなら、姫さまのおっしゃることが正しいです」

「そうか、もう終わりか」

王はため息をつく。その話が他人事のように聞こえて、自然の力にはどうすることもできない無力感があった。

「あれが神の怒りを買ってしまったのだろうか」

王はひとり呟いた。

「このまま民を見捨てるおつもりですか。あなたは島に住んでいる人にはいつも慈悲深く、助けの手を差し出してきた。低い身分とされる俺の族にも」

カイは真っ直ぐ王を見た。

「船はたくさん用意してある。パラリオ号を違う土地にいけるように出す予定もある。だが、人々は島は沈むといっても、中々今すぐ逃げようとはしないな」

「そもそもこの辺りの海には他の島がないですからね。全員他の土地に移るのは、不可能でしょうね。……俺たちディリ族も、この島が大好きなんですよね。たとえ島が海に沈むとしても、離れたくないんですよ」

カイはふと笑った。

「恨んでいるか、私のことを」

王はぽつりと聞いた。

カイは黙って王の顔を眺めると、言った。

「ウオ様が我々のことを助けてくださったことは感謝しています。ですが、我々の同胞にした仕打ちは、むごいと思っています。……側にいる人たちを守るだけでも大変ですよね」

「そうか」

王は一言答えた。そして、付け加える。

「カイ、シーと一緒にパラリオ号に乗って新しい土地へ移住してくれないか。お前にならシーのことをたくしたい」

カイはゆっくりと首をふった。

「それは、昔俺が言ったことですよね。もし姫さまのことだけを助けたいなら、自分が姫さまの盾となってどこまでも逃げることができたのに。幸せにすることができたのにって」

懐かしむ顔でカイは言う。

「でも、姫さまはもう子供ではありませんよ。失敗しても、国を守ろうと王族の使命を持って行動されてます。サンと共に。二人をシャルのように、自由に羽ばたかせてあげたらどうですか」

王はじっと聞いていた。

「若者は、自分たちで決断できます」

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