最終章 私たちの故郷 2
「サン、先に行って」
「いや、俺も行く」
ゆずらないその態度に、シーはあきらめて一緒に行く。
執務室を抜け、その奥、母さまが最後に使っていた部屋に入ると、そこにウオがいた。マリンの死んだベッド脇に立っている。
「お父様、島が沈んじゃう! 一緒に逃げよう!」
シーはその背中に声をかけた。
「シー、まだいたのか。早く行きなさい、日が昇ってしまう」
ウオは焦ったようにシーの背中を押す。
「待って、最後にお父様と話したいの」
シーは父親の顔を見上げた。何年もの間、こうして一緒に話すことなんてなかった。小さい頃は、望遠鏡を星で見たり、したのだけど……。いつのまにか、ウオと話す機会は少なくなっていった。
「本当は、ずっと話したかったの。お父様と。でも、忙しいだろうなって思って、中々話しかけれなくて。もっと話したかった」
いつ望遠鏡をまたのぞきこめるのかな、とたまに背中を遠くから見ていた。
「すまない。ふがいない父親で。私はマリンと一緒に、空からシーのことを見守ろう。たとえ海の下だとしても、目をこらして、望遠鏡で海をのぞいて、シーを見ているよ。星の光も、海に届くだろう」
「お父様、最後にぎゅっして」
まるで駄々っ子みたいな言い方だが、それでもかまわない。父親にもう一度抱きしめてもらえた時、シーは幸せを感じたのだった。
「シー、行こう」
サンが時間がきたと告げる。うっすら空が明け始めようとしているのが、今は怖い。
「お父様、これあげる。私と、母さまと、お父様でおそろい」
シーは薄桃色の貝を、ウオに手渡した。
二人は城を飛びだした。城扉を開け放ち、トンネルに入った時、ウオの声が聞こえた。
「サン。太陽よ。ルラー・ガトの少年よ。娘をよろしく頼む! シー。海よ。行きなさい。そして幸せになりなさい」
だんだんと遠のくその声が、トンネルの中でこだました。シーは歯を食いしばり、その声を耳に残す。
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