第13章 わだつみ 2
もう一度目が覚めると、そこはもう夢の中ではなかった。でも、フォポの甘い味は、シーの口の中にかすかに残っている。
窓のカーテンが風にめくられ、はためいている。その中に、ふっと人影が映った。
考えるよりも先に、シーは窓へと駆けよる。カーテンがふわっと浮き上がる。シーはその中に飛びこんだ。
「サン」
勢いよく駆けこんだシーの体を、サンが受けとめる。
「シー、よかった。ぶじで」
「ヤドは? 元気?」
シーは急いで二人の安否をたずねる。海の泉で気を失った後は何も覚えていない。
「あの後シーとカイだけがパラリオ号に連れ去られた。俺とヤドは最近帰ってきたばっかだ。それで……フネさまは」
サンがうかがうような視線を向けたので、シーは言った。
「ばばさまは今、私を空から見守ってくれてるの」
サンはそうか、とうなずき、窓の外を見る。
「時間がない。波が引いてきている。数時間後には波が島を覆うだろう。これが最後のチャンスだ。最後まで、一緒にあがこうぜ。運命に」
シーははっと顔をあげた。
「ついてきてくれるの?」
「あたりまえだろ。今まで俺はシーと一緒に戦ってきた。これからもだ」
サンはそう言うと、シーの髪をなで、何かを留めた。
「これって」
シーは目線をあげてその髪飾りを見た。
「俺が作ったんだ。真珠のものとかわりに」
そうサンの声がする。
数珠つなぎの小粒の真珠が二本耳から垂れ、その上にピンクの珊瑚と母さまとおそろいの貝殻が、花咲くように飾られている。
「サン、ありが……」
お礼を言いかけ、髪飾りに釘つけられていた視線を離すと、サンの紅の瞳に貫かれた。
「シー。俺と結婚してくれ。これが終わったら、一緒に暮らそう。シャルリーの島の人々と」
一瞬、言われたことが信じられなかった。シーはまじまじとサンの顔を見つめた。その澄みきった瞳が、本当だと告げている。
「うん」
シーはうなずいた。そしてもう一回うなずいて、抱きついた。
「ありがとう、サン」
声がふるえて、ふるえて、どうしようもない。うれしさが、のどの奥にこみあげてきた。
サンは太陽のようにあたたかくシーにほほえんだ。
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