第12章 父と王 1
シーは部屋のすみっこで、ひざを抱え泣いていた。
(だめだった……)
シーの願いは確かにわだつみさまにも届いた。
しかし、わだつみの答えは期待していたものではなかった。
「その願いは叶わん」
頭の中で、その言葉がくりかえされた。まるで、静かな寒空に吹いた、一笛のように、美しく響きわたる。
「なっ、なぜですか」
シーは唇をふるわせ聞く。
頼みの綱はわだつみさまだ。これしか道はない。ここで失敗したら……。考えれば考えるほど頭が真っ白になる。
「叶わん。天地の変化は決まっておるのだ。星が生まれた時から、運命は定まる。それをお主らが覆すことなどできない」
必死の思いで願っても、わだつみさまの答えはかわらない。
「でもっ。じゃあ。……シャルリー国が海に沈むことは、ずっと昔から決まっていたのですか。過去にシャルリーが海に無駄な血を流したことは、関係ないのですか」
「そうだ」
目の前が、真っ暗になった。
残酷だ。あまりにも残酷だ。
私という小さな存在。運命という巨大な力。
なぜ、私たちはそんなものに支配されなくてはいけないのか。
いいや、元から知っている。
嵐のかぎづめ。海へでて戻らぬ人となった漁師。飢餓。渇水。母親を奪った流行病。
すべて運命だ。
自然という大いなる力だった。私たちはそれと共にずっと生きてきた。これからも生きていかねばならない。
シーの考えはとりつかれ、なお離してはくれない。何度も反芻される思考。
深い深い泉の底へ落ちていきたくなった。目の前が真っ暗で、何も見えない中、本当に暗い底へと沈んでいくような気がした。
(ああ、これがばばさまの目なんだ)
そんな時、シーには不思議とばばさまのことを思いだした。こんな暗い中で生きていたんだなあ、と。
暗い闇を、永遠と落ちてゆく。
そして、意識はぷつりと切れた。
目が覚めると、ここにいた。シャルリーに戻っていた。
すべてが夢のことのように思えた。もしかすると、本当に夢だったかもしれない。
非現実のようなキラキラ輝く旅。つきはなされた運。
どちらもありえないくらい、冗談みたいだ。
(私はできなかった。もう何もできない。みんなでがんばったのに。みんなで……)
シーはくやしさに涙を流しつづけた。
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