第11章 幻の島 1
「ったく。あいつどこ行ったんだよ」
サンが座礁した船を蹴ったくる。一月前に誕生したばかりの船は、もう海をすべることはないだろう。船の骨骨が散らばり、入り江に吹きよせた悲しげな一陣の風が、帆の切れ端をそよがす。
シーが見つからぬまま、三人は嵐をのりこえ幻の島に着いた。シャルが群れていたこと、サンの腕輪が輝きだしたことで、すぐにここが目的地だとわかった。島では白い山がそびえ、山を果実の実る木々が囲っていた。これがシャルがよる楽園と呼ばれるのも納得だった。大勢の鳴きわめくシャルに迎えられて、スピカ号はこの島唯一の入り江に漂着した。
「やめろよ。蹴ることないだろ」
ヤドはサンと船の間に割ってはいる。サンのいらだちもわかる。それでも、彼が愛情をこめて作った船を蹴ってはほしくない。この船の上で一ヶ月過ごしたヤドにとって、スピカ号が唯一の“家”と呼べる場所だったから、その思いはなおさら強い。
「お前が逃がしたんだろ。あんな嵐で。……スピカみたいになってるかもしれないんだ。今すぐ助けにいこう」
「むちゃだ」
ヤドはいう。
「俺も助けに行きたい。だが、まずは船を直さねば」
カイが名乗りでるが、その思いさえ踏みにじるようにサンはカイをにらんだ。
「そんな時間はない。俺が一人でいく」
サンが身一つで海に飛びこもうとするのを、ヤドが小さな体で必死に止める。
「だからサン。僕は待とうって言ってんの。シーは約束したんだ。僕に。後で合流しようって」
「あんな嵐の後で、そんな簡単に会えるわけない。時間がないんだ! 人の命ってのは、数秒で変わってしまうんだ! だから……俺が」
二人の意見は真っ向に食い違う。サンがヤドをどけようと押しのけたが、それだけでヤドの軽い体は吹きとばされた。
「二人とも、けんかはやめろ」
カイが止めに入り、ヤドの体を起こした。
「ごめん」
サンは青ざめた表情で謝った。そこには少し冷静になった様子が見てとれた。
しかしヤドはそっぽを向いた。じっと一点をうるんだ目でにらんでいた。
その時、鳥の鳴き声が甲高く響いた。
「カモ、モメ」
ヤドが顔を上げ、二匹のシャルに目をとめる。山の中腹からを飛びこえてやってくる。その後ろ、山の裾から青い髪の少女が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます