第10章 鳥の示す旅 2

旅だって、一ヶ月ほどが経った。

「嵐だ!」

 サンの大声で目が覚める。もう昼だ。強い日差しが小屋の隙間から射しこんでいる。

(また大気がぴりぴりしている。うぅ、暑い)

 額に手を当てると熱かった。ぼんやりしたまま外にでる。

 船ではみんなが慌ただしくしている。物を船底にしまい、帆を畳み、船首を波にたてる。

 シーは手伝おうと思って、だが視線がある一点で止まる。

「青い、カメ」

 見たことがある。そうだ、夢の中ででてきたカメ。シーを見ている。

大きいカメだ。海の色にとけこんでいるが、たしかにいる。青の目がシーをじっと見ている。

 シーは近よっていった。船縁に立ち、手をのばしたとき、カメの姿はふいにかき消えた。

「どこへ行ったの?」

 必死に目をこらすと、がしっと背中をつかまれた。

「姫さま、中に入っていてください。大きな嵐が来ます。危ないです」

 そのままつままれる。

「ちょっ、離してカイ! カメがいるの、青いカメ」

「はいはい。そうですか」 

「いいから! 離して!」

 なぜかそのカメに会わなきゃいけない気がした。これを逃したら二度と会えない気がした。

「おい、何やってんだよ」

 サンがやってきた。

「サン、青いカメがいるの。私会いにいってくる」

「はあ?! 何言ってんだ。今から海は荒れる。こんな時に飛びこんだら死ぬぞ」

「そうですよ。おとなしくしてください」

 カイはシーを小屋の内側に入れると、縄をとりだしシーの腰を床の丸太との間に結びつける。そしてヤドも捕まえる。

「おわあっと。……カイさま?」

「この縄をその木に結びつけろ。海に落ちないためだ」

「はい! わかりました!」

 ヤドは嬉しそうに縄を受けとる。

 カイは外に飛びだしていった。残されたのはヤドとシー。どうやらカイとサンは嵐の中で舵をとるようだ。

 ヤドが腰に縄を巻き始めた反面、シーは自分の縄を解き始める。

「おかしい。ほどけない。カイのばか」

 シーは頬をふくらませると、床にうつぶせて海の様子を見る。波が高い。遠くからどでかい暗雲がやってくる。シャルは消えていた。本当に嵐が来たようだ。海の力もますます強くなる。波が荒れ、強風が吹き始め、シーの髪をさかなでる。

 シーは水面をじーっと見る。

「あっ、いた!」

 青いひれが一瞬目のはしにうつった。本当に青い。というよりかは水の色だ。水でできたカメ。

「ヤド、ナイフもってない?」

「ん。もってるけど。ほらよ」

 ヤドは腰からナイフをとりだした。シーはナイフを受けとって、急いで縄を切る。

「なあ、行くのかよ」

 シーが縄に苦戦していると、ヤドがシーからナイフをとって切ってくれた。

「うん。あのカメに、会わなくちゃいけないの。海がそう言っている。今は海の声にしたがいたい」

 ヤドは眉を下げて、笑みをつくった。

「シーらしいな。がんばれよ。後でちゃんと合流しろよな」

「うん」

 二人で拳と拳をこんと合わせた。

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