第9章 出航 4

 花畑を抜け、草原をつっきっていく。

「お母さんのお墓、よらなくていいのか」

走りながらサンがいう。

「もうよったから大丈夫。カイは?」

 町にさしかかる。裏道や階段を駆け走る。

「カイが港で待ってる。スピンもだ。急ごう、もうすぐ鳥たちが飛び立つ」

「鳥?」

「話は後で」

 サンはびゅんびゅん飛ばしていく。シーはひっぱられるまま必死でついていった。

 デイリの村の横を通る。そして防波堤にでた。その上を二人で走り、船着き場の隅に着いた。

「おうい。姫さま」

「イロ! どうしてここに」

 そこで二人に手をふる人物はイロだった。

「見送りをしに。無人の港から出航するなんて寂しいでしょう。さあ、ほら乗って。じき夜が明けちまう」

 イロが手で示した先に、船があった。

 海の上に船がゆらいでいる。やわらかい木ででき、船体が二つなげられた。三角の帆が月光に輝白色をしていた。

「これは。……サンの船」

「ああ、そうだ。完成したんだ」

 サンが隣でいう。

さあ、とサンは船の方へ手を広げる。

「姫さま」

 船の上に、二つの人影がある。

「カイ」

シーは声を弾ませる。

 急いで船に飛びのった。ぐらっと足下がおぼつかないが、後から船にうつったサンが支えてくれた。

「よし、全員集まったな」

 サンが甲板に、腕を組み立つ。

「ぼくも忘れないでよ!」

 船底の方から別の声がした。水面からイルカが顔をだす。

「スピン! スピンも来てくれるんだ!」

「ようし、これで全員集まったな」

 サンが少ない船員の一人一人の目を見る。最後にシーの目を見て、うなずく。

「俺が船長だ。兼航海師、進路を決め、舵をとる。カイが料理担当、スピンは食料調達」

 スピンが元気よく返事をした。自分の役割を理解したらしい。それからサンはシーを見る。シーは期待に目を輝かせてサンを見つめる。

「……シーは。えーっと」

「まさか、私だけ役目ないの」

 そう聞かれて、サンは焦ったように頭に手をやる。

「だってお姫さまだろ。何かできることあるか?」

「何でもできるわ。……教えてもらえれば」

シーは大々的に自負する。

「じゃあ雑用な」

「ええっー。何それ」

シーはしょんぼり肩を落とす。

(針路を決めるとか、魚釣るとか、そういうかっこいいこと考えてたのに……)

「しょうがないだろ。雑用だって大事な仕事だ。俺たちを支えてくれ」

「そろそろ鳥がいく。島の人間に気づかれる前にでよう」とカイ。

「そうだな。縄を外そう」

 サンはこれで話は終わったと言わんばかりに持ち場へと行く。

 がたんと音がして、船が動き始めた。

「姫さま、良い旅を。航海が無事に進むように、シャルリーで祈っております」

 イロが港の端から声叫ぶ。いつもは屈強で強面な漁師なのに、今は目をうるうると泣き叫んでいる。

「イロー。いってきます!」

 すぐに立ち直ったシーは、イロに手をふる。イロは大きく手をふりかえしてくれた。

 帆が大きくふくらんだ。カイが櫂をこぎ始める。ヤドはその側で小さな櫂をこぐ。シーとサンは二人で甲板に立った。

「さあ、出航だ!」

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