8-6:蒼衣の魔導師 サフィリア
――――――
サフィリアは――白と灰色の『封印の間』に立っていた。
おそらく、記憶を
次にヴェルデグリスから手を離す時は――魔女として覚醒する時か、命を落とした時だ。
目の前では――白黒の世界で、
眼前には巨大な青白い炎を
モノクロの世界で、炎だけが鮮やかな青色に染め上げられている。
『アコナイト!
ローザが叫ぶ!
『終わりです! 魔女サイザリス!』
全身の皮膚が破け散り、骨が砕け、肉が焼き尽くされる激痛が全身を襲う!
一瞬の収縮を
サフィリアの小さな身体が――
ゆっくり、ゆっくりと……
やがて彼女の身体は、音を立てて暗い水の中へと落ちた。
遥か上――
「まただ……? また感じる……この変な感じ…………」
激痛に
だが、すぐにサフィリアの意識は闇の底へと沈み始めた。
魔女の
ここに
散々カラナに迷惑をかけた。
余計な
瞳を閉じ、ヴェルデグリスから手を離し――
その時だった!
――――いいえ! 足掻くのです! ――――
「!?」
再び聞こえた”ヴェルデグリスの声”に、サフィリアは目を開ける。
視界は
目の前には――唯一色づく、ひと
――――カラナが、泣いています!――――
「……カラナ」
激痛が走る腕を、紅い宝石へと伸ばす。
水を
見慣れた自分の腕――――。
その腕が――目の前に浮かぶ、紅く輝く光を掴む。
意識が、次第に澄み渡って行く。
失われた記憶の中で、どこか
サフィリアは目を閉じる。
今まで見た記憶の断片が――繋ぎ合わさって行く。
ある一点に
目の前には、空中に捕えられたローザの姿……。
ローザの身体から魔力が赤い
無色だったヴェルデグリスが、ローザの魔力を吸収して鋭い輝きを放ち始める!
『わたくしの魔力を……封じるつもりですか!?』
『その通りじゃ!』
こちらに背を向けて立つサイザリスが高らかに叫ぶ!
『これがわらわの切り札! 魔力を封じ込める魔導石、名付けて”ヴェルデグリス”よ!』
ヴェルデグリスに、サイザリスが
「――――!?」
眼前に立つ、魔女の背中を見つめて……
サフィリアが感じていた、違和感の正体がはっきりする!
最後の最後、サイザリスはローザの放った火球に押し潰された。
あの痛みと、苦しさは間違いなく自分が味わったものだ。
ならば
目の前に立つ
――この時、この瞬間。魔女の背後に立っていた
「
ゆっくりと……横を振り向く。そこにはローザの魔力を吸収して真っ赤に色づいたヴェルデグリス。
その結晶構造に、サフィリアの姿が反射している。
その姿は、見知った自分の姿ではなかった!
「……
その姿は、
激しく鼓動する心臓を両手で抑える。
『さあ! お前の出番じゃ!』
「!」
振り向いたサイザリスに、呼びつけられ、身体が前に進む。
魔女が
魔女は空いた手で自身の金髪に手を伸ばすと、一束を握って引き千切った!
どこかで見た光景!
そうだ、フィルグリフで見た、『ゴーレム』を造る
伸びたサイザリスの腕が、握った髪の毛ごとサフィリアの胸に突き刺さる!
「きゃ……ッ!?」
ヴェルデグリスに反射した、彼女の姿が激しく変形し――見慣れたサフィリアの姿――
同時に――――!
一緒に反射していたサイザリスの姿も崩れ落ち、真っ黒な塊となって形を失う。
『わらわにとって姿かたちなど意味はない。変えることも戻すことも意のままよ』
どこかで聞いたセリフを繰り返しながら――漆黒の塊の中から――ローザの姿をした”もの”が
目の前で起きている事が信じられず、サフィリアはただただ絶句する。
女神の姿を纏った
『まさか……わたくしに成り代わるつもりですか!?』
『その通りよ。お前の国は、今日からわらわのものじゃ』
顔を恐怖に引きつらせ、ローザが叫ぶ!
『アコナイト! 目覚めよ! アコナイトッ!』
だが、壁に叩き付けられたアコナイトは目覚めない。
必死の叫びも虚しく――ローザの姿が紅い光の粒子になって、ヴェルデグリスに
『さあ、わらわが得意の
その腕から、膨大な魔力の雷撃がサフィリア目掛けて撃ち放たれた!
「きゃあッ!?」
"
だが、魔女と『ゴーレム』では、力量の差は圧倒的だった。
『アコナイト! 目を開けなさい!』
ローザの声で、
「…………ッ!」
『知識は貴女の方が上。それは認めましょう』
ローザ
『
柄ではありませんが、その地力の差で強引に押し返させてもらいます』
「そんな……ッ!?」
『いまです! アコナイト!』
『おおッ!』
「!?」
振り向けば――眼前に迫るアコナイト!
「きゃああああッ!」
袈裟懸けに斬り裂かれるサフィリアの身体!
胸から脇腹まで――深く長い裂傷が走り、血しぶきが舞った!
『終わりです! 魔女サイザリス!!』
一瞬の収縮を経て―――視界を青一色で染め上げる爆炎が炸裂した!
――――――
二度と戻れぬ闇の中に、引きずりこまれて行く!
せっかく、すべてを思い出したのに……!
せっかく、魔女の呪縛から解放されるかも知れないのに……!
サフィリアは、カラナを裏切った……!
消え行く意識の中で、必死に願う!
「お願いカラナ! もう一度、サフィリアを信じて……ッ!」
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