6-4:近づくヴェルデグリス
地面に落ちたレイピアを左手で拾い上げ、憎しみに満ちた眼差しを
肩で大きく息を吐き、痛みのせいか怒りのせいか、その眼に涙が溜まっている。
「おのれッ!」
普段の
「ヴィオレッタ様!」
奥でカラナと
彼女らから見ても無謀な攻撃に映ったのだろう。しかし、ヴィオレッタは聞く耳を持たない。
サフィリアの直前で、レイピアを振り上げる!
だが、見逃す
死角となった右腕の、何とか残った人差し指の先端に魔力の
二人のあいだに割って入ったクラルが、組み上げた”
利き手でない左腕で突き出されたレイピアを軽くあしらって、サフィリアは冷静に氷弾を一撃、ヴィオレッタの胴に叩き込んだ!
鈍い音が響き渡り――ヴィオレッタの左肩を氷弾が貫通する!
赤い血に
ヴィオレッタの表情が
これで彼女は両腕の自由を失った。
「勝負あり……だね?」
牽制の構えを崩さぬまま、サフィリアはヴィオレッタを
「違うわ、サフィリア!」
響くカラナの声!
その言葉の意味を理解する前に――――
「そうですね。違います……」
頭上から聞こえる冷静なヴィオレッタの声。
その右腕に作られていた魔力の塊が、クラルの目の前で弾ける!
無論、”
状況を理解する前に、腹部に重い衝撃を受ける!
「がはッ!?」
想定外の一撃に受け身を取れず、サフィリアはまともに石畳の上を転がった!
痛みが広がる腹を押さえ、頭を振って顔を上げる。
そこには――蹴りを撃ち込んだ姿勢で構える、クラルの姿!
「クラル……何をするの!?」
問いに彼女は答えない。
その
「……
ようやくその単語が、頭に浮かんだ。
ヴィオレッタが右腕に生み出した魔力の塊。あれは、攻撃のための
そのヴィオレッタは大量の
「……さぁ、わたしの『ハイゴーレム』よ。傷を
「分かりました」
ヴィオレッタの
「クラル!」
叫んで彼女を制する!
だが、もはやサフィリアの言葉は彼女に届かず、わずかな時間でヴィオレッタの傷が復元して行く。
元のかたちに戻った右手を何度か握って満足そうに
ゆっくりと立ち上がると、ヴィオレッタとクラルが、サフィリアを睨みつけた。
「クラル、目を覚ましなさい!
カラナが
ゆっくりと、サフィリアに歩み寄る。
「
後ろに下がりながら、クラルを牽制するサフィリア。
「断っておきますが……」
「わたしの意思ひとつで、その
「……っ!」
「クラルが壊されるぐらいなら……サフィリアは自分で頭を撃ち抜くよ!」
震えた声で
腕も大きく震え、標準はまるで定まらない。
そうこうしている内に無言で差し出されたクラルの右手に――サフィリアは目をつぶって錫杖を差し出した。
サフィリアに――自分の頭を撃ち抜く勇気はなかった。
「行きましょう……」
クラルの左手を握り、ヴィオレッタに
大聖堂の扉の前で闘っていたカラナを見る。
彼女なら、クラルを破壊するか……?
だが、カラナも攻撃の手を
「おや……意外ですね?
「……色々事情があるのよ……!」
ヴィオレッタの問いかけに、カラナが吐き捨てる。
そのカラナに、生き残っていた『ゴーレム』たちが光弾を差し向ける。
が、その動きをヴィオレッタが腕を上げて制する。
指示に従い、”
「彼女はサイザリス様の
左手で大聖堂の扉を指差し、こちらへどうぞと言う風に道を譲る。
「…………」
カラナが黙って大聖堂の扉を開く。
深夜の冷えた空気が充満する大聖堂の中を、四人が歩く足音が
「そこで待ちなさい」
ヴィオレッタが
“マギコード”を組み上げ、魔導石に青い光を
カラナですら、ローザに教えられるまで知らなかった『封印の間』の入口を、当たり前の様に開けて見せる。
「もう聞いてしまうけれど、やっぱり元老院の中に協力者がいるワケ?」
「我が教団の情報網を甘く見ないでいただきたい、とだけ
シスターや『ゴーレム』に、周囲の警戒を指示し、『封印の間』へは、サフィリアとカラナ、クラル、そしてヴィオレッタの四人のみで降りて行く事になる。
ヴィオレッタに
クラルはサフィリアにぴったりと寄り添っている。仮にカラナがサフィリア奪還の
暗闇の階段に、
やがて
ゆっくりと開いて行く扉の向こうから差し込むのは鮮烈の深紅――――。
怒りと憎悪の
カラカラの
サフィリアの身体は恐怖でもはや動かない。
「一応、念のために
ヴィオレッタが腰を
「――
サフィリアには、その言葉は聞こえていなかった。
何を言ったの? と言う表情で見つめ返されたヴィオレッタが、軽く息をつく。
「そうですね。今は欲張らず、サイザイリス様に、ヴェルデグリスを触れていただきましょう」
クラルが、サフィリアの肩に手をかけ前へ進むように
ゆっくりと一歩一歩、ヴェルデグリスに近づいて行く……。
真っ赤に輝くヴェルデグリスは、まるで燃えている様だ。
実際には輝いているだけで熱を発している訳でもないが、近づけば近づくほど、身を焼かれてしまう恐怖に包まれる。
誰も気が付かなかったが、ヴェルデグリスの光に
その背後にぴたりと着くクラル。
肩越しにサフィリアの腕を取り、ヴェルデグリスに触れる様に促した。
涙に
「ヤだ……! イヤだ!
ちからを込めて抵抗するが、クラルはまったく
「お願い、止めてッ!」
サフィリアの泣き叫ぶ声と同時に――その指先がヴェルデグリスに触れた――――!
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