4-6:窮地
最後の最後で――!
頬を汗が伝う。
ゆらりと構えた二体の『ゴーレム』を前に、クラルは舌打ちした。
最後まで気を配っていた
だが、幸いにして相手は意思を持たないただの『ゴーレム』。『ハイゴーレム』であるクラルには逆らえない。
「二人とも……わたしに道を開けなさい!」
だが、クラルの言葉を意に
『ゴーレム』たちはケタケタと笑い続ける。
「!?」
心に動揺が走る!
…まさか、アナスタシス教団の
そんなものがどうしてこんな町中に…!?
ニタニタ笑う『ゴーレム』の
攻撃を開始するつもりだ!
「させない!」
瞬時に”マギコード”を組み上げ、両手を前に突き出す!
放射された魔力が不可視の衝撃波となり、『ゴーレム』を十数メートル先の表通りまで吹き飛ばした!
「!」
風に揉まれ空中で不規則に投げ飛ばされるが、
『ゴーレム』はすぐさま体勢を立て直し、着地する。
だが、これでいい。
クラルは空いた『ゴーレム』との距離を埋めるかの
杖を構え、迎え撃つ『ゴーレム』!
しかし、ギリギリのところで地面を強く蹴り、彼女たちの頭上を飛び越える!
「!?」
こちらの行動が意外だったか、一瞬『ゴーレム』の動きが止まる。その隙にクラルは全速力で表通りを駆け出した!
すぐさま、『ゴーレム』も裏路地から飛び出し、低い姿勢で追撃を始める!
教団の真横で暴れられ、騒ぎになる最悪の事態はこれで避けられる。
「お願い! 追って来ないで!」
肩越しに再度呼びかけるが、『ゴーレム』たちの動きにまったく変化はない。
クラルを”獲物”と
やはり、この二体はアナスタシス教団の
何故こんなところで遭遇したのか分からないが、戦うしかない様である。
だが、勝てるか――!?
クラルの表情に深い焦りの色が浮かぶ。
クラルは彼女たちの上位種『ハイゴーレム』である。
だがそれは指揮系統の話であり、単純な戦闘能力では『ゴーレム』の方が上だ。
――いや、それどころか
だが、こうなってしまった以上やるしかない!
走りながら魔力を組み上げ、手のひらに複数の"
振り向く勢いに乗せて、一体に向けて集中砲火を浴びせた!
鋭い円弧軌道を描いて複数の光が
張り巡らされた"
「……!」
唇を噛んで、裏路地へ逃げ込む。
「今のがダメなら……どうすれば!?」
追撃はなおも緩む気配がない。
逃げおおせる事は不可能だろう。
歩き慣れない街を闇雲に走ったせいで、自分がどこにいるのかまったく分からなくなってしまった。
――いや。
視界に広がる街並みの向こうに、山の
少なくとも、カラナ達が待つ下町の宿屋とは正反対の方向に走っている事は確実だ。
だが、今さら方向転換は出来ない。
「どうしよう……! どうしよう……!?」
詰まれた木箱の隙間を縫い、ホウキや木材の束を崩し、狭い路地を右に左に駆け抜ける。
直線に走れば、背中に魔法を撃ち込まれてしまう。
行く手はT字路。
どちらへ曲がる!?
勘に任せて右へ! ……だがそれが裏目に出た。
向かった先は袋小路! ゴミ捨て場となっている。
目の前に高さ数メートルの壁がそびえる。人間ならば、ここで追い詰まるが……。
クラルは、壁を蹴って跳躍した!
一気に二階の高さまで飛び上がり、窓のひさしに足をかけ、さらに高く舞う!
しかし――!
彼女を狙って地上から、無数の"
「くッ……!」
何とかかわそうともがくが――空中で身を
数発の"
大気を震わす炸裂音を響かせ、爆炎が漆黒の空に広がった!
「きゃあああッ!」
静まり返った夜空に甲高い悲鳴が響き――クラルの身体が炎と煙を上げて民家の屋根に落下する。
「痛……い……っ!」
激痛に耐えながらに上体を起こす。
見ればローブは燃え墜ち、露出した背中から右肩にかけて肌が真っ赤に溶けて焼け
震える唇で回復魔法を詠唱し――手のひらに組み上がった淡い光を、背中の傷口にあてがう。
しかし、すぐさま屋根の上に『ゴーレム』たちがよじ登って来る!
傷を
ふらふらと屋根を駆け上がり――反対側の大通りへ身を投じる!
が、追い詰められて完全に冷静さを失っていた。
閃光が煌き、不用意に飛び上がったクラルの背中に再び"
「ぎゃあッ!」
大通りの石畳に血と肉片がびちゃりと飛び散り――その上にクラルが倒れ落ちる。
少女の右半身は背中から大きく抉れ、筋肉の下の骨さえ露出している。
右腕はもはや動かず、口から大量の血を吐き散らす。
それでも、彼女の身体は――まだ動いた。
よろよろと立ち上がり、ふらつく足取りで大通りを
意識は
ただ目に映るままに道を選び、小道をふらふらと抜けて行く。
しかし、それもここまで――目の前にはまたしても行く道の無い壁が待ち受ける。
背後に輝く光を察し――それが『ゴーレム』たちの"
クラルの身体は無意識に走り、眼前に迫った壁を跳躍して飛び越えた!
壁に"
着地とも言えない体勢で地面に落下する。
何とか立ち上がるクラルの前に、『ゴーレム』が降り立ち、行く手を
降りた先は意外と広い敷地で、石造りの頑丈そうな数階建ての建物が立ち並ぶ。
民家や商店の
攻撃をかわして逃げる経路はいくらでもありそうだが、それは身体が万全ならの話である。
ちからなく壁にもたれかかる。壁にべったりと血のシミが広がる。
ずるりと、地面に座り込むクラル。
サフィリアやカラナであれば、ものの数秒でケリが着く相手に、何と惨めな事か……!
「……ちくしょう……!」
じりじりと間合いを詰めて来る『ゴーレム』。風に乗って"マギコード"が耳に届き、樫の杖の先端に"
涙の溜まった目をぎゅっと閉じ、覚悟を決める。
光弾の空を切る音とともに、クラルの身体が震え――
耳を貫く炸裂音が闇夜に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます