2-5:あなたの名前は……
深く、本当に深くカラナはため息をついた。
そしておそらく、この少女はそれを実行出来る。
天才とか言うレベルではない。
そんな事が出来る魔導師がいたら、海の向こうからでも
「なら、この場でやって見せて」
拘束具も勝手に
カラナもこの少女がどこまで出来るのか、見てみたい気持ちもあった。
「任せて!」
「さ、こっちに顔を向けて」
言われた通りに身体をサフィリアの方へ向け、『ハイゴーレム』は目を閉じた。
サフィリアが床に置いてあった
彼女も目を閉じて”マギコード”を組み立て始めた。
錫杖の魔導石が強く
流れ出る魔力の構成イメージを見落とさぬ様に、カラナは神経を集中させた。
だが、その理解は
サフィリアの扱っている魔法はそれほどまでに高度なものだった。
"魔導石"は、その結晶構造に
これを"マギコード"と言う。
で、この結晶構造は、魔導石ごとに
魔導師は、自分好みの魔導石を自分でチョイスし、自分好みの"マギコード"を自分で組む。
以上の事から、そこら辺にあった魔導石を、ぱっと使う事は
そんな常識を無視する様に、サフィリアは見たのも聞いたのも初めてだろう、アナスタシス教団の暗号文を、次から次へと解きほぐして行く。
やがて―――『ハイゴーレム』が
目を開くふたり。
「終わった!」
にっこりと
何か変わったかな? と言う表情で額の魔導石をこすりながら『ハイゴーレム』もこちらを向いた。
「たぶん、これでもうこの子は誰の命令も受け付けない
「…………」
こんな簡単に出来て良いものなのか?
「じゃあ……」
「あんたは、アナスタシス教団の『ハイゴーレム』かしら?」
「はい」
あっさりと『ハイゴーレム』が
間違いなく
彼女たちは
この為、"彼女"たちは、何も
つまり、今の『ハイゴーレム』の答えに嘘はない。それは間違いない事である。
「……何であたしの質問に答えるの? 別に答えなくたって良かった筈でしょ?」
「わたしへの
真っ直ぐにこちらを見つめ、答えて来る。
相変わらずに見える無表情にも、どことなく意思がこもっている様にも見えた。
「ね? これでもう、この子がその
だからね! お願い!」
サフィリアに、両手を合わせて頼み込まれ、何の事だったか一瞬分からず、疑問符を浮かべてしまう。
「……そうね。その『ハイゴーレム』を見逃してやって欲しいって話だったわね」
赤毛の頭をかいて、ため息をつく。
普通ならば、有り得ない話だ。が、
「……分かったわ。 うまく行くか分からないけれど、どうにか話を着けてみるわ」
「ありがとう!」
無邪気に笑ってサフィリアは『ハイゴーレム』に
「そう言えば貴女の名前は何て言うの?」
「わたしに名前はありません。お好きにお呼びください」
「そっか……それじゃあねぇ……」
腕を組んで
しかし、良い名前が思い浮かばなかったらしい。そこで――
荷台から身を乗り出し、辺りを見回す。
「カラナ! あの
「ん……?」
身をよじって
飲み薬の原料としてよく使われる薬草だ。この時期は白く小さい花を咲かす。もっともこんな道端に生えている野生の草など、そのまま飲んだら腹を
「あれはなんて名前の花?」
「……クラル
「よし! 貴女の名前は”クラル”にしよう!」
やっぱり……。
言うと思ったのである。
「あたしの
しかし、名付けられた本人はまんざらでもないらしい。
「いえ……良い呼び名をいただきました。ありがとうございます」
「えへへ……!」
深々と頭を下げ、礼をする『ハイゴーレム』――もといクラル。鼻の下をこすり満足げな表情を見せるサフィリア。
そのサフィリアにしっかりとした
「今より、貴女様をわたしの
「え……!? いいよ、そんな
「しかし……」
クラルに向けて、手を差し出す。
「ご主人様とかそう言うのは無しに、お友達になりましょう?」
驚いた表情を見せるクラルだが、サフィリアのこの調子にも慣れて来たらしい。
「はい。よろしくお願いします、サフィリア」
差し出された手を握り返し、握手する。
そんな二人を悪くない気分で、カラナは見つめていた。
苦笑いしつつも、頭の中では、クラルの事をどう
「ふたりとも。首都テユヴェローズが見えて来たわよ」
「おお!」
馬車はちょうど、小高くなった丘の上に差し掛かり、眼下に首都の街並みを迎えていた。
コラロ村から丸二日。
まもなく夜を迎える首都は無数の家々の
「大きい街だね」
サフィリアが楽しそうにはしゃぐ。
もっと近づけば、街並みは詳細に見えてくるだろう。
今は遠くに
その人物は、テユヴェローズの文字通り中心にいる。
今回の一件、果たしてその人物がどう裁定するか。
少しの不安を抱きながら、眼下に広がる首都の街並みに目を細めた。
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