2-2:少女とゴーレム
首都テユヴェローズに本部を置く、この国の
最高指揮官アコナイトの
かつて魔女サイザリスとの内戦において
本来ならば、内戦終結と同時にその役割を終え、解散となってもよさそうなものだが、騎士団が存続している理由はただひとつ。サイザリス
「なんで、『ゴーレム』ってその魔女がいなくなっても動いてるの?」
首都テユヴェローズへ向かう
『ハイゴーレム』の移送任務は馬車で行われる。
編成は三台。
二台は部隊の人間が寝泊まりする
もう一台は『ハイゴーレム』を輸送する為の牢馬車である。
作戦にあまり人数は
牢馬車向かって左側の守りを、カラナ(とサフィリア)が担当していた。
自分の
「『ゴーレム』の頭には魔導石が組み込まれていて、これに人間を攻撃しろって言う
「ん?」と疑問符を上げてサフィリアが首をかしげる。
「じゃあ、『ハイゴーレム』を何で首都まで連れて行くの?
さすがに鋭い。やはりこの
「サイザリスは消滅したけど、その後を継いだ
『アナスタシス教団』。
彼女らは自らをそう名乗っている。
首都テユヴェローズに堂々と本部を構え、魔女サイザリスを教祖と
何を信じようと、それは本人たちの勝手なので問題ない。
問題なのは彼女らがサイザリスの
今回、コラロ村を襲撃した『ゴーレム』も、教団が差し向けたものである
『ゴーレム』の大半は、サフィリアの言う通り
過去にも同様の出来事はあり、何度も抗議してはいるが、のらりくらりとかわさてしまう。
そもそも、アナスタシス教団が
「それでも、一応は抗議に行く
証明できないからって何も言わずにおいてたら、あいつらを
「さっきちらっと見たけど『ゴーレム』って女の子の姿をしているんだよね?」
「そうよ。結構
一説によると、サイザリスの死んだ娘だか孫娘だかがモデルになっているとか……」
『ハイゴーレム』が押し込められている牢馬車の荷台に視線を向ける。
中は当然見えないが、きっと無表情な顔で
「カラナ隊長、間もなく中継地帯に到着します」
前の
コラロ村からテユヴェローズまでは約二日。
道中の街道は整備されており、等間隔に休息を取る中継地点が
森林の中に広場を作り
日も
「中継地帯に着いたら各自野営の準備。警戒も
日がとっぷりと沈んだ頃には野営の準備が整い、中継地帯で
無論、ピクニックではないので警備と休憩、各班に分かれてである。
ベロニカの班が食事をしているあいだ、カラナは牢馬車の裏に回り、真っ暗な森林の中を見つめてた。
不意に馬車の影からサフィリアが顔を
ベロニカたちの班と一緒に食事を摂らせていたはずだか?
「『ゴーレム』さんに食事持って行ってくれってお願いされた」
「あら、ご苦労様」
パンと水の入った水筒を手に、荷台へ上がろうとする。
「サフィリアが渡してもよい?」
一瞬、曲がりなりにも一般人のサフィリアにやらせて良いものか迷ったが、『ゴーレム』はしっかりと拘束している。仮に何か仕出かそうとしても、体調が改善したサフィリアの敵ではない。
「いいわよ。でもあまり余計なことはしないでね?」
「わかった」
一緒に荷台に登り、鉄扉にかかっている南京錠を外す。
重い音を立てて牢馬車の扉が開かれた。
鋼鉄の骨組みを木枠で囲って造られた荷台の奥に、『ハイゴーレム』は
サフィリアが慎重に近づいて行く。
「こんばんは。ご飯だよ?」
隣にしゃがみ込み、『ハイゴーレム』に声をかける。
一応警戒し、入口から見ているカラナは腕の魔導石に意識を集中させた。
隠した右腕に、制圧程度に威力を抑えた光弾を創り出す。
『ハイゴーレム』が顔を上げ、髪で隠れていた顔がランプの光に照らされる。相変わらずの無表情である。
「…………」
サフィリアの顔をじっと見つめる。
初めて見る顔に『ハイゴーレム』と言えど違和感を覚えたのだろう。
下水道の戦いで一度顔合わせしているが、あの時はサフィリアが顔を隠していた。
実質的な初顔合わせである。
「……ありがとうございます」
鎖で
「……留置場ではあたしの質問に無視を決め込んでいたクセに、相手が子どもだと愛想が良いわね?」
様子を見ていたカラナは思わず皮肉を返した。
「そんなことないよね?」
『ハイゴーレム』の肩を叩き、サフィリアは満足げにこちらへ戻って来た。
「きっとカラナは騎士団の
少女にフォローされ、つい皮肉った自分を反省した。
サフィリアの言う通り、『ハイゴーレム』は自分の事と関係のない食事の話だから反応したのだろう。『ハイゴーレム』がカラナとサフィリアで区別する理由はない。
鉄扉を閉め、
「カラナ隊長」
ベロニカが声をかけて来る。
「見張りを交代しますので、お休みになってください」
「わかったわ、じゃあ六時間後に起こしてちょうだい」
ベロニカと馬車の見張りを交代し、地面に飛び降りる。
「じゃあサフィリアも一緒に寝る」
「わかったわ」
サフィリアの肩に手を回し、寝床となっている馬車に連れて行く。
荷台に乗り込み、すでに寝入っている他の部下たちの横に毛布を敷き、二人は寝入ることにした。
サフィリアの言う通り、『ハイゴーレム』は武装しているカラナだからこそ警戒しているのだろう。
だが先ほど、サフィリアから食事を受け取った『ハイゴーレム』は礼を言うに留まらず、わずかに笑みさえ浮かべていた……様に見えたのだ。
気にしすぎかな……?
納得の行かない感覚に包まれたまま、意識は次第に眠りへと落ちて行った。
***
メンバーの半数が眠りに落ち、残りのメンバーが見張りに立つ。
静まり返った森の闇の中から――牢馬車を守るベロニカに向けて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます