1-4:瀕死の少女
「カラナ、もっと胸の辺りを照らしてもらえる?」
リリオの指示通り、手のひらの上に生み出した"
捕縛した『ハイゴーレム』の拘束は部下に任せ、カラナは下水道で助けた魔導師――この少女を
もうずっと意識が戻らない。少女のケガは思っていた以上に深刻だった。
顔こそ傷ついておらず酷く汚れているだけだが、服を脱がせ
胸が上下しているため、かろうじて息があるのは分かったが、瀕死の重傷だった。
先日の『ゴーレム』との戦いでついた傷――と言う訳ではなさそうである。
だとしら、こんな重傷の身体で、あの戦いを繰り広げたと言うのだろうか?
「助かりそう?」
「分からない。何とか頑張ってみるけど……!」
深夜にも関わらず、リリオはすぐさまカラナの自宅に駆けつけてくれた。
カラナのベッドに寝かされた少女の治療を懸命に続ける。
ずれた眼鏡を直し、
傷口は魔法で
「全身の
カラナ、タオルを交換して」
血で真っ赤に染まったタオルを受け取り、真新しいタオルをリリオに渡す。
「こんな女の子に酷い! 誰がやったのかしら……!」
リリオは誰に聞かせるでもなく独白を繰り返しながら、少女の傷口をひとつひとつ塞いで行った。
***
カラナは、このコラロ村の出身である。
父親は首都テユヴェローズで
彼女の実家は村の東側にあり、やや年季が入っているが
少女を治療していたのは、二階にある彼女の部屋であった。
治療が終わり、少女の
静かに自室の扉を閉め、リリオとともに一階に降りる。
降りた先はリビングがあり、部屋の中央のテーブルにひとりの
テーブルの上には火の
「お母さん、まだ起きていたの?」
「あんな傷だらけの子どもを連れ込まれて、寝れる訳がないじゃないか」
視線を手元に落としたまま、ブランカは答える。
「ごめんなさい。他に思いつかなかったの」
カラナとリリオが並んでイスに腰かけると、ブランカは視線をふたりに向けた。
「謝ることじゃない。あんたは良い判断をしたよ。
あんな素性の知れない女の子を診療所や
リリオに向き直り、頭を下げる。
「ありがとうねリリオ。こんな夜中に無茶を言って来てもらって」
「いえ、医師の
村人の治療にひたすら専念したその晩に、今度は瀕死の少女の治療である。よく集中が切れないものだと感心する。
「それで、大丈夫なのかい、あの
「身体の傷はすべて治しました。しかし、意識が戻りません。最悪このまま……と言う事も」
「そうかい……」
ブランカが腕を伸ばし、針を引いて糸を深く編み込む。
「これはあの
……とりあえずここまでかな?」
上着を
上着と同じ素材のズボンに、これまた上等な
そしてテーブルの脇に立てかけられた
銀の本体に金のレリーフがあしらわれ、先端には大きな
一方で、それ以外の持ち物は極めて簡素だった。
と言うより、持っていたものと言えば小指の先ほどの大きさの赤い宝石。アクセサリーと言うよりも何かの破片と言う粗削りな代物だ。
金銭や食料などはまったく持ち合わせていない様子である。
「それじゃあ、わたしは騎士団の宿舎に帰るね?
あの
「ありがとうね」
玄関から出て行くリリオを見送り、ふと壁の時計を見る。
短針は朝の四時を回っていた。
カラナの時間を気にする仕草に疲れを感じ取ったのか、ブランカが二階へ戻る様に指で
「お前も少し休んだらどうだい?」
「大丈夫よ。あの
「無理するんじゃないよ。あたしは一足先に休ませてもらうわ」
母親に
扉を閉め、机の下のイスを引っ張り出してベッドの横に移動させ、そこに座る。
窓から射す月明かりに照らされた少女の顔は、まだ血色が悪く苦しそうだった。
「……何とか持ち直してくれればよいのだけど……」
少女の
「しっかし……まさかあの魔導師がこんな女の子だったとは、驚きね」
実力から言って、
無論、魔法は完全な才能であり、年齢の高い低いは、実力を
この
だが、同業のカラナでさえ、やはり実力と年齢の不釣り合いに驚いたのだ。
魔導に精通していない一般人の受ける印象はそれ以上だろう。
逆さまに座ったイスの背もたれの上で腕を組み、
第一に、この
そして、しばらくは少女の存在を村人たちから隠した方が良いだろう。良くも悪くも
まだ報告を上げていないが、村長ローレルも同じ判断をする
「……何はともかく、まずは目を覚ましてもらわないと……」
すやすやと寝息を立てる少女の顔を
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