第30話 決着 転生者VS守護神


 だからスペルが使えなくなっても生き残れるように剣と槍、弓をひたすら皆が寝た後一年半ぐらい毎晩何時間も我流で勉強した。とりあえず相手が使うと考えられる武器を未來から聞き主流であるこの三つの武器は毎晩死ぬ気で練習した。そして一年も必死で練習するとそれなりの実力になった。


 ここでもし自分の武器による攻撃が通用しなかったらと考える。そして考えた結果、相手が使わない武器の扱いを思いついた。しかし斧や片手剣等思いつく武器を色々と試したが何かしっくりこなかった。そこで影はゲームであった両手剣と武器を使わない武術を練習することにする。


 両手剣用の剣は剣技を身に着けた影にはリーチが短く扱いづらかった。どうせ我流ならと試しに普通の剣を二本使い練習してみると案外これがしっくりくる。左手での剣はとても扱いづらかったが半年もすればかなりの実力になっていた。勿論一緒に練習していた武術も子供の頃の経験を活かし頑張った結果満足いく形になっていた。丁度その時がこの世界に来て一年と半年ぐらいの時期であった。


 この日を境に修行をしなくなる。いや正確には出来なくなったと言った方がいい。この時期、村に張っていた影の探知結解に沢山の狂暴化した野生動物や偵察隊の守護者の侵入が一気に増える。瞳の村だけならまだ良かったが他の四つの村にも同じように狂暴化した野生動物や偵察隊の守護者が侵入してきた。時間をかければ巫女達が張っている探知結解に侵入者が探知されるのでその前に手早く毎回終わらせていた。


 瞳の村の村人達がこれを知ってか知らずか村を守る結解の強度を最終的には半年かけて段階的に他の村の四倍にしてくれと無茶を未來に言ってくる。未來の負担を増やすわけにはいかなったので影がその分の負担の大部分をすることにする。そして昼間にお昼寝をすれば未來に夜中に何かしていると勘づかれる可能性があったので不眠不休の生活をする。その解決策として影の変わりに探知結解に誰か入ってきたらすぐに教えてくれる者として使い魔を龍脈の力を使い五十匹程使役した。使い魔の種類は蜘蛛にリス、蛇、鷹と様々な種類の動物にした。これにより使い魔の知らせがない限り夜は寝る時間の確保に成功する。


 しかし二日に一回は何処かの村の探知結解に狂暴化した野生動物や偵察隊の守護者が侵入してくるので寝られるのは二日一回程度だった。襲撃があった日は未來が起きるギリギリの時間まで使い魔と自分の目で周囲の状況確認と情報収集に徹した。


 勿論そんな無茶をしていれば身体の体調が崩れるので龍脈の力を使って無理やり健康状態を維持していた。そのせいか影の龍脈の力は回復するどころか朝日が昇る度に減っていった。自分の龍脈の回路と巫女五人の回路を持つ影の龍脈の力の総量は巫女五人の総量より少し多いぐらいなのは知っていた。それが毎日減っていく。いずれは龍脈の力が先に尽きて死ぬ事は分かっていたが、それを言えば未來がどのような行動にとるか想像がついている影は中々言えずにいた。


 むしろ色々と身体も心もボロボロの影としてはもう死んでもいいとさえ思っていた。それだけ影にとってはこの世界に来て辛い半年となる。だけど毎日笑顔でいる未來が抱えている物に比べればまだ自分は辛くないと自分を励ましていた。そして影の龍脈の力が尽きる前に未來が影の全てを村の民達に話してしまう。


 これにより影はもっとも自然な形で死を回避する。

 そして祈りの村の巫女である詩織の元を訪れる。


 影が知っている事の中でも今必要な事だけを全て詩織に伝える。

 村を出て残りの三つに村に行こうとするが詩織に止められてしまう。

 時間が遅い事から詩織が残りの村には影から聞いた事を勇者の使者を向けて伝えるから今夜一緒に寝よと言われる。そして影が今まで被って来た仮面を見事に見透かされた。夜を一緒に共にしお昼過ぎに詩織と一緒に瞳の村に行く。影としてはもう戻ってこないつもりだったが一緒に行ってくれないと詩織が行かないと言い仕方なく一緒に行く。


 そこで五人の巫女達と再会する。そしてこの世界で初めて人間の姿でお風呂に入る。巫女である五人は男である影に裸を見られても恥じらう所か、逃げようとする影にえりかが悪戯したりそんな可哀想な影を見て未來が身体を洗ってくれたりと人の温もりを感じた。更には影の長い髪の毛を未來が乾かしてくれて、その乾かしている間に詩織が夜食を食べさせてくれたりもした。


 次の日は突然の守護神達の予定より早い進軍に皆で協力して瞳の村の民の避難をする。そして勇者を中心に民を他の村で分担して匿う事にする。そして巫女達が勇者を守る為に逃がしたように影も巫女達を守る為に一人で敵軍に立ち向かう。巫女達の話しでは影が死んでも時間さえあれば最強転生者を再び呼べる事を聞けたので死ぬ事に心配はしてなかった。


 転生者にとって本来は召喚者の命令は絶対、敬語は当たり前で生活の自由はほとんどないはずなのに、影には色々と好き勝手にさせてくれた巫女達のお礼になれば正直影にとっては自信の命なんて安かった。だって影は長い間辛かったがたった三十時間程度だけだったかもしれないがこんな自分を暖かく受け入れてくれた皆にとても助けられていた。だから最後は未來や詩織に怒られても一人で行って全てを終わらせるつもりだった。それが影なりに一生懸命考えた恩返しだったから。


 だからこんな影の事を好きと言ってくれた未來や詩織そしてえりかには影みたく女の子をすぐに心配させて泣かせたり、不安にさせたり、怒らせたりする人とじゃなくて、巫女である未來達を一人の女の子として見ていつも側にいて幸せにしてくれる人と幸せなって欲しかった。


 しかし影は完全な状態でなかったため、自分の頭の中とズレが生じてしまい守護神二人に追い込まれる。せめて片方だけでも影の残りの全ての力を使い封印し時間を稼ごうとする。しかし巫女達が近づいてきている事に途中で気づいた影は相手の龍脈の力を少しでも減らす方向性にシフトする。やはり世界は一人の為に都合よく出来ていないらしく影は命の危険に関わる所まで龍脈の力を使い巫女達が来るのを待つが数秒持ちこたえられずスペルが身体に被弾する。


 この瞬間死を覚悟する。


 結局全てが中途半端なってしまって後悔したが、瞳の村を巫女達が破棄しこの場から離れればすぐに他の村の攻撃はしてこないだろうと影は思った。四つの村を攻撃するには被害が大きかったからだ。影によって進行部隊が守護神二人だけになりその二人もかなり龍脈の力を使っているとなれば回復の時間がどうしても必要となる。あとはその時間を使い影から巫女達の回路を抜き取り、新たに最強転生者を召喚すれば影の中で全てが上手くいく予定だった。最強転生者と言えば一人しかいない感じがするが、最強転生者とは転生者の中でも最強クラスと言う意味である。だから別に影の変わりは世界中の過去と未來を探せばいくらでもいる。


 しかし影と同じくお人好しで優しい五人の巫女はここまで勝手に色々と動いて言うことを一切聞かない影を見捨てる所か最後まで影を助けようと頑張ってくれた。

だから影も覚悟を決める。


「おい、お前に見せてやる!」


 影の頭の中では今までの出来事が走馬燈のように蘇り再生されていた。

 だけどこれでいいと思った。

 だから覚悟が決まった。


「何をだ?」


「俺のオリジナルスペルの一つだ!」


「オリジナル?」


 影の言葉は今まで巫女を安心させる為の優しい言葉でも冷静沈着な声でもなかった。ましてや甘えた声でもなかった。その声は今まで影が心の内に隠していた熱い闘志を反映させた迫力があり感情が表に出た声だった。五人の巫女は影がここまで感情的だとは思わなかった。今までは五人に素の影を見せた、その事実だけでも巫女達にとっては大きな躍進となっていた。しかしそれはあくまでプライベートな話しであって戦場ではやはり違う。


 二年間影が巫女達の為に私情を極限まで切り捨てていた為に誰も気付けなかった。本当は誰よりも死ぬのが怖くて臆病で弱虫でお人好しな影が最強の転生者と言う仮面を被り続け五人の理想に近い存在であろうと一生懸命に頑張った偽物の影。影が弱気な事を言えば巫女達や勇者に動揺が走ると考えた影がただ強がって一人芝居をしていただけ。しかし覚悟を決めた影にはそう言った今まで沢山あったしがらみが全てなくなっていた。


「俺はまだ負ける訳にはいかないんだぁぁぁぁぁぁ」


 影は雄たけびをあげながら両手に持っている剣を男の守護神に向かって全力で投げる。そして右手の手のひらに黒い魔法陣を展開する。そして男の守護神が二本の剣を空中で切り落とし意識が剣に向いた瞬間に一直線に向かって飛ぶこむ。男の守護神が影に気づいた時にはもう遅かった。影は手を伸ばし男の守護神の身体の前にしスペルを使う態勢になる。


「「「「「かげーーーーーーーー」」」」」


 五人の巫女が影の名前を叫ぶ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


 雄たけびと共に近づいた影は最後の力を振り絞り叫ぶ。


「スペル黒炎王!」


 その瞬間影の手のひらに浮かんでいた魔方陣から黒い炎が高密度の龍脈の力と一緒に発射される。そして男の守護神の身体は黒炎により燃えて灰になる。


「俺の勝ちだ」


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