第29話 第二ラウンド 転生者VS守護神
男の守護神が四人の巫女達に向かって本気の殺意を向ける。
「お前達よくもやってくれたな」
その言葉に四人が覚悟を決める。女の守護神は気が動転していてしばらく戦えないように見えたが男の守護神がそれを見て激怒している。先ほど詩織とえりかの戦闘で神のスペルを使い龍脈の力が残り僅かであったが、憎悪と一緒に膨れ上がっていく。
「詩織どうする?」
えりかが詩織に判断を委ねる。ここでまいが詩織の変わりに答える。
「どうやらこちらも間に合ったみたいよ」
まいの言葉と同時に四人の前に未來が姿を見せる。
「未來!」
四人の声に未來は背中を向けたまま男の守護神だけを見ている。
「皆遅くなってごめん」
「影は無事なの?」
有香が未來に聞く。
「大丈夫。意識も戻ってるわ」
未來は有香の言葉に背中を向けたまま答える。
ここで未來を見た男の守護神が話しかけてくる。
「今更お前が来てもお前じゃ俺には勝てない。死ね」
その言葉と同時に男の守護神の龍脈の力が更に上昇する。
「スペル氷の一撃」
スペルを使うと同時に手に弓を生成し氷の矢が放たれる。未來は男の守護神の目線の先から狙いが未來ではなく後ろでまいの膝で倒れているえりかだと判断する。躱す事は出来なくなった。
「スペル結解」
未來のスペルが使用され炎をった大きくて分厚い結解が巫女五人の前に出現する。それを見て男の守護神が氷の一撃を連射してくる。氷の一撃は次々と結解に触れると同時に炎によって溶けていく。しかし溶ける前に結解にぶつかってしまう物もあり、結解は最後の氷の一撃で消さけれてしまう。
「ほう。少しはやるようだな。しかしお前の龍脈の力はもう殆ど残ってないみたいだな」
「えぇ。貴方の言う通り私には龍脈の力がほとんど残ってないわ」
「そんな状態で何故戻って……」
急に男の守護神がいきなり言葉を失う。
「お前はこの先にある村までの往復と今のスペル以外龍脈の力を使っていないはず。そして最初その巫女達といた時に龍脈の力はほぼ百パーセントだったはず。仮に影を回復させたとしても九割近く消費するはずがない……」
影はやはりこの男は怒りに支配されず冷静に状況を判断する男だと敵ながら褒める。
「お前は何に龍脈の力を使った?」
男の守護神が次のスペルで決めるつもりか全ての力を一点に集中させる。
「龍脈の力の受け渡しと言ったら分かるかしら?」
未來が不気味にほほ笑む。影はこの間もギリギリまで未來から龍脈の力を貰う。
「まさか……いや影は瀕死だったはず。仮に外傷の回復をしても龍脈の力を戦闘可能な分までこの短時間では不可能……となるとお前のはったりかもしくは他の何かに使ったわけか」
そう影は普通の転生者と違い普通のやり方ではこの短期間で男の守護神が言うように回復させることは不可能。最初は巫女である未來ですら龍脈の力の受け渡しに苦労した。しかし未來は初めてにしてそれを成功させ今も継続して行っている。今も割れる程、頭が痛くなりそうなのを必死に我慢し常に六人の力の波長に自分の龍脈の力を変換し六倍のスピードで受け渡しをすれば常識では不可能でも可能になる。
未來は今の状況を見て影を連れて来たのは正解だったと思っている。もしあの場で影を止めていたら皆が目の前にいる男の守護神に殺されていたかもしれない。
「道化師巫女死ね」
男の守護神がスペルを発動する。
「スペル白銀のベール改」
何もなかった空中に氷の薄いベールが辺り一面に沢山出現する。そしてベールに小さい魔方陣が次々と何個も模様みたく広がる。全てのベールに魔方陣が展開されると巫女五人に向かって冷気のレーザーが勢いよく襲う。
その瞬間詩織とまいの呪符が宙に舞う。
「お願い発動して……スペル結解」
巫女五人を燃え盛る炎の壁が円状になって出現する。神のスペルや上級スペルにおいて詩織とえりかは火を得意とし、まいと有香は雷を得意としている。勿論それ以外の属性も使えるがスペルの精度だけで言えばやはり得意属性は一味違う。この瞬間詩織は二回目の神のスペルを使い体内の龍脈の力が十パーセントとなった。詩織がスペルを使う上で必要な龍脈の力は有香とまいが一部を補填する。補填した有香とまいも詩織と同じく体内の龍脈の力が十パーセントギリギリとなる。
男の守護神の懇親の一撃を詩織と有香とまいの結解で防ぐ。
「くそ……しぶとい女どもめ」
その言葉に影が答える。
「そうだな。でも俺はそんな人達の事が好きだけどな」
その言葉に男の守護神が戸惑う。影の龍脈の力は普通に考えたら戦闘が出来るまでの力を回復していないはず。そして近くに龍脈の力は感じられない。
未來が声を高くし口角をあげてほほ笑む。
「最初に言いましたよ。『貴女の言う通り私にはもう殆ど龍脈の力はのこってないわ』とね」
その言葉にここにいる全員が反応する。
未來の巫女装束から毛並みが揃って可愛いハムスターが姿を現す。
「後はお願いね」
未來は手のひらにいる影に向かっていつもの笑顔を向ける。
「あぁ」
そして影は人間の姿に戻る。
「さぁ始めようか。憎悪で得た龍脈の力と仲間から譲り受けた龍脈の力どちらが強いかの勝負」
影は片手に剣を生成し男の守護神に突撃する。男の守護神もすぐに剣を生成し突撃する。互いに残っている龍脈の力はほぼ同じこの状況で下手な小細工は必要ない。相手に確実にスペルを叩き込む事だけを考える。
高速移動しながら両者がぶつかり合う。剣と剣がぶつかり火花が散り衝突音がリズミカルに一定の感覚で森に響く。まるで音楽で言う最後のサビに入る間奏のように。
「凄い……身体能力強化なしなのに影のスピードが速すぎて目で追うのが精一杯だわ」
未來の口から意図せず言葉が漏れる。
他の巫女達も見とれており返事はかえって来なかった。
「中級守護神より速く動いているのに剣技がぶれてない」
まいも声を漏らす。
「型がでたらめで次の動きが読めない……でも無駄がない」
えりかもただひたすら声を漏らす。
影と男の守護神はただ高速移動して剣を持ち戦っているだけだったが見ている者を魅了する何かを持っていた。
ここで影がもう一本剣を生成し左手に持ち両手剣で戦う。男の守護神は驚いた様子を一瞬見せたが無駄口を言わずすぐに集中する。しかしここまで両者が互角だったが流れが傾く。
「何…あれ……手数が倍になっただけじゃない……攻撃回数が一気に増えた」
えりかは最早言葉を漏らすと言うよりかは独り言を言っている感じになる。それはえりかと同じく男の守護神と剣を交えた詩織も同じだった。
「ありえない。何の違和感もなく二本剣を自分の手足のように動かしている。それにたたでさえ凄かったのにどんどん動きのキレが上がってる。これが影の実力……」
影は男の守護神と剣を交える中、二年前自分がこの世界に来たときの事を思い出していた。
影が召喚され初めて召喚者の巫女の元に駆け付けた時、巫女を襲っていた敵が剣と槍を持っていた。影は結局スペルで敵を一掃したが剣術と槍術は敵の方が上だった。もしスペルが使えなかったらあの日間違いなく影は殺されていたかもしれない。そんな不安が続きしばらく寝られない日々が続いた。日本に居た時は今日殺されるかもとは一切考えなかった。でもこの世界に来て色々と思った事の一つが、日本で暮らしていた時の育成ゲームで言う特殊攻撃や魔法が使えなくなったら俺はどうやって戦えばいいのだろうと言う事だった。
ゲームだったら死んでも協会や復活ポイントに行けば死者を蘇生させる事が出来る。しかしこの世界で死ねば恐らく巫女達でも死者を復活させるのは無理だろうと常識的に考えて見る事ですぐに分かった。
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