第28話 巫女 もう一つの戦場


 まいと有香は女の守護神と戦っている。

 両者はお互いの手の内を見る為に見つめ合っている。


 女の守護神が有香に質問をする。


「あら、あっちの巫女達とは違って貴女達は突っ込んで来ないのね?」


 有香は一旦相手が動くまで動かず、カウンターのタイミングを待つことにする。まいも有香の後ろから相手が動くのを待つ。


「だって私達は近接戦闘苦手だからわざわざ不利になる事はしないわよ?」


「ふ~ん。なら私が近接戦闘得意と言ったらどうするの?」


「それはないわね。貴女の事を見た感じ私達と同じ後方支援の方が得意でしょ。その証拠に弱点の近接戦闘に対して周囲にスペルでトラップ張ってるじゃない」


 まいと有香は女の守護神が何故攻撃してこないのか疑問に思っていた。わざわざ近接戦闘が苦手と教えたのにも関わらず動く気配を見せない。そして近接戦闘が苦手なら得意な遠距離攻撃をすればいいはず。だから警戒してのトラップなのか本当に苦手だからのトラップなのかを確認する。


 今も詩織とえりかの方はお互いに剣での攻撃とスペルでの攻撃で戦場は火の海となったり氷の大地になったりと異常状態となっている。


 有香が片手を後ろに回し、手話のように手を動かしまいに自分の考えを伝える。


「あら。これを見抜くなんて貴女達流石と褒めてあげるわ。影は全く気付いてなかったのに」


「違うでしょ。影は龍脈の力でそのトラップが発動しないように抑えていただけでしょ。微かにだけど幾つかのトラップに影の龍脈の力が感じられる」


 有香はまいが詩織達の状況と未來と影の状況を探知魔法と意識共有を使い確認する。その間有香は女の守護神と話し時間を稼ぐ。


「ご名答」


「やっぱり。ちなみに私達が貴女のトラップに気づいたのは影の龍脈の力を探知してよ。だから今から慌てて気配を隠しても全て分かるわよ」


 影の龍脈の力がついているトラップは分かっても、影の力がついていないトラップに対しては有香とまいでは上手くカモフラージュされれば分からない。


「流石巫女。これは面倒ね」


「それはどうも」


 まいが詩織とえりかの状況を正確に把握し有香に意識共有で伝える。

 そのまま未來と影の状況を確認する。


「ところで後ろの巫女がさっきから探知結解で周りの状況を気にしてるみたいだけどお仲間のことがそんなに心配なの? それなら二人いるんだから一人あっちに行ってあげたらいいじゃない」


 女の守護神が行きたいなら行かせてあげると言った表情で有香を試す。


「そうしたいけど私一人じゃ貴女には勝てそうもないからそれが出来ないのよ」


「まるで二人なら勝てるみたいな口ぶりね」


 ここでまいから影が目を覚まし未來と一緒にこちらに向かっている事を聞く。そして未來の力をもらいながら影がここに来るまで十分前後と見る。そしてそれを詩織とえりかにも伝える。


「さぁ別に勝たなくてもいいみたいだから私達は援軍が来るまでの時間稼ぎが出来ればいいだけ」


 有香が笑う。女の守護神は探知結解を広範囲に広げ龍脈の力を探知する。そして先ほど影を連れて逃げた巫女が此処に向かって来ているのを把握した。それから声をあげて笑い始める。


「アハハ! 援軍ってさっき逃げた巫女一人じゃない。あいつ一人来たところで状況はさほど変わらないわ。最初から五人だとヤバかったけどあんた達の仲間は既にボロボロみたいだし今更遅いわよ」


 有香はこの時点で自分達が負けないと思って余裕の女の守護神と出来るだけ会話を続け時間稼ぎをすることにする。有香の考えを手の動きから読み取ったまいはここは有香に任せる事にする。


 有香の中には考えがあった。相手はまだ神のスペルを使ってない。それを使わせることが自分達の役割であると。女の守護神が戦いたがらない理由は神のスペルを使うともう残りの龍脈の力が残り僅かになるからだと見抜いていた。しかし使わせるまで追い込むには有香とまいだけでは短期決戦に持ち込んで持てる力を後先考えず使い攻撃する方法しかなかった。


 女の守護神に近接戦闘は出来ない。有香が近接戦闘は苦手だと言ったがまいを含めて影を召喚した時から巫女全員の課題として皆二年間しっかり修行している。トラップさえなければ普通に戦える。そして遠距離攻撃は彼女のスペルなのかダメージ減少の加護を纏っているのでこの上厄介となっていた。


「そうね。でもいるかいないかじゃ大きく違うわ」


「そうね。死ぬのが早いか遅いかって問題ならそうなるわね」


「えぇ。一秒でも長く生きたいと思うのは普通の事だと私は思ってるわ。貴女はどうなの?」


「そりゃ私だって長く生きたいわ」


 もう少し時間稼ぎをする予定だったが有香はこの瞬間今までない程敵の警戒心が薄れている事に気づき予定を変更し攻撃する事にする。


「まい!」


 有香の言葉にまいが動く。

 まいが動いたのを確認し有香も女の守護神をまいと挟むように動く。


「スペル感電」


「スペルヘルファイア」


 有香のスペルにより女の守護神の身体の動きが止まる。

 まいのスペルにより女の守護神の身体が勢いよく燃え出す。


「スペル裁きの矢」


「スペルトラップ感知」


 まいがスペルを使い女の守護神が張っているトラップの場所を探知し、意識共有で有香に教える。有香は裁きの矢で幾つもあるトラップに向かい正確に撃ち落としていく。


 女の守護神は油断していたせいで反応が遅れ身体が燃え叫び声をあげる。


「スペル零の世界」


 女の守護神は燃えている身体毎周囲を凍らせる。

 有香とまいはそれぞれスペルを使い身体が凍るのを回避する。


「スペル結解」


「スペル結解」


 ゆかとまいのスペルにより一定範囲内を全て凍らせる氷が二人を避けるかのように広がっていく。そして周囲の温度が一気に冷え込む。


「これは厄介ね」


「有香油断しないで!」


「分かってる」


 スペル零の世界で自分の身体を凍らせることで炎を消した女の守護神が氷を割り出てくる。そして有香とまいが移動しながら片手に剣を生成しながら突撃する。

 女の守護神は明らかに巫女が近接戦闘に持ち込むのを警戒しトラップを張っていた。しかしそのトラップを全て破壊した瞬間においては女の守護神は丸裸も同然だった。


 二人の巫女が自分に向かって来ている事に気づいた女の守護神が叫ぶ。


「この私を舐めるなぁ~~~~~~!」


 そして後一歩の距離で剣の攻撃可能範囲に入る瞬間女の守護神の足元の氷がひび割れ地中かた氷の剣が有香とまいの顔目掛けて襲いかかる。間一髪の所で二人は方向転換し顔に剣が刺さるのを免れる。一旦有香とまいが合流すると二人に向けて剣を向けてきた者の正体が分かる。


「氷のゴーレム?」


 まいが有香に聞くが返事がない。


「…………」


 どうやら有香にも分からないみたいだ。


「あれの中に流れる龍脈の力ヤバい」


 まいの言葉にここでようやく有香が反応する。


「それだけじゃない。あの二体それぞれが意志を持ってる」


 有香の言葉に今度はまいが沈黙する。


「…………」


 女の守護神の目つきが先ほどの格下を見る目から影と対峙していた時の強者を相手にする目に変わる。


「お前達を甘く見ていたよ。ここからは本気で行く」


 有香とまいが女の守護神が本気になった事を確信する。


「有香離れて」


 まいの言葉を聞き有香が龍脈の力を使い後方にジャンプし下がる。それと同時に二体の氷のゴーレム……いや昔の神話に出てくる神殿を守る番人がまいに突撃してくる。


「スペル――」


 まいの言葉を遮り女の守護神が叫ぶ。


「無駄だ。私の神のスペルである氷の番人は上級スペル以下を完全無効にする耐性がある」


 まいが鼻で笑う。まいが使おうとしていたのは下級スペルでも上級スペルでもない。女の守護神と同じ神のスペルである。そしてまいの巫女装束から大量の呪符が高速で空中に広がっていく。


 氷の番人二体がまいに向かって剣を振り上げたその時まいのスペルが発動する。


「雷より早い物はこの世に存在しないわ……スペル神の」


 まいの言葉と同時に黒い雲が上空にできる。いや出来なかった。影が最初使った「神の雷」で現れた雲が再び力を得て氷の番人に向かって目で追うのが不可能なスピードで落ちていく。落雷が落ち衝撃波が森を襲う。まいは有香が張ってくれた結解で衝撃波から身を守る。そして零の世界で出現した厚い氷は神の雷が落雷として落ちた事により全て粉々になり爆風で何処かに飛ばされる。


 氷の番人は雷の光熱により元の姿が分からないぐらいに溶けていたが自己修復を始め徐々に元の姿に戻っていく。

 女の守護神が手で顔を隠し衝撃波から身を守って反撃してこないと見て有香がスペルを使う。有香の巫女装束からも大量の呪符が宙に舞う。


「私は詩織やえりかと違って準備がいいから戦いが始まる前に呪符を用意しているわよ」


 有香が隣にいるまいではなく違う誰かに何か嫌味を言うように呟いた。


「スペル神の鎮魂歌」


 有香のスペルが発動すると同時に自己修復していた氷の番人が自己修復を停止し、ただの氷となって溶けていく。


「何故私の氷の番人が……」


 動揺する女の守護神に有香が答える。


「スペル神の鎮魂歌は相手の思い出したくないようか過去を脳内にイメージとして再生したり、絶対にこうなりたくないと言った姿を幻術として相手に体験させたり、相手の脳内に直接騒音を流し龍脈の周期を乱したりと色々と効果があるわ」


「氷の番人は人間とは違う。脳内に騒音を流されても影響を受けない」


 女の守護神は有香の言葉を否定する。有香は女の守護神が明らかに動揺していたが自分達も龍脈の力を神のスペルで使い果たしていたので話しに付き合う事にする。厳密に言えばまだ二人共上級スペル一回分はあったが保険として残しておくことにした。


「私達には普段扱えない特別な周波数を龍脈の力に聞かせると龍脈の力の循環に矛盾生じさせられるわ。そして人間や貴女達にはあまり効果がないけど龍脈の力を媒体にして自律して動く敵にはそれはプログラムで言う重大なエラーになるのよ」


 有香が話していると詩織とえりかの方から神のスペルがぶつかり合った際に見える特有のい光が視界に入ってくる。


 有香とまいはボロボロになって倒れている詩織とえりかの元に行く。

 男の守護神も女の守護神が動揺しているのに気づき合流する。

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