第26話 未來の想いと治療


 未來は影を抱え瞳の村に着くと同時に巫女の間にある普段仮眠に使っているベッドに運ぶ。そして龍脈の力で呪符を生成し影の周りに展開する。十枚の呪符は淵が緑色に光り影の上で円を描く軌道で高速回転する。


「スペル神の御加護、スペル龍脈回路共有」


 未來の言葉を聞き呪符が緑色の粒子となって消えていく。そして影を中心緑色のドーム状の結解を作る。結解の中にいる者の外傷、精神的ダメージ、異常状態を素早く治す。十秒もすれば影の身体は戦闘前の状態になる。


 未來は龍脈回路の共有を行い、影の中にある自分の龍脈回路を媒体に自分の龍脈の力を直接流し込む。回路がボロボロ寸前の影の回路は先ほどのスペルで完全に修復された。後は龍脈の力が回復すれば目覚める。しかし未來はある事に気づく。本来であれば自分の龍脈回路を媒体に転生者に力を流し込むとほぼ百パーセントそのまま渡す事ができる。しかし影は自身の龍脈の回路と五人の龍脈の回路を持っている。そのせいで未來の龍脈の力が影の中にある自分の回路に行ってもそこから体内に中々吸収されないのだ。それだけなら時間の問題で何とかなるが変換率も悪く未來の龍脈の力だけでは影を全回復出来ない事に気づく。


「かげ……お願いまだ死なないで」


未來は自分の持っている龍脈の力全てを出来る限り早く影の体内に流し込む。


「このままじゃ……皆ごめん……結解破棄するね」


 未來はあまりにも変換率が悪く影の体内に龍脈の力が流れ込むのが遅いので瞳の村の結解を解除する。そして全ての力を解放し、影の中の複雑な龍脈の回路に自身の回路だけじゃなく六人分の回路それぞれに力を変換しながら流し込む。未來の身体から溢れでる龍脈の力に反応しオーラが優しいオレンジ色に光輝く。


「絶対に死なせない」


 とにかく龍脈の力が十パーセントを下回っている状態では生命に関わるので未來は全力で龍脈の力を影に流し込む。

 龍脈の力は血液みたいなもので龍脈の力を扱える者は体内に一定の龍脈の力がないと死ぬ。簡単に言うと大量出血状態と変わらない。時間が経てば経つほど死ぬ確率があがる。その事を頭が理解しているせいか未來は慌てていた。


「スペル龍脈結合変換」


 未來は自身で変換する事を止める。そしてスペルによる自動変換で龍脈の力を渡す事にする。未來の頭が動くうちは計算して力を変換するのに何も支障がないがもし頭が疲れてきて変換を間違えれば影の回路が使い物にならなくなる。だから安全策を取る。一人一人の龍脈の力の波長は違う。だからこそ力の受け渡しは基本的にどの村でも行わない。


 未來にとってもやり方は先代から聞いていたが、龍脈の力の受け渡しは今回が初めてだった。スペルで龍脈結合変換を使っているがスペルが影の影響を受けて誤反応しないように常に神経を使って監視する。


「かげ……大丈夫だからね……安心してね」


未來は必死に影が目を覚ます事を祈る。村には二人以外誰もいない。


「かげ……早く戻ってきて……ご飯好きなだけ食べされてあげるから……」


 未來の言葉だけが静寂な村に聞こえてくる。


「かげ……好きなだけ甘えていいから……好きなだけ我が儘も言っていいからお願い……」


 意識のない影に必死になって未來が語りかける。


「かげ……わたしね……すっとかげのこと……すきだった……いまもだいすき……」


 しかし返事は返ってこない。


「かげ……」


 未來は意識のない影に必死になって自分の気持ちを伝える。

 未來の思いが通じ、影が目を覚ます。


「……未來ここは?」


 ここで未來は影が倒れてからの全てを話した。そして詩織、えりか、まい、有香が影の変わりに戦っている事。そして意識共有で分かっている現状全てを話した。


「……そっかぁ」


「身体は回復させたけど何処か痛みとかはない?」


 影は寝ているベッドから身体を起き上がらせ、軽く動いてみた。


「多分大丈夫かな?」


 未來は胸に手を当て安心する。


「良かった」


「未來迷惑かけてごめんね。なら行ってくるね」



 影は身体を動かしベッドから降りて立ち上がる。


「ちょっと待って。やっと龍脈の力が十パーセント超えたばかりなのよ。下級スペル一発でもガス欠になる」


 未來が立ち上がり影の手を掴み止める。


「だとしても行かないといけない。理由は分からないけど身体が教えてくれるんだ。戦場に行けって。だから行くよ」


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。詩織達も巫女の力を使ってる。簡単に負けないわ」


「……」


 下を俯く影に未來は何かを感じる。


「全く…我が儘なんだから……分かったわ。ならハムスターの姿になって私の服の中にいなさい。私が連れて行くと同時にギリギリまで龍脈の力を影に渡すから」


「ありがとう」



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