第24話 その理由を知りたい
影を生け捕りにしていた守護神二人から笑みが消える。不純物のない透明に近い氷の結解に今までにない違和感を覚えていた。
その違和感は最強の転生者の力による者だと頭が理解する。
氷が影を中心に内側から溶けていき、最終的には爆発して氷の結解が打ち破られる。
「おい。お前何をした?」
男の守護神が影に問う。
「何をしたか。お前達周りを見て分からないのか?」
影の言葉を聞いた二人が状況を見渡す。
よく見ると先ほどまで綺麗に周りの木々や石に凍り付いていた氷が凄い勢いで溶けていく。
「スペル紅蓮の世界」
影の言葉に二人が唾を飲み込む。
「そこの女の守護神が使った零の世界の相対スペルだ。と言っても神のスペルだ。スペルの階級が違う。後数十秒もしたらお前達の氷を全て燃やし辺り一帯を燃やし尽くすだろう」
影は守護神二人に向かってゆっくりと歩く。
「周囲が高温になればお前達のスペルの中心となっている氷は効果全てを半減するだろう」
しかしそんな影の言葉に動揺しながらも女の守護神はある事に気づく。
「お前これで三回神のスペル使ったわね。龍脈の力がもう殆どないお前にはもう神のスペルは使えない。対して私達はまだ龍脈の力が残っている。この状況で不利なのはお前のはずだ」
影は不敵に笑う。
「それがどうした? 俺は転生者だ。転生者の使命は命に代えても召喚者である主を守る事だ」
影はそう言い、地面の氷が解け高速移動が可能になったので女の守護神に向かって剣を片手に突撃する。男の守護神が女の守護神を守る形で影の攻撃を無力化していく。
そのまま影は剣を弾かれ手から離れる。しかしそのまま引かずに武術で攻めていく。影は日本にいた頃、護身術を習っていたのでその頃の感覚を頼りに攻撃していく。相手の剣を全て躱し攻撃する。女の守護神も「スペル肉体強化」を使い男の守護神と一緒に影に攻撃してくる。
女の守護神の龍脈の力が急激に上昇していく。
「スペル零の世界」
氷が溶けて今度は周囲が燃え出そうとするタイミングで炎が弱まる。炎は氷に飲み込まれても氷を内側から燃やそうとするが影から龍脈の力を供給できなくなった炎が次々に消えていく。
「これでお前の炎は封じた」
「スペル氷の矢」
男の守護神が影から距離を取りスペルを発動する。そして十五本の矢が影に向かって飛んでくる。女の守護神も矢の射程圏内からすぐに離れる。影は女の守護神との格闘戦においてバランスを崩しており射程圏内から逃げられない。
「スペル風の盾」
スペルを使い影の前に目に見えない風の盾を展開し襲いかかる矢を受け止める。
しかし安心する暇もなく守護神二人の追撃がくる。
「スペル連携氷の矢」
影の龍脈の力がもう殆ど残っないと見た二人は影の動きを封じながら中距離攻撃スペルで連続して攻撃してくる。
「スペル暴風」
影は先程の倍以上ある大きい氷の矢に対して自身を中心とし周囲に竜巻を生成する。そして竜巻の風の流れに飲み込まれた氷の矢は龍脈の力制御を失い消滅していく。
「スペル連携氷の矢改」
影に対する攻撃は容赦なく続く。更に本数と威力、攻撃スピードを高めた氷の矢が襲う。全てを竜巻で無力化していく。この時影は防戦一方で龍脈の力が殆ど残っておらず、敵がこのまま攻撃してきても負けるし、仮に竜巻の維持に使っている龍脈の力を反撃にまわしても負ける事に気づいていた。
「ほらほら。最強の転生者なんだろう? この状況を何とかして見ろよ。さっき転生者の使命は命に代えても召喚者である主を守る事だとかカッコいい事言ってたじゃないか」
女の守護神の言う事にムカついたが影に対抗できる手はない。
「俺達はまだ神のスペルを使っていない。対して影はもうガス欠寸前。これは勝負あったな」
男の守護神もここでようやく影に勝ったと確信する。守護神からは神のスペルを使える事は昔から分かっている。そして守護神の階級が上がれば上がる程使えるスペルの種類と技のレベルが上がる。
「確かにお前達は神のスペルを使っていないな」
影はここでも不敵に笑う。
「何が言いたい?」
「まだ気が付かないのか」
「…………」
二人が沈黙する。影は最初からこうなる可能性を考えていた。しかし守護神はここまで影一人に追い込まれる事はないと甘い考えを持っていた。そこに影の付け入る隙があった。
「なら教えてやる。お前達が今まで使っていたスペルは俺を倒す為にスペルのレベルをかなり上げていたな」
ここで影が何を言いたいのか男の守護神には分かったみたいだ。女の守護神は影を睨みまだ言いたい事が分からないと言った感じだ。
「スペルのレベルを上げれば神のスペルとまではいかないが龍脈の力をかなり消費する。いくら神のスペルを使える余力があってもそれだけ龍脈の力を使えば五人の巫女の本気相手に確実に勝てるのか?」
「貴様……最初からそれが狙いだったのか」
影は不敵な笑みを浮かべたまま口を開く。
「違う。それも可能性として考えていただけだ。そして今も俺を殺す為に龍脈の力を使い続けているお前達と本気の巫女五人が戦えば勝率は互いに五十パーセントずつぐらいにはなるだろう。本来であれば守護神二人相手に巫女五人では自殺行為だ。しかし今ならどうだ?」
ここで女の守護神も影が何を言いたいのかを理解する。
「何故お前はあの巫女達にそこまでする。お前を元いた世界で殺したのはあの五人だぞ!」
男の守護神に焦りが見える。
「簡単な話だ。あいつらが俺の為にいつも頑張ってくれたからだ。それに元いた世界で俺は確かに死んだ。だがあいつらはそのとしてこの世界で俺に自由をくれた。俺は好きな女の為ならこの命いつ失っても構わない。だからお前達の前に立ち……」
影の言葉が途中でつまる。永遠に生成されて飛んでくる氷の矢に竜巻が限界を迎える。龍脈の力を供給出来なくなると同時に竜巻は影の周りから消える。そうなれば影は間違いなく死ぬ事になる。
「そろそろ限界のようね」
女の守護神が連携スペルを解除し違うスペルを発動する。
「スペル白銀のベール」
何もなかった空中に氷の薄いベールが辺り一面に沢山出現する。そしてベールに小さい魔方陣が次々と何個も模様みたく広がっていく。全てのベールに魔方陣が展開されると影に向かって冷気のレーザーが影を襲う。
とうとう風の竜巻の防御を失った影に沢山の冷気のレーザーが直撃する。
影の龍脈の力が十パーセントを切り、探知結解や龍脈探知から存在が消える。
「お疲れ様」
女の守護神が影に向かって労いの言葉を言う。
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