第23話 巫女たちの確認


 未來達は先日巫女会議をした部屋に集まっていた。

 今後の方針を決める為である。


「それでこれからどうしましょう」


 未來の言葉に四人が考える。


「まず影が失敗した時の最悪なシナリオから考えましょう」


 定石通りの提案をする有香に四人が頷く。


「とりあえず村の民達を今から勇者と一緒に四つの村に移動させてはどうかしら? 老人や子供もいるし勇者の龍脈の力で連れて行くの前提だけど。それならどの村にも三十分以内には着くはずよ」


 まいが提案する。

 考えとしてはこのまま戦場になるかもしれない瞳の村に戦えない者を残し戦いに巻き込む事を避けたかった。


「そうね。四つの村で分担すれば瞳の村の民達全員を受け入れる事ができるわね」


 詩織が村の民達の移住を認める。未來とえりかは黙っていたが詩織の言葉に頷いた事で村の民の避難が始まる。早速巫女達が勇者に指示し受け入れられる民の人数等を伝える。


「雛とゆめとかなは癒しの村までの護衛と移動補助、七瀬と奈緒と優奈は願いの村までの護衛と移動補助、綾香と紅は奇跡の村までの護衛と移動補助、すみれとゆりは若葉さんの指示に従って祈りの村をお願いします」


 未來の指示に集められた勇者達が返事をする。


「かしこまりました」


「若葉は祈りの村に戻り次第すぐに村の守りについてください」


 詩織の言葉に若葉も返事をする。


「かしこまりました」


 巫女の命を受けた十一人の勇者がそれぞれ指示された村に民達の誘導を開始する。

 勇者や村の民達がいなくなった静かな瞳の村で巫女達は会議を続ける。


「これで最悪ここが戦場になっても何とかなるわね」


 詩織の言葉は暗かったがまだそうなると決まったわけではない。


「次に誰がどう相手するかね」


 えりかの言葉を聞き未來が再び探知結解で相手の数を確認する。

 そして未來は信じられない物を見たような顔する。


「未來どうしたの?」


 未來の顔を見てえりかが慌てて未來に駆け寄り身体に手を伸ばす。


「守護神二人は健在よ……」


 未來の言葉が何処か暗い。しかし他の巫女達はあれから時間もあまり経ってないので、まだ影が一人も倒せてないだけだろうと考えていた。何故未來が口を重くするのかが不思議でしょうがなかった。


 だけどその理由がすぐに分かる。


「守護者五人と上級守護者二人は影の手で既に死んでいるわ………」


 未來が重たい口を開く。本来であれば嬉しい報告だが未來の口が重たいままである。


「今、影は相手のスペルで氷漬けにされてる」


 ここでようやく未來の口が重たい理由が分かる。状況は一転してよくなっているが、影が戦闘不能になっている。いくら頭の中では死ぬかもしれないと分かっていても実際にそれが分かった時の絶望は頭でイメージするよりずっと辛い現実となる。

 絶望を感じた、その瞬間未來は影が生きていて、まだ何かを隠し持っている事に気づく。


 この瞬間にも影の龍脈の力が影の体内で何かのスペルを発動する為の準備を初めている事に気づく。それがどういったスペルなのかはまだ分からないがとても強力なスペルを発動する兆候が見える。


「それで影は生きてるのよね?」


 えりかの言葉に未來が答える。


「待って。今から皆に意識共有で私が今探知している状況を直接伝えるわ」


そして未來が四人の巫女に意識共有で自分が分かっている状況をイメージとして全員に伝える。何故未來がわざわざ意識共有したのかを四人の巫女が理解する。


「この氷は何?」


 詩織の言葉に未來が答える。


「これは相手を生け捕りにするとても強力な結解の一つよ。それに周りの温度が零度を下回っている事から火の上級スペルでも破壊は難しいわ」


「なら影はどうなるの?」


 えりかが未來に聞く。


「本来だったら捕まった時点で龍脈の力が減少していくのに影の体内の龍脈の力が今急激に上昇しているわ。きっと何かあると思う」


 未來の言葉に四人が影の体内の龍脈の力の流れを探知する。正確には上昇していると言ってもかなりの龍脈の力を消費している影がまだ何かを隠し持っていてそれを使おうしていると言った方がいいのかもしれない、そんな感じがする。


 ここで有香が気づく。


「相手が守護神二人なら私達が今から戦場に向かって飛んでって一人だけでも相手にすれば影の助けになるんじゃないの?」


 今まで巫女達は九人の敵をどうするかを考えていた。それが今二人なら何とかなるのではと考えたのだ。人は追い込まれると視野が狭くなる。一人では気づけない事でも五人の視野があれば気づく事も可能となる。


「詩織どうする?」


 未來が参謀である詩織に問いかける。別に誰が大将とか決まっているわけではないが五人の巫女が戦場にどうするかの最終決断は詩織の役目となっている。

 詩織は今考えられる全ての選択肢を頭の中で考える。


「詩織?」


「詩織どうしますか?」


「しおり?」


 皆が詩織を見る。そして詩織が決断する。


「影を全員で援護しに行くわ」


 その言葉に五人が笑みを浮かべ頷く。

 未來の意識共有を使ったまま現状の確認をしながら影の元に最速で空を飛び向かう。


「詩織? いざとなれば私達も影と同じく本気で行くわよ。巫女の本気は緊急時以外あまりに強力で禁じられてるけど今がその時と思って構わないわね?」


 えりかが詩織に確認する。現状瞳の村が敵の手に渡れば残りの四つの村も壊滅危機になる。詩織にとってえりかの言葉を否定する理由はない。


「えぇ。各々の判断に任せるわ」



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