第22話 衝突 神のスペルを使う者達


 声を出す影に守護神達は戸惑っていた。しかし今影はこれで本気で戦えると言った。その言葉の意味が守護神達には分からずにいた。なぜ先ほどの説明で本気で戦えるようになるのかが不思議でしょうがなかった。


「なら話し合いはこれで終わりだ」


 影はそう言い残し、まず一番隙がある守護者五人の背後に瞬時に移動する。


「スペル感電、スペルヘルファイア」


 影が守護者五人の背中に向かって手を伸ばし二つのスペルを口にすると同時に敵の五人が感電し動きが封じられる。そして身体が感電し動けなくなったと思う頃には深紅の炎が五人の身体を燃やし尽くしていく。龍脈の力が弱い五人とっては影の強力なスペルを純粋な龍脈の力だけで耐える事は無理である。そして影は感電により守護者五人の口すら動かないようにしている。この五人が助かるには仲間の援護が必須となる。影はせっかく後ちょっとで丸焼きになり死んでいく守護者五人を仲間が助けてくる事を警戒してすぐに追撃態勢を整える。相手は影の突然の行動に動揺している。

影はそのまま上級守護者二人の前に高速移動で近づく。


「スペル神の鎮魂歌」


 影のスぺル発動と共に上級守護者の二人が手に持っていた槍を手放し、自身の頭を両手で抑え苦しそうに声をあげる。守護神の二人も何が起きているか分からず自分の身を守る結解の維持と影の行動を見ているだけとなる。影はそんな守護神達を視界の片隅で警戒しつつ頭を抑え苦しむ二人に龍脈の力で作った剣を持ち突撃していく。まるで過去の過ちにし後悔している二人の首を容赦なく素早く切り落とす。地面に綺麗に切断された二つの首がボールのように転がる。そしてそのまま首から上を無くした二つの身体が地面に倒れていく。


 影が確認を込めて先ほどの守護者五人を見ると身体が真っ黒になっており死んでいた。これで残りは二人となる。しかし影はこの時点でかなりの力を使っている。油断はできない。敵の頭数は一気に減ったと言いたいが、ここまで人の力を超えた神のスペルを二回、そして長遠距離攻撃と広範囲の底なし毒沼の発動に全体の半分以上の力を使っている。神のスペルは今日初めて使ったが影でも一日三回が限界だと身体が教えてくれる。影の身体にある龍脈の回路が意志を持っているかのように限界が近いと影に強く訴えてくる。神のスペルは守護神達ですらかなり警戒する威力を秘めている。なので先ほどの上級守護者達までなら純粋に太刀打ちできない。


「仲間がやられたにしては能力向上のスペルを発動して落ち着いているな」


 影は仲間が死んだのにも関わらず冷静にいる守護神が少し不気味であった。仲間を囮に影を攻撃してくるチャンスはあった。そして助けようと思えば仲間を助けられたはずだ。しかしそれを目の前にいる二人はしなかった。それどころかこれから影に対抗する為にひたすら自身の能力向上する二人に危機感を感じている。


「神のスペルを簡単にタイムラグなしで使う人間は初めて見た。本当に最強の転生者の一人だと思わされるよ。そんなイレギュラーと戦うんだ。準備は必要だと思わないか?」


 仲間の言葉に続くように今まで黙っていた女の守護神が口を開く。


「でも神のスペルはやはり最強の転生者でもかなり龍脈の力を使うみたいですね。私達二人を相手にする前にそんなに力を使って大丈夫なんですか?」


 男は影を警戒しているように見えたが女は影の龍脈の力の残量を感知し余裕の表情を見せていた。これは戦場において経験の数を意味する。影は女の守護神はやはり守護神と言ってもまだ考えが甘く、隙が多いと見る。男の方は警戒心が強く隙が少なく女の守護神以上にやはり強いのは確実だ。


 これが一人だったら影でもいい勝負が出来るが二人が連携してこられたら影と言えかなり分が悪い。


「成程。仲間の死で自分達が本気で戦える準備をしていたわけだ」


 影の言葉に男の守護神が笑みをもらす。どうやらこうして会話をしている間も時間稼ぎのつもりらしい。影としても息を整える時間としては十分だった。


「おい。女の守護神一つ教えてやる。確かにお前たちが警戒してる神のスペルは龍脈の力をかなり使う。だが別にもう使えないとは言ってない」


 影は女の守護神が動揺したのを見逃さなかった。そのまま高速移動で近づき右手に持っている剣を使い彼女の身体を切断しに行く。しかし影に向かって氷の矢が向かって飛んでくる。影は慌てて横跳びをし、そのままジャンプして氷の矢を躱す。男の守護神としては女の守護神は守るに値するらしい。


 影が着地と同時に影と同じく龍脈の力で生成した剣を片手に男の守護神が突撃してくる。そして影も剣で対抗する。つば競り合いをしながら影が女の守護神を見ると先ほどまでなかった弓を生成し影に向かって構えていた。そして影がどうするか考えているうちに矢が発射される。


 影は男の守護神の剣の力を受け流しながら矢の回避と同時に男の守護神を剣で攻撃する


「スペル裁きの矢」


 スペルを使い女の守護神の追撃と援護を足止めし、剣の純粋な勝負に持っていく。

 ぶつかりあっていると女の守護神がスペルを使う。


「スペル氷の壁」


 地面からいきなり出てきた氷山に裁きの矢が次々と衝突し消えていく。


「スペル吹雪」


「スペル零の世界」


 男の守護神が使った吹雪が影を襲い、女の守護神が使った零の世界のせいでスペル使用者を中心に一定範囲の温度が急激に下がる。そして吹雪の影響もあってか地面は氷で覆われ、周りの木も凍っていく。影は龍脈の力で体温を上昇させるが足場が凍っているせいで高速移動を封じられてしまう。龍脈の力を補助とした高速移動による足にかかる摩擦係数の計算が終わるまではせいぜい人間の足で走るがいい所になる。探知結解を展開しすぐに計算を始める。


 守護神達を見ると二人が集まっている。どうやら氷のスペルを二人共得意としているのかこのツルツル滑る氷の上でも自由に動けるみたいだ。


「本当に厄介な夫婦だ」


 影は嫌味のように呟く。しかし守護神達は地獄耳らしい。


「あら。いつ分かったの?」


 女の守護神が不思議そうに影に聞こえるように声を大きくして聞いてくる。影としては同じ属性のスペルを得意としているのでただ単に嫌味で言ったのだがどうやら当たっていたみたいだ。


「何となくだ。二人共氷のスペルを使ってた。それに連携の良さ、男の守護神が何故かお前だけは守った。そう言った事を合わせるとそんな気がしただけだ」


 影は先ほどと同じく小さい声で嘘を答える。どうせ地獄耳で聞こえるだろうと思ったからだ。そして嘘をついた理由は相手にちょっとでも自分の分析力を必要以上に警戒させられたらラッキーと思ったからだ。


「気を付けろ。影の情報収集能力と観察眼は俺達以上だ」


 影の思惑は男の守護神に通用する。声は聞こえなかったが影は口の動きから女の守護神になんて言っているのかを理解する。


「あんた凄いね。それでこの状況どうする? 手がないなら降参してくれるなら命までは取らないわよ?」


 女の守護神としてはこれ以上影に邪魔されたくないのか影を遠回しに見逃すと言ってくる。しかし影がここで逃げれば巫女達が死ぬ事になる。それだけは絶対にダメだ。


「断る」


 影の返事に守護神二人が「そうか」と言う。


「スペル連携氷結解」


 連携スペルによりスペル使用者の周りから氷が次々と木のように生えてきてそのまま影の周りに向かって飛んでいく。そして着弾地点から影を閉じ込めるように氷の結解が凄い勢いで完成していく。そして影を虫の標本みたく生きたまま閉じ込める。

 守護神二人はお互いの顔を見て安堵する。この連携スペルは相手を倒す為の物では生きたまま捕まえるスペル。その為結解の強度はその辺の物とは格が違う。だからこそ勝ったと言う確証があった。しかしそれは影が普通の転生者の場合である。影は違う。五人の巫女の力を持つ最強の転生者である。

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