第21話 始まったばかりの防衛戦
影が敵に向かって飛んでいき未來が詩織を慰めている。
「詩織大丈夫だよ。だって影は約束してくれたじゃん。一人で何とかしようとか思ってないって私が聞いて『うん』って返事してくれた。だから大丈夫だよ」
「未來は本当に影が無理しないと思ってるの?」
詩織の言葉に未來は苦笑いする。
「本当の事を言うと心の中では無理するかもって思ってる。でも行く前の影の姿を見たらやっぱり私達が召喚した転生者なんだなって思えた。転生者となった人間の定めは?」
未來は巫女である自分達にとっては当たり前の事を今更ながら詩織に聞く。
「召喚者の命を何があっても守ること」
「そうだね。私達は影の何?」
「召喚者……」
「きっとそうゆう事なんだと思う。影は知ってか知らずかその務めを全うしようとしている。やっぱり影はさ…………」
未來の言葉が詰まる。
未來が今まで我慢していた涙を流す。
「うそつき……だよね」
未來は涙声になりその場に倒れ込む。
「そうだよ……影の中での私達って何だったのかな……」
えりかは誰かに答えを求めるが誰一人その問いに答えてくれる者はいなかった。
それは影自身にしか分からなかったことだから。
「ねぇさっき遠くで見えた無数の遠距離攻撃の後黒い雷が落ちたよね?」
ここでまいが話題を変える。まいも本当はえりか達と一緒に泣きたかったが泣いても状況が変わらない事を知っている。だからこそ今の自分に出来る最大の演技で皆を導く事にする。
「うん」
有香もまいと同じく泣きたかったが我慢し、まいと同じく前を見ている。
影は絶対に死なないと心の中で祈る。
「その後から妙に静かじゃない……」
「未來」
まいに名前を呼ばれて未來が顔をあげる。
「探知結解の精度を上げて状況を教えて」
未來はまいに言われた通りに探知結解の精度を上げ、状況の確認をする。
「影が守護神を中心として九人に囲まれてる」
未來は目を瞑り更に状況の把握をする。
「守護兵は全員まだ生きているけど生命力がかなり弱ってる……これは影のスペルによるものだわ。恐らく本気の神の名がつくスペルを使ったのかもしれない。守護神達も強がってるけど大分辛そう。影も龍脈の力の消費が激しいみたい」
未來は結解の巫女と言われる二つ名を持つ。
その結解の巫女である未來が状況の読み間違える事などありえない。
「それで影は大丈夫なの?」
えりかが未來に尋ねる。
「今はね。ただよく分からないけど影が囲まれている割には影を含めてすぐに戦闘する意志が感じられないの。もしかしたら交渉してるのかも」
「交渉?」
ここで有香が未來の言葉を繰り返す。
「うん。雰囲気的にはそんな感じなの。何かを話してるそんな感じ。相手は間違いなく強い方の守護神だから多分間違いないと思う」
「それでいきなり静かになったのね」
「まいの言う通り静かにはなったけどいつ影と敵が衝突するか分からないわ。警戒を続けましょう。それに私の探知結解も戦闘が始まればその影響を受けて正確には分からなくなる」
いつの間にか俯いて泣いていた未來が前を向いている。ここ数日影に依存しながらも巫女である五人は影の姿を見て影響を受けていた。まだまだ影から見たら甘い考えを持つ子供だがそれでも頑張って成長を見せる女の子達に影は未来の希望を見ていた。
ここで詩織がいつもの詩織に戻る。
「村の護衛は勇者に任せて影を助けに行くわよ」
詩織の言葉は影の意に反する行いでありこれにはえりかがすぐに反論する。
「え? でも影からは村をお願いって言われたじゃない」
「神の名のスペルは強力だけど力の消耗が激しいのよ。私達でも一日に一回が良いところ。もしこのまま影が一人で戦う場合、自分の龍脈の回路の保身なんて考えずに戦うと思う。そうなったら影は間違いなく死を選ぶ。そんなの黙って見てられないじゃない!」
「詩織!」
未來が詩織の名前を呼ぶ。
「私達のその我が儘で影がどれ程の苦労をしてきたと思ってるの。私だって影の所に今すぐに行きたいわよ。でも影にとって私達は足手まといにしかならない。だから影は一人で行ったと思う。だから信じましょう」
未來の言葉に詩織が沈黙する。本当は詩織も何故影が一人で行ったのか分かっている。それでもただここで待つだけってのは嫌だった。
「分かった」
「詩織とりあえず作戦室に戻るわよ」
有香が詩織の肩に手を置く。
そして手をそっと離し歩いていく。
残りの三人も有香についていく。
「詩織行くわよ」
「詩織早くしなさい」
「まだ終わってない」
未來、えりか、まいが詩織に向かって叫ぶ。そうまだ戦いは終わってない。影が失敗すれば最悪九人の敵が村を攻めて来ることになる。
影と巫女達の瞳の村の防衛戦はまだ始まったばかりに過ぎない。
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