第20話 ロジック
影は最速で敵陣に向かって飛んでいく。影は巫女達に守護神以外の敵をお願いすると言ったが全てを一人で倒すつもりでいる。恐らくこの戦いで影自身がいなくなってもこの世界に大きな影響はないと考えていた。そして影の代わりは巫女である五人が生きていれば可能だから。
でも巫女である五人のうち一人でも死んだらそもそも影は生きていられるのかが分からないし影では召喚の儀式を行えない。だから空を飛びながらシンプルに考えて見ると、結局巫女の命を守る事は自分を守る事でもあり、村を守る事に繋がる。
すると遠距離攻撃が雨のように影に向かって飛んでくる。
「スペル高速移動」
影は自身の移動速度を上げ遠距離攻撃の隙間を針の穴を通すように進んでいく。
敵が視認出来たと同時にこの世界に来て初めて本気でスペルを使う事にする。
「スペル神の雷」
影の言葉と同時に黒い雲が上空にできる。それからすぐに先程使った落雷の倍以上の威力はあるであろう雷が敵陣に向かい落ちていく。落雷が落ち衝撃波が森を襲う。
しかし影は守護神なら必ず対抗してくると考え落雷が落ちると同時に敵の足元にもスペルを発動する。
「スペル底なし毒沼」
落雷で上に注意が向いている敵が次々と突如出来た底なし毒沼に足を取られ溶かされていく。守護兵はこれで実質壊滅状態となるが流石に守護者五名、上級守護者二名。守護神二名の計九名は無傷であった。正確には守護神の一人が守ったと言った方がいいのもしれない。影は上空から九人を見下ろし敵が反撃してこないので九人の上空まで行き地上に着地する。
「何故反撃してこない?」
影は九人に対して質問をする。今も影の後ろでは底なし毒沼に足を溶かされ徐々に身体を失っていく守護兵の声が聞こえていたが無視する。
「まさか一瞬でこれだけの兵を瞬殺されるとは思っていなかった。そして反撃すればこうして話す機会がなくなるだろうと思い待っていた」
守護神が影を見て笑顔になる。そして今影に話しかけている守護神が大将なのは周りの反応からすぐに分かる。
「話す? 何が聞きたい?」
影としては後ろの兵が途中で攻撃してきても面倒なので沼に完全に身体が溶かされるまでの間話しに付き合う事にする。それにさっき使用したスペル分の龍脈の力も少しでも回復できるなら好機である。そして敵は影と話したい。変な話しだがお互いにとって話し合う時間は有効な物となる。とは言っても影は敵の陣営に囲まれている。警戒をとくわけにはいかない。影が視線を周りに動かす。
「そんなにキョロキョロしなくてもいい」
守護神はどうやら本当に話したいみたいだ。
「お前たち話し合いが終わるまで絶対に手出しするな」
守護神の言葉に他の守護神を含め頷く。
「それで話しとは?」
「君は何故龍脈の中に転生されたのにも関わらず生きているのかと言うことだ」
「成程。残念ながら答える気はない」
守護神は影の言葉に少し考える素振りを見せる。
「では何故約二週間前私の部下が瞳の村を襲撃した時逃がしてくれた?」
「お前たちの部下は村の民を傷付けはしたが何故か殺さなかった。だから俺もそこにいる三人に戦うか逃げるかの選択肢を与えた」
「成程。ならもし私の部下が村の民を殺していたらどうした?」
「全員殺してた」
影の言葉に三人の守護者が身体を震わせる。
どうやらあの日の事を影が思っている以上に気にしているように見える。
「私の質問は終わりだ。質問に答えてくれたお礼に影の質問にも答えられるかは別の話しとして二つだけ聞いてあげよう」
「意外にサービス精神があるんだな」
守護神が声を出して笑う。
「だって君は死ぬんだ。なら最後に君にしか知らない事は聞いておかないと永遠に聞けないじゃないか。それに冥土の土産の一つや二つなしに死ぬのは流石に可哀想だからね」
影はようやく守護神がわざわざ話し合いをしてきたのかが分かる。
確かに影一人で九人はやはりどう考えても分が悪すぎる。
「なら一つ目の質問だ。先日お前たちが元々いた拠点に新しく援軍が来たな。それはどうゆう事だ」
「ほう。我々でも上級守護者以上しか知らない事を知っているのか。流石は最強の転生者の一人と言われるだけあるな」
守護神は圧倒的戦力の余裕から影に対する警戒心が低くなっているのか褒めてきた。
「簡単だ。私達が瞳の村を支配したと同時に残り四つの村に同時襲撃する為だ。巫女が一ヶ所に集まられたら面倒だが同時攻撃ならその心配がないからだ」
影は何故このタイミング守護神の二人が敵の拠点に来たのか納得する。確かに今回瞳の村を支配できても未來や勇者が生き残れば変な話し立て直しは出来る。しかし守護神の同時攻撃となれば間違いなく四つの集落全てが数十分で焼け野原になる事は確実だ。
「なら二つ目の質問だ。何故そこにいる守護神はここに来る移動途中で進化した?」
これには流石の敵もそんな事を聞くのかと不思議な顔で影を見る。敵には当たり前でも影にとっては当たり前じゃない。だからこそ聞けるなら聞いておく必要があった。もし戦闘中に守護神が上級守護神とかになられたらそれこそ状況は悪化する。
「そんな事でいいのかい? 今なら質問を変えてくれてもいい」
影は頭の中でイライラした。こっちの世界に来てまだ二年の人間が何でも知っていると思ったら大間違いである。そもそも昨日までは敵が急に進化するなど考えていなかった。そして巫女達の反応からも理由は突然変異程度にしか思ってないのはすぐに分かった。敵の中では影がここで死ぬ前提だが、影の中では敵がここで死ぬ前提で話している。そこの温度感のせいなのか話しがどうも上手くかみ合ってない。だからグダグダになっていた。
「構わない。この世界に来てまだ二年しか経ってない俺にはお前たちの常識は残念ながら殆ど知らない事だ」
「あぁ、そうゆう事か」
影の言葉に目の前の守護神と周りの部下達も納得と言った顔する。
「そもそも俺達がどうやって進化しているか知っているか?」
「…………」
「知らないか。簡単に言うと戦闘経験値だ。ある一定の戦闘経験を積めば俺達はお前達人間とは違い一気に強くなれる。ここに来るまでに狂暴化した野生動物や影のいや最強の転生者の使い魔に何度も襲撃を受けたからと言えば納得してくれるかな?」
守護神が気味の悪い笑みを影に向けてくる。
そうこの世界において守護者達は影がいた世界における育成ゲームのキャラと言う事だ。敵を倒し勝つと経験値がそれに合わせた報酬として蓄積される。そして経験値が溜まれば進化するわけだ。なので戦闘中に経験値が入るのか戦闘終わりに入るのかは分からないが要は戦えば戦う程強くなるわけだ。そしてそれは人類が抵抗すればするほど経験値が溜まり強い敵が現れると言う事にもなる。そうなればその対抗策として影みたいなイレギュラーが人類にとっては必要となってくる。
影は声を出し笑う。この世界に来て何故守護者が同時に今まで攻めて来なかったのか。それは自分達が強くなれないからだ。誰だって自分が強くなりたいと願うのは必然だ。ならばどうするか自分がお山の大将として人がいる村を襲い甘い蜜を吸いたいと考えるのが普通だ。
影の疑問が次々と解決されていく。何故上級守護神やその上があまりいないのか。それはそれだけの経験値を中々貯められないからだ。全ては簡単なロジックだった。分かってしまえば何でもない簡単な仕組みで世界は回っている。
突如声を出し笑う影に守護神達が警戒する。敵からしたら影が笑っている事がとても不気味でしょうがなかった。
「ありがとう。これで俺も心おきなく全力で戦える」
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