第4話 少しばかりの真実
皆が巫女の間に集まったのを確認すると瞳の巫女である未來の口が静かに開かれる。
瞳の村に住む者達はこの時をあの日からずっと待っていた。
彼の正体それがこの村を救う救世主となるのかこの村を滅ぼす敵となるのか。
この一週間誰も影に対して何も言わなかったのは未來に対する信頼があったからだ。瞳の村の巫女である未來を皆が信用していたからこそ皆が疑心になりながらも悪い噂一つ出なかった。
「皆さんが知りたがっている、ハムスターの正体ですが、影は人間です」
その言葉に何人かは驚いている。それは当たり前の事でもある。
なぜなら影と呼ばれるハムスターは一週間前村を襲ってきた守護者から村を守った時以外ずっとハムスターの姿で未來と生活をしている。食事もヒマワリの種と水。そんな彼を見て人間と言われた所ですぐに受け入れるのは無理がある。
「そして人間の男であり、私が過去の日本より召喚した転生者です」
未來は次々と驚いていく勇者と村の民の事を無視して真実を語り続ける。
「私は二年前、極秘裏で守護神に対抗する為、私を含めた五人の巫女と協力して転生者になりえる者を探しました」
これに関して言えば未來が正座をしその膝の上で相変わらずマイペースにヒマワリの種を食べている影にとっても初めて知る真実だった。巫女の力となる転生者の召喚は普通一人で数時間かけて行う。しかし未來は今五人と言った事を影は聞き逃さなかった。
「影は男でありながら龍脈の力を扱える素質がありました。何故そうだったのかの理由は今も分かりません」
さっきまで驚いていた勇者と村の民が未来の言葉に集中して耳を傾けだす。
静かな夜の巫女の間には未來の声が静かに響く。
「影を見つけた私達五人は早速召喚する儀式を開始しました。しかしこの時、問題がすぐに起きます」
場の空気が重い事に気づいた影はいつもなら周りを気にせずにヒマワリの種を食べるがその手を止めて未來の言葉に耳を傾ける。
「儀式を始めたばかりの私達が偵察兵の守護者一人と守護兵二人に見つかってしまいました」
未來の手が影を優しく撫でる。その手は影が不安がらないように安心させてくれる。未來の手のひらが暖かく優しい温もりが影に伝わってくる。
「儀式中は私達が殆ど全ての力を使うので敵に対抗する手段がありませんでした。しかし儀式を中断すれば影の魂が過去と未来の狭間に永久的に閉じ込められ死ぬ事になります」
影はこの時、何故未來が優しく頭を撫でてくれたのかを分かった。
「そこで私は仲間を信じ本来であれば自殺行為ですが、一か八かで龍脈の力の半分を結解の生成と維持に回しました」
勇者と村の民達は静かに全てを語り続ける巫女を見る。
「失敗すれば私達五人とその中心の五つの集落の民、そして影が死ぬリスクがありました」
こう考えると影は巫女の命懸けの行動によって今生きているられる事になる。今まで生きている事に対して考えなかったが話しを聞いている内にそれは裏で頑張ってくれた巫女五人のおかげだと感謝した。
「なら何故巫女が五人で儀式したとなりますが、これは一人でするより五人でした方が時間短縮になるからです」
ここで影の疑問が解消される。何故儀式を一人ではなく五人でしたのかと言う理由が分かる。しかし影の中で新たに一つの疑問が浮上する。転生者を召喚する際、転生者が龍脈の力を扱えるようになるのは転生時に身体を再形成する時に龍脈の力を制御する回路を巫女からもらうからだ。その回路は巫女の身体の回路から移植してもらう。よって転生者は召喚された巫女と同じような力しか基本使えない。しかし影は擬態に通常攻撃、通常防御、結解生成、特殊攻撃、特殊防御、特殊移動の殆ど全ての力を得意としている。全てが得意分野として使える巫女等この世界に来てまだ二年だが影は聞いた事がなかった。
そんな影の疑問を知ってか知らずか未來が語る。
「そしてこれが秘密裏に行われた理由です。影に五人の巫女の力を授け最強の転生者を作ろうとしたからです」
影の疑問はこれで解決するが話しを聞いている勇者と村の民達が未來に不信の目を向ける。
「皆さんの反応から分かるように、もし失敗すれば皆死んでいましたし、成功しても影が裏切れば人類は滅亡の一歩を歩む事になります。だから密かに五人で計画しました」
影がもし村の民の立場だったらきっと同じように未來を見ていただろう。
頭を優しく撫でている未來の手が少し震えている事に気づいた、影。
「でも当時はそれでもしなければなりませんでした。二年前から守護神が直接村を攻めてくるようになり巫女も連戦が続き心も身体も限界でした」
未來の表情からそれが嘘ではない事は顔を見れば分かる。
「今までは巫女が協力して何とかしてきましたがこのままではやられるのが時間の問題でした。今まで黙っていましたが、もし守護神が二人がかりで攻めてきたら周囲の村の巫女が協力しても勝てない可能性があります。と言うかはっきり言うと勝てません」
守護神の力は一人の巫女の何倍もある。一人で対抗すれば良くて時間稼ぎが限界だ。それは薄々勇者も村の民達も気づいていた。だからこそ何も言い返せない。
「だからあの時、命懸けで影を召喚しました。儀式は何とか成功しましたが、結解の維持に私が力を使っており、座標軸計算を誤り召喚ポイントにズレが起きてしまいました」
影は今まで「私が召喚するときに召喚ポイントの計算ミスで誤って龍脈の中に転生させてしまった」と聞いていた。心配をかけないように嘘をついていた事を未來の顔から零れる涙が語っている。
「そして『影は死んだ』と巫女五人がこの時思いました。場所がすぐ近くにあった龍脈の中だったからです。しかし召喚に殆ど全ての力を使った巫女もこの時自分たちの死も覚悟しました」
影は巫女が召喚の儀式に自身の龍脈の力の殆ど全てを使う事を未來から聞いている。そして自分達が死ねば村が危険になる可能性が出てくる。だからこそ普段召喚の儀式は何日もかけて計画的に周囲の村と協力して行れる。しかし影の時は勇者の理解を得られないと考えた巫女達が村の外れの龍脈の近くで護衛一人付けずに行った。
「私は残る力で何とか結解を維持していましたが数分もしたときに限界が来ます」
護衛を付けていない時点で敵に見つかれば本来であれば儀式を中断するか自分達が死ぬかを選ぶことになる。儀式を中断しても死ぬのは巫女達からしたらまだ赤の他人であった影だ。
「しかしその数分が私達の命に大きく影響しました」
ここからは影も知っている。
「影は召喚者である私達の居場所を龍脈の中で探知し私達の元まで駆け付けてくれるなり何も言わず助けてくれました」
未來は先ほどまで勇者や村の民達に向けていた視線をずらし、影を見る。
「そして命が救われました。巫女で話し合い影は一旦私の村で預かる事になりました」
ここからは勇者と村の民も何とく知っている。巫女がいきなり山奥でハムスターを見つけてきて「ペットにする」と言った日だ。この日を境に五人の巫女達は転生者である影が住みやすいように各々の村で嘘を付き匿ってくれることになる。そのおかげか召喚の儀式が行われた事を五つの村に住む全員とその近くに拠点を構える守護者達は気づいていたが影が死んだと言う噂を信じて疑わなかった。そして生活を保障する変わりに巫女五人が影に出した条件が緊急時には人類に力を貸して欲しいと言うことだ。
あの時、緊急時とは村の壊滅危機と巫女達は影に念を押した。
「ただ皆さんがこの事を聞いて影を受け入れてくれるとは思わなかったので今までこうやって嘘を付き黙っていました」
勇者と村の民達が一斉に周囲の者達と何か相談を始める。先ほどまで未來の声しか聞こえなかった巫女の間が一気に騒がしくなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます