第5話 別れ
未來は影を見て笑い、今も優しく撫でている。未來にとって影はとても大切な存在である。そんな影を安心させようとしている。もし村の皆が影を受け入れてくれなかったら残り四つの村の何処かに引き取ってもらおうと考えていた。しかし未來にとって影はただの転生者としてではなく一人の人間として一緒にいたいと思っている。いつも側にいてくれて戦いはしなかったが、落ち込んでいる時は励ましてくれて、悩んでいる時は話しを聞いてくれて、不安な日はいつも黙って側にいてくれた影に恋をしている事にかなり前に気づいた。だからこそ今まで皆に真実を話さず黙っていた。今日と言う日を一日でも遅らせる為に。しかし未來の立場上、村の統率が取れなくなることはまずいので自身の感情を押し殺し今日全てを話した。今も皆の話し声ではっきりとは聞こえないが影をする言葉が所々で聞こえてくる。影はそれに気づいていたが聞こえないふりをする。そしていつも通りに未來の為にマイペースにヒマワリの種を食べる。未來は相変わらずマイペースな影を見て再び涙を零し苦笑いをする。
だけど影はこの時、村を出ていく事を決意する。
周りの反応からしてこれ以上長居すれば未來の立場が危なくなる事を今の状況から薄々感じている。村の巫女である未來の立場が危なくなれば周りの村との関係性に影響が出てくるし、何より守護者が攻めて来たときに勇者が巫女を守らない事も可能性としては出てくる。だからこそ影は自身の生活より未來の生活を優先する事にする。いつも未來の側にいたからこそ知っている。一人でどんな時も頑張っていた未來を知っている。どんなに辛くても、村の民からの理不尽な要求にも全て文句言わずに頑張って答えてきた未來を知っている。いつも笑顔でいる未來に皆が甘えている。それでもいつも皆に優しく接する未來を側にいた影は知っている。だから明日からの生活が保障されなくても影はこの二年間で十分に良くしてもらったと思っているし感謝している。そして影が罪悪感を覚えない様に優しい嘘を付いていた巫女を知っている。
「影……ずっと一緒にいてくれますよね?」
涙声になりながら未來が影に質問する。その顔には影がいなくなるのではと言った不安が見て分かる。影は迷う。ここで出ていくと言えば未來が悲しむ。しかし残ると言えば未來の生活に支障が少なからず出るに違いない。村に残るにしては周りからすれば転生者である影の詳しい素性、男でありながら龍脈の力を使える、五人の巫女の得意とする力を平然と使えるとイレギュラー要素と問題があり過ぎる。
「未來ごめん……今日でお別れだ」
影は正直に自分の気持ちを伝える。ここで嘘をついても数時間もしないうちに影は村を出ていく予定である。だったら儚い希望を持たせるより最初から真実を告げた方がお互いの為となる。
「俺がこのままこの村にいれば未來の生活が危なくなると思う」
影の言葉に未來がとうとう口を手で抑え声を出して泣きだす。
それに気づいた村の民達が未來を見る。
勇者は慌てて未來の元まで走ってくる。
「未來と過ごした二年間本当に楽しかった」
影は巫女の膝の上から飛び降りて人の姿になり未來と雛を先頭に走ってくる勇者の間に立つ。
「俺は村を出ていく」
雛に向かってゆっくりとした口調で影が言った。
影を前にした雛が一旦立ち止まる。
後ろにいた勇者達も雛を見て立ち止まった。
「当たり前だ。貴様のような化物をこの村に置いておくわけにはいかない」
「だろうな」
「最後に何か言いたい事はあるか?」
影はこの後未來が皆から色々と聞かれ質問攻めにされる予感がしていた。だから最後に未來や目の前にいる雛、そしてその他の者たちに今までの感謝の意を込めて嘘をつく。
この世界に来て何も知らない自分に直接でなくてもハムスターとして良くしてくれた皆の関係を壊したくなかったからだ。
「巫女を脅迫して今までのんびりと生活してたがそれも今日で終わりなのが残念だよ」
小さく聞こえた声に勇者全員が戦闘態勢をとった。
未來は相変わらず口を手で抑えて泣いている。
「雛やめて……」
未來が必死で雛を止めようと声をだす。
「巫女様。こいつのしたことは絶対に許されない事です。巫女様を脅迫するなど守護者と同じです」
影は構える勇者を無視して前へと歩きだす。そして影の行くてを阻む勇者達が剣を構えながらもその実力差を肌で感じては道を譲る。そして村の民達も勇者と同じように影を睨み付けながらも道を開ける。
「かげ……お願い……いかないで」
影が巫女の間を出ようとした瞬間、未來の声が聞こえた。
「今までありがとう」
しかし影は振り向きもせずに一言を告げると皆の前から消える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます