風船の行方

 そろそろだった。

 彼に電話をかける。


「おはよ。起きてる?」


『おはよ。あんまり生きた心地はしないかな』


「いま、何してるか。当ててあげようか」


 分かる。彼のことは。手にとるように。はじめて、あの街角で逢ってから。いくつも、いくつも夜を重ねて。そしていま、ここにいる。昼だけども。


「空眺めてるでしょ」


『当たりです』


「風船が飛んでる」


『もしかして、どこかで見てる?』


「見てないですよ」


 わたしは今日ずっとここにいますから。打ち合わせの嵐です。


「街をなんとなく歩くけど、わたしのことばかり考えるから、いやになってどこかの公園で座り込んで空を眺めてる」


『そのとおりだな』


「風船」


『え?』


「風船飛んでるでしょ」


『うん。なんで分かんの?』


「わたしが飛ばしたから」


『へえ』


「指環」


『指環?』


「くくりつけてあるから。風船に」


『は?』


「四桁万円の指環。わかるよね?」


『いやぜんぜんわからん』


「わかるよね?」


『いやわからんって』


「取ってきてね」


『おい』


 電話を切った。

 彼には、目的と、勇気が足りない。

 だから、作る。目的を。勇気はわたしが出す。


「さあ、打ち合わせの続きしよ」

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