第36話 『ドクターシップの方程式』の辛口感想?

 油布浩明さまより、辛口感想のご希望を承りました。作品名は『ドクターシップの方程式』です。

 作品URLはこちらですね。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884072125


 こちらはとある有名なSF作品をオマージュしたもののようです。本題に入る前に、ちょっと前のコミック、『うしおととら』の話から。

 作者は藤田和日郎さんですね。コミックのあとがきか解説だかで、こんな事を書かれてました。自分は『マッチ売りの少女』のような、不幸な童話が大嫌いだと。そして、自分が書く作品の中では、こんな不幸な結末は絶対にやらない。必ずたすけちゃる。みたいな。昔の事なのでうろ覚えですが、まあ大筋は間違っていないと思います。私は、この意見には全面的に賛成です。そして、自分も絶対にそうします。作品のタグに、時々「ハッピーエンド馬鹿」と入れている事がありますが、それはこういう理由があるからです。自分なら、不幸なままでは終わらせない。必ず、何らかのハッピーエンドに持って行くという創作姿勢を提示しているのです。


 何故、このような話をしたかと言うと、油布浩明さまも多分同じなんだろうなと思ったからです。


 さて、話を『ドクターシップの方程式』へと戻します。

 元ネタは、1954年に発表された『冷たい方程式』です。私は未だ読んでいないし、多分読まない作品です。理由は上記の不幸な結末になる作品だからです。概要はこんな感じ。


 ある疫病に苦しむ人々(惑星)を救うため、急遽、血清を積み込んで飛び立った宇宙船。燃料はギリギリしか積んでいなかったのだが、何と密航者がいた。疫病に苦しむ惑星にいる兄に会いたいと願う少女だった。その宇宙船は、密航者のおかげで重量がオーバーしており、安全に着陸できない状況となっていた。このままだと宇宙船は墜落し、血清が失われるばかりか、疫病に苦しむ惑星の人々を救うことができない。その事実を知った少女は、自らエアロックへと向かい、自らの身を宇宙へと投げだした。


 こんな感じでござるよ。読んでないけどね。


 この作品は、それ以降のSFに重要な影響を与えた名作として認識されています。そして、有名無名、プロ、アマチュア問わず、多くの方がこの作品を元に似たようなシチュエーションの作品を手がけました。それらは「方程式もの」と呼ばれています。アーサー・C・クラークとか筒井康隆とか、まあ有名な方も沢山書かれてますね。


 さて、油布浩明さまはこれをどう料理されたのか?


 以下ネタバレを含みますので、気になる方は先に上記のURLから『ドクターシップの方程式』へ飛んでください。


 原作との相違点は、パイロット不在(AI操縦)で乗組員は医師、積み荷がワクチンとなっています。そこに密航者の少女が乗り込んで重量オーバーとなる点は同じ。


 重量の超過をどう克服するのか。

 ここに、油布浩明さまの意外性と独自性が発揮され、宇宙船も少女も救ってしまいました。お見事です。

 エアロックに避難するところなんかは、アポロ13号の事故の際、司令船から着陸船へと避難してやり過ごした事とダブって感動しましたよ。私は。そして、コロナ禍、パンデミックという最近の事情も加味されていて、なかなか良い出来だなと思いました。


 評価すべきは意外な方法で重量問題を克服した事ですが、その裏には、「必ず少女を救う」という油布浩明さまの強い意志を感じました。そこがいいんですよ。この作品は。最初に『うしおととら』の話題から入ったのもこういう理由からです。


 さて、辛口を希望されていますので、ここからは辛口のアレコレをつらつらと書かせていただきます。


 先ず気になったのが、視点の変更です。

 最初から主人公(医師)視点で語られています。そこからは元ネタと同じ流れ。薬を注射された少女がエアロックに入って意識を失うところまでは主人公視点。そこから後は、少女の視点に変わっています。何故彼女が生きているのか、どうして、どんなトリックで皆が救われたのか。その理由が明かされるわけです。ここがこの物語のキモでもあります。このどんでん返しの為の三人称の視点変更なのが、個人的には残念でした。

 意外な事実は最後の最後で明かしたい事は理解しますが、それを意図的に隠していることが見え透いている訳です。ここが残念。自分なら、少女の一人称視点で書きます。船員(医師)とのかくれんぼをしながら、状況を把握していくわけですが、彼女一人だとそれは厳しいので、高機能AIを搭載したペット(小型犬のロボ)とか、ガンダムのハロだったり、スターウォーズのR2D2のようなロボをつけてやれば解決するのではないかと思いました。

 主人公(医師)の視点で通せば、あの方法にたどり着くまでの苦悩とか創意工夫がリアルに描かれるはずですが、最後のどんでん返しは難しいでしょう。


 以下、細かい点について、重箱の隅をつついてみます。

 先ず、密航して無事な点。宇宙船がどんな技術レベルなのかは不明なのですが、倉庫にしゃがんでいて、初期加速に耐えられるのか? ちゃんとシートに座っていないと良くて大怪我、悪いと死んじゃうのでは? って事。重力制御で飛ぶUFOのようなものだったり、スターウォーズに出てくる宇宙船なら平気っぽいです。乗り合いバスみたいな連絡船もありましたし。


 次。燃料不足してるんなら、途中で補給しろよ。減速する燃料を稼ぐなら減速スイングバイとか使えよ。燃料不足で着陸できねえんなら、軌道上で待機して救助してもらえよ……等々。

 これも詳しい状況や技術レベルが不明なので何とも言えませんが、衛星軌道上で燃料補給とか、物資の受け渡しとかは出来そうな気がしますけど。他の惑星や衛星が存在するなら、スイングバイによる減速もアリですよね。 

 そして、そもそも何もバックアップのない状態で宇宙へ出るとかキチガイじゃねえの? 予備の燃料とかパラシュートとか、積んでねえの? 嘘だろ? って事です。

 アポロ13号では酸素タンクの爆発事故があったにも関わらず生還しましたし、アポロ15号では一部のパラシュートが開かなかったものの、着水には成功し無事だった。とまあ、こんな具合ですよ。故障、事故の際に安全を担保するためのバックアップは必ず用意している物でしょう。


 これらは重箱の隅をつついているので、気にされなくても結構です。そもそも、元作品が書かれたのは1954年です。アポロ11号の月面着陸は1969年。ガガーリンが人類初の有人宇宙飛行をしたのが1961年。それよりも前に書かれた作品なので、大気圏突入はロケットを噴射して減速するとか、そういう概念なのかもしれませんね。大気圏突入にパラシュートを使うなんて、考えもしなかったんでしょう。

 

 元作品にも多くの批判が寄せられたようです。恐らくそれは、不幸な結末の為の設定が為されている、作家が人為的にそういう状況を作っているというような指摘であろうと思います。これは言い方を変えるなら、「無理やり『マッチ売りの少女』を作ってんじゃねえよ。そこで少女を救うのが本物のエンターテインメントだろ? ふざけんな!」でございます。油布浩明さまも、恐らく同じ考え方でしょう。私も同じ。そんな意味において、油布浩明さまの作品『ドクターシップの方程式』は優れたエンターテインメント作品であると思います。辛口部分は蛇足だと思っていただけたら結構です。感想は以上になります。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る