第57話 クリーンボタンを作ろう

 お店で接客をしながら、人がいないときにヴァイスとお話をしたりして過ごしている。


「ねぇ、ヴァイス。孤児院にまたお礼に行こうと思っているんだけど、どうしてみんな魔法を使えるのに、クリーン魔法しなかったんだろう?」


『ああ。この世界の子供達はまだ魔法を使えないからな』


「えっ、そうなの!?」


 この世界の子供達は15歳で成人するんだけど、その時に協会で適正のあるスキルを貰えるらしい。だからそれまでは魔法が使えないのだって。スキルを貰えた時に生活魔法も覚えられて、クリーン魔法とか火を付ける魔法とか覚えられるのだそうだ。


『それと魔力が少ない種族も居たりするしな。みんながみんないくらでも魔法を使えるわけではないのだぞ』


「そうなんだ~。あっ! だったら緑の魔石(クリーン)で魔道具を作ったらどうかな?」


『ふむ。それは良さそうだな。それだったら自分達で綺麗に出来るのではないか?』


「よし、それを作って持って行こう。孤児院が大分寂れていた感じでちょっと心配だったんだよね」


『なるほどな。何かしてやりたいのだな』


「うん、だってレオナもラルスもとっても良い子だったもの。何かお手伝い出来たら嬉しいなって思うんだよね」


 クリーン魔法を使うのにどんな物が良いかな。どこかに貼り付けておけるようなボタンはどうかな。手を置いてクリーンって言うだけで綺麗に出来たら良さそう?

 お部屋のクリーン魔法は棒みたいなのにしようかな。一気に広い範囲をクリーンして倒れたら大変なので、半径2メートルくらいの範囲をクリーン出来るようにしたら安全かもしれない。


「ヴァイス。誰もがヒールを使えるわけではないのだよね?」


『そうだな。適正があるからな』


「だったらポーションじゃなくて、包帯にしても良いかもしれない?」


『ふむ。安く出来るならば良いのではないか?』


 ちょっとした怪我にポーションはきっと使わないよね。だったらヒーリング包帯なんて良いかもしれない!

 包帯に染みこませるんだったら、沢山出来る気がするんだよね。お昼頃は人がほとんど来ないので、その時間に包帯を沢山買って来よう。


 午前中は近所の奥様が多い感じなんだよね。午前中は普通のクッキーとか生チョコとかが多く売れる。午後になると冒険者達が増えてきて、ポーション類が多く売れるようになる。

 午前中も午後も何人かで一緒に来るお客様が多いんだよね。おかげで一日中結構賑やかです。お昼の時間帯だけ人が減る感じかな。


 お昼頃になってお客様が居なくなった所で、一旦お店を閉めてささっとお買い物してきちゃおう。

 この世界には薬局がないので、雑貨屋さんで包帯も取り扱っているみたい。雑貨屋さんへ行き包帯を10個買ってすぐにお店に帰ってきた。


 お昼ごはんはアイテムボックスに入っている卵サンドとスープでささっと食べちゃおう。

 午後のお店を開ける前にヒーリング包帯を作っちゃおうかな。癒し草の葉っぱと根っこを刻んで錬金釜に入れる。


「なんだか、久しぶりに癒し草を刻んでいる気がする」


『確かにな。そもそも最近あまり見ていない気がするな』


「そ、そうだね」


 コップに錬金マドラーを入れるとぽんぽんと蒸留水が出来た。錬金釜に包帯を2個、蒸留水を入れて蓋を閉めて魔力を流す。


 チーン!


 錬金釜の蓋を開けてみると、包帯が2つコロンと出来上がっている。鑑定してみると、ヒーリング包帯(上級)と書いてある。癒し草1個で2つ出来たけれど、もっと出来るかな?


 もう一度癒し草と包帯を4個、蒸留水を入れて蓋を閉めて魔力を流す。


 チーン!


 蓋を開けて鑑定してみると、ヒーリング包帯(中級)と書いてある。


「4個だと中級になっちゃうのかぁ」


『次は3個か?』


「そうだね。やってみよう!」


 包帯を3個入れてみると、ぽふん! とヒーリング包帯が3個出来た。鑑定してみると、ヒーリング包帯(上級)と書いてある。


「おぉ、3個でも上級になったよ。これだったら回復ポーションよりも安く売れるね」


『そうだな。それだったら孤児院だけじゃなくお店でも売れそうだな』


「うんっ!」


 ヒーリング包帯が出来たので、そろそろお店を開けよう。お店にもヒーリング包帯を置こうと思うので、カウンターの中で作っちゃおう。

 ボウルに蒸留水を入れて錬金棒を入れると、ぽふんぽふん! とヒーリング包帯が出来上がっていく。1個ずつ紙に包んでお店の籠に並べよう。

 並べていると、宮廷魔導士のクラウスさんが来た。


「こんにちは」


「クラウスさん、いらっしゃいませ」


「カノンさん、やはりあの威力が増すのは凄かったですよ。ありがとうございました」


「お役に立てて良かったです」


「それと、カタリーナさんはもう出立したのですね」


「はい、今朝に馬車が来て出発しました」


「ん? カノンさんが持っているのは何ですか? もしかして、新商品ですか!?」


「はい。これはヒーリング包帯と言って巻いておくと回復効果のある包帯を作ってみたんです。回復ポーションを使うほどの傷じゃない時用にと思って」


「ふむ、それは良いですね。騎士団に良さそうです、5個頂けますか?」


「はい、ありがとうございます」


 クラウスさんはヒーリング包帯を5個と魔力回復系の食べ物と飲み物を色々買って帰った。以外と甘い物好きだよね。


 クラウスさんが良いと言ってくれるとちょっと安心してしまうのは、宮廷魔導士という肩書があるからだろうなぁ。またヒーリング包帯をカウンターの中でぽんぽんと作って棚に並べておいた。

 その後も以外と冒険者達がヒーリング包帯を買って行ってくれた。回復ポーションは持っているけれど軽い傷にはなかなか使わないで、いざという時の為に温存する事が多いんだそうだ。


 ヒーリング包帯、意外と需要があったね。


 夕方お店を閉めてお夕飯を作っていたら、つい3人前作ってしまった。ヴァイスに慰められたけれど、やっぱりちょっと寂しくなるね。


 お夕飯を食べた後は、ヴァイスと一緒に錬金部屋へ向かう。今日もアルちゃんは温泉気分で気持ちよさそうだ。

 クリーン魔法が使える魔道具を作ろうと思うのだけど、どんな形が使いやすいかなぁ。どこかに貼り付けられるボタンが良いかと思うんだけど、どうやって張り付けたらいいんだろう?


「うーん」


『何を悩んでいるのだ?』


「クリーンの魔法が使えるのはどんな形にしようかと思って困ってたの」


『なるほどな。カノンはどんなのが良いと思うのだ?』


「ボタンみたいにして手を置いてクリーンって出来たら簡単かなって思ったんだけど、どこかに貼り付けるにはどうしたらいいんだろうって思って困ってるの」


『なるほどな。何かの魔石で出来ないのか?』


「ん、魔石? 吸盤はここじゃ作れないけれど、緑の魔石で接着面の空気をなくせば張り付くかも?」


『そうなのか?』


「よし、やってみよう」


 まずはミスリルで手の平サイズのボタンを作ろう。それに緑の魔石(中)を貼り付けよう。魔石を貼り付けたら錬金釜に入れて蓋を閉めて魔力を流す。


 チーン!


 錬金釜の蓋を開けると、魔石がなくなっている。片方に緑の魔石が少しだけ見えているので、壁に貼り付けてみよう。


「おぉ、落ちない!」


『さすがだな』


「よし、これでボタンをどこにでも貼り付けられるね!」


 壁から剥がすのは簡単にぽこんと取れて不思議だけど、良いのが出来たね。これに緑の魔石(クリーン)を貼り付けて錬金釜に入れて魔力を流す。10分くらいするとチーン! と出来上がりを知らせてくれる。

 錬金釜の蓋を開けて鑑定してみると、クリーンボタンと書かれている。ボタンに手を置いてクリーンと唱えると自分を綺麗にしてくれると書いてある。


「思った通りの物が出来上がるのは嬉しいね~」


『そうだな』


 明日はお部屋をクリーン出来る物を何か考えよう。

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