第27話 省略スキルは楽しい!
朝、起きていつものように大きな甕に水を入れるのにコップを持った所で気が付いた。いつもはコップでお水を1杯木の桶に入れてから、木の桶を傾けてお水を入れている。
これを省略したとしたら?
『カノン、どうした?』
「うん、ちょっと試してみたい事が出来たから、考えちゃった」
コップで木の桶に入れるのを省略して、木の桶をそのまま大きな甕に傾けると?
『カノン、さすがにそれじゃ出ないだろ。ってなんでいっぱいになってるんだっ!?』
「コップで入れるの省略出来たよー!」
『おかしいだろっ!!』
「あはは、省略出来ちゃった」
『出来ちゃったって……なんでだよ!』
ヴァイスがびっくりした顔をしているけれど、実は私もびっくりしている。木の桶を傾けるだけでお水がざばっと大きな甕に溜まるくらい出ちゃうんだもん。
でも、実はこの木の桶自体が錬金道具なんだよね。だからお水を1杯入れるだけで大きな甕に並々とお水を入れる事が出来るんだよね。
だから、きっと省略も出来たんだろうね。
「省略スキルって面白いね!」
『聞いたことないけどな』
師匠に聞いてもそんなの聞いたことないって言われたんだよね。錬金術スキルはあっても錬金術(省略)スキルはないらしい。
昨日作って発酵器に入れておいたパン生地を見てみると、いい具合に膨らんでいた。
ガス抜きをして小さい丸に分けたらまた硬く絞った布巾を上に掛けて、また発酵器に入れておこう。これは今日のお昼ごはんの時に焼こうと思うんだよね!
朝ご飯にアサリのお味噌汁とおにぎりと卵焼きを作ろう。
『カノン、この貝はダンジョンのか?』
「うん、そうだよ。アサリを入れたお味噌汁にしたんだよ、美味しいよね~」
『ああ、我もこれは好きだ』
「うん、美味しいねぇ」
みんなで美味しく食べたら、お片付けをしてからヴァイスと錬金部屋に向かう。
まずは今日の分のポーションを作っちゃおう。葉っぱと根っこを刻む工程を省略して作ろうかな。
錬金釜に癒し草と蒸留水の瓶を5本入れたら、錬金釜の蓋を閉めて魔力を込める。
『カノン、薬草刻み忘れているぞ』
「ふふっ、刻む過程を省略して試してみようと思って!」
『なぜ試すのに5本分も作ってるんだ』
「あっ、そういえばそうだね! すっかりいつもの量で作っちゃった」
チーン!
「あっ、出来た!」
錬金釜からポーションを取り出して鑑定してみると、きちんと回復ポーションが出来ている。
「おぉ、省略出来たっ!」
『出来たのかっ!?』
「うんっ!」
これで今度から刻まないでポーションが作れるね! 以外と刻むのに時間が掛かっていたんだよね~。
次は魔力回復ポーションも省略で作ってみよう。魔力回復草と蒸留水を錬金釜に入れて、蓋を閉めたら魔力を込める。
チーン!
錬金釜から魔力回復ポーションを取り出して鑑定してみる。きちんと魔力回復ポーションが作られている。
「おぉ、凄い!」
『やっぱり出来るんだな』
ヴァイスがなんだか疲れた顔をしているけれど、省略スキルがあるなら使わなきゃねっ!
アイテムボックスの中を見ながら作る物を考えていたら、不死鳥の羽を見つけた。
「あっ、エリクサー作れるかな?」
『どうだろうな』
でも、さすがにその前に上級回復ポーションを作ってからにしようかな。それが出来たらエリクサーを作ってみよう。
上級回復ポーションには、治癒草、癒し草、蒸留水で出来るみたいだ。治癒草も癒し草もクリーン魔法で綺麗にしてから、根っこと葉っぱを刻んで行く。根っこは細かく、葉っぱは大きめにいつもの回復ポーションと同じように刻んで錬金釜に入れる。
錬金釜に蒸留水を1本入れて蓋を閉める。蓋に付いている魔石に手を乗せると、少し多めに魔力を一定に注いでいく。
チーン!
錬金釜の蓋を開けて鑑定してみると、上級回復ポーション(中級)と書いてある。
「むむっ、中級だね」
『それでも成功してるだけ良いと思うがな』
「回復ポーションは魔力が多すぎるとダメだったんだよね。上級だから少し魔力を多くしてみようかな」
材料を錬金釜に入れて準備をしたら、魔力を多めに流していく。
チーン!
蓋を開けて鑑定してみると、上級回復ポーション(上級)と書いてあった。
「やった、上級出来たよ!」
『さすがカノンだな』
さて、上級回復ポーション(上級)が出来たからには試したい!
どこが省略できるかなぁ。やっぱり薬草を刻む工程かなぁ。あっ、それよりも治癒草はなかなか採れないらしいから、省略出来たら良くない!?
癒し草にクリーン魔法を掛けてから刻んで錬金釜に入れる。それと蒸留水を入れて蓋を閉める。
『む? 回復ポーションを作っているのか?』
「ううん、上級回復ポーション!」
『治癒草を忘れてないか?』
「えとね、省略スキルで治癒草を省略出来ないかな~と思って!」
『……カノン。さすがに入れないのは無理だろう? それに治癒草と刻む工程の2つを飛ばしているぞ?』
「あっ! そうだった。レベル10にならないとダメかぁ」
『いやいや、だから材料は入れないとダメであろう?』
「だって、省略できるんだよ?」
ヴァイスにドン引きされたけど、錬金術(省略)スキルはレベルが5上がるごとに1個省略できるって書いてあるんだよ? そりゃもちろん、やるでしょっ!?
一応錬金釜に入れたから作ってみたけれど、出来たのは上級回復ポーションじゃなくて回復ポーション(上級)だった。残念。
気を取り直して、今度はエリクサーいってみようっ!
錬金術の本にエリクサーの作り方が載っていたんだよね。本を持ってきて読んでみると、魔力回復草と治癒草、蒸留水、それから不死鳥の羽が必要らしい。
「あっ、材料がある!」
魔力回復草と治癒草は葉っぱと根っこをそれぞれ刻んで錬金釜に入れる。不死鳥の羽は半分で良いみたい。
材料を錬金釜に入れたら、蓋を閉めて魔力を込める。
魔力がどんどん吸い出されていく。ヴァイスの魔力も借りて使おうとしたら、立ち眩みがして思わず手を放してしまった。
「あっ……」
錬金釜の上に×マークが出ている。錬金釜に入れた材料は全部なくなってしまった。
「あーっ! 材料全部なくなっちゃったよ。しょんぼり」
『カノン、大丈夫だったか?』
「うん、ちょっと立ち眩みを起こしただけだよ~」
『そうか、無理をするなよ?』
「うん、ありがとう。後1回分あるから、今度は椅子に座って作れるようにしてからやってみるよ!」
『そうだな』
不死鳥の羽が後半分あるから、木材を出して少し足の長い椅子を作っちゃおう。木材をぽいぽいっと錬金釜に入れて蓋を閉めて魔力を込める。
チーン!
足の長い椅子が出来たので置いてみると、ちょうどいい高さの椅子が出来た。
「ふふっ、これで安心して作れるね!」
『今日は止めておけよ?』
「うん、さすがに今日はやめとくよ~」
エリクサーの作り方の本をもう一度確認してみると、魔力は少なめに長く入れていくみたいだ。1時間くらい魔力を込めないといけないみたいだ。
多分、長く魔力を流さないといけないのに、流す魔力の量が多すぎたんだろう。明日体調が大丈夫そうだったら、もう一度挑戦してみよう。
今日はお茶を飲みながら錬金術の本を読んでゆっくりしよう。さすがに立ち眩みを起こした後でやりすぎると、ヴァイスと師匠にとっても怒られそうな気がするんだよね。
本を読んだ後は、発酵器に入れたパン生地をオーブンで焼いたら完成! 後はスープとベーコンを焼いてお昼ごはんを食べよう。
「カノン、このパンは美味しいねぇ」
『うむ。この前のカノンのパンの方がふわふわだった気がするが、これは味わい深くて良いな』
「これは師匠にもお手伝いして貰った酵母を使ったんですよ~」
「あれを使ったのかい。発酵器は上手く出来たって事かい。パン屋のケイティも助かるだろうよ」
「そうだと嬉しいです」
『街でも美味しいパンが食べられるのは嬉しいぞ!』
お昼を食べたら、午後は師匠と交代してお店番をする。お客様のいない時間で錬金術の本を読み進めていく。
ヴァイスをちらっと見ると、気持ちよさそうにウトウトしている。ヴァイスに食べさせてあげるお菓子、そろそろ新しいのを何か作りたいなぁ。
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