第26話 街をお散歩してお家に帰ろう
水晶糖を買うのにほとんどお金を使ってしまったので、冒険者ギルドへ向かおう。
『カノン、さっきの水晶糖はそんなに旨かったのか?』
「あれは熱するとシロップになるんだけど、ホットケーキに掛けると美味しいんだよ! 今度作ろうね」
『うむ、楽しみにしているぞ!』
しっぽがゆらゆらとご機嫌になったヴァイスのお口に、水晶糖の欠片を入れてあげる。
『む、旨いが甘いな。カノンが料理してどれだけ旨くなるのか楽しみだ』
「ふふっ、きっとヴァイスも好きだと思うんだよね」
作ってあげるのがとっても楽しみだ。だけど、水晶糖が結構高かったからお金がない。これだと他のお買い物が出来なくなっちゃう。
「それでね、お金なくなったから素材売っていい?」
『ああ、構わんぞ。それはカノンが使えば良いから許可などいらん。それよりも旨い物を沢山買っていくぞ!』
「ふふっ、ありがとうね! ヴァイスのおかげで安心して暮らせるよ~」
冒険者ギルドに入り、買い取りカウンターへ向かう。シーモールから出たカルセドニー、タイーズから出たターコイズ、ハンマーシャークから出たアクアマリン、大量にある食材も少しずつ売ってしまおう。
「こりゃまたいっぱいだな」
「すみません。沢山ですけど大丈夫ですか?」
「ああ、問題ないぞ。ただ、量が多いから少し待っててくれな」
「はい、お願いします」
少し待っていると、さっきの職員さんに呼ばれた。職員さんが少し困った顔をしているけど、どうしたんだろう?
「なあ、聞いて良いか?」
「はい、なんでしょう?」
「このアクアマリンは何から出たんだ?」
「あっ、それはハンマーシャークですね~」
「……ちなみに何階か聞いても?」
「えっと、28、29階ですね~」
「はぁっ!?」
なんだかすごく驚いているけれど、どうしたんだろう? 職員さんが大慌てで私の手を掴んで階段を登っていく。
「ど、どうしたんですか?」
「悪いが、ちょっと一緒にギルマスの所へ来てくれ!」
「はいっ!?」
いきなりギルマスですか!? まだFランクなのに、どうしたらいいんだろう。
『カノン、落ち着け。大丈夫だ』
「う、うん」
職員さんがバタン! と荒々しくドアを開けた。
「ギルマス! この嬢ちゃんの話を聞いてくれ!」
「ど、どうしたんだ!?」
「ダンジョンでアクアマリンをドロップさせて持ってきた」
「ん? 今までアクアマリンなんて出てたか?」
「出てないからここに来たんだろっ!」
職員さんがある程度話をしてくれたので、とても助かったけれど……まだ誰もあのダンジョンをクリアしていなかったらしい。
今最高で13階までなんだそう。確かに13,14階のイカスッミーの麻痺は厳しいよね。しかし、今までそこまでしか行けてないのに、ダンジョンをクリアしてきたらこうもなるよね。
「俺はギルマスのモーリッツだ」
「私はカノンでこっちはヴァイスです。よろしくお願いします」
「それで、カノンは一体ダンジョンの何階まで行ってきたんだ?」
「えーっと、30階まで行ってきました」
「「はぁっ!?」」
思わず目を逸らしてしまったけれど、やっぱり凄く驚かれた。そりゃそうだよね、まだ誰もクリアしていないダンジョンをクリアしてきちゃったんだもん。
しかも私、Fランクの冒険者だしね。
「ど、どうやって30階まで行ってきたんだっ!?」
「えーっと、こっちのヴァイスが倒してくれました」
「こ、この真っ白のドラゴンはまさか……!?」
そうギルマスが言った瞬間にヴァイスが何か魔法を使ったみたいだ。
「な、なんだっ!?」
『我の言葉が通じるように、結界を張らせて貰った。我はこの世界最強のドラゴンだ』
「そ、それは、北の山に住んでいるという伝説の白龍様っ!?」
うわぁ、ヴァイスってば伝説のドラゴンなの!? やっぱり世界最強の2匹のうちの1匹だもんね!
『我はこのカノンと一緒に暮らす事にしたのでな。今は王都に住んでいるぞ。だが、我はカノンの為にしか動かんぞ』
「わ、分かりました!」
さすがにギルマスのモーリッツさんも顔色が悪くなっているけど、大丈夫かなぁ。
「王都のギルマスは知っているのでしょうか?」
『多分知らんな。知らせるのは構わんが、我はカノンと楽しく暮らしたいだけだ。余計な手出しは無用だ』
「はっ!」
威厳のある話し方をしているけれど、小さいままだし、私の膝に座ってるし、ギャップが物凄いんだけど!?
私がそんな事を考えていると、ヴァイスがちらっとこっちをジト目で見て来た。そ、そこまで変な事は考えてないはずだよ?
食いしん坊だなんてまだ思ってなかったしね。
「いたっ」
『ふんっ』
食いしん坊って思うと攻撃されるんだよね~。なんで分かるんだろうなぁ。
『カノンは分かりやすいと言ってるであろう』
「はーい」
ダンジョンの魔物やドロップ品の情報をギルマス達に話してから、買い取りカウンターで買い取りをして貰ってから冒険者ギルドを出る。
ついでに、冒険者ギルドのランクがBランクまで一気に上がった。ギルマス権限で上げられるのがBまでなのだそう。それ以上上げるには、他のギルマスや国の承認が必要なのだって。私が強い訳ではないので、なんだか申し訳ない感じがするね。
買い取りして貰う物も他の階層の物も少しずつ買い取りをして貰う事になった。おかげでお金がかなり増えた。ヴァイスに美味しい物沢山作ってあげないとだね。
思ったよりも時間が掛かってしまったけれど、もう少し街を歩いてお買い物をしてから王都に帰る事にしよう。
ヴァイスと一緒に屋台でごはんを食べたり、お店を周っていたら良い時間になったので、北門から街の外に出る。
「リンドーロの街も楽しかったね~」
『そうだな。またいつでも来ればいい』
「そうだね。ヴァイスだったらすぐに来られちゃうもんね~」
少し離れた所でヴァイスの背中にのり、王都の近くで降りる。ヴァイスから降りたら、小さくなったヴァイスを肩に乗せて王都へ向けて歩いて行く。
門番さんに手続きをして貰ったら、街の中に入りお店に帰ろう。
「師匠、ただいま帰りました~」
『帰ったぞ』
「おや、おかえり。早かったねぇ」
まだお店を開けている時間なので、師匠に少し休憩して貰って私がお店番に入る。少ししたら閉店の時間になったので、お店を閉めてからお夕飯を作ろう。
「ふふっ、今日はもちろん海鮮丼だよねっ!」
『それが良いぞ!』
「海鮮丼? 丼ってつくんだから丼物なんだろうねぇ」
「リンドーロの街の近くのダンジョンでお魚とか沢山取って来たので、それを使った丼です!」
「それは楽しみだねぇ」
ご飯を炊いて、海鮮丼の準備をしよう。今日はマグロ、ウニ、イカと贅沢にカニも乗せちゃおう! 明日は鯛茶漬けにしようかなぁ。
『カノン、これは旨いぞっ! 海鮮丼、我は大好きだっ!』
「本当に美味しいねぇ。こんなの初めて食べたけれど、私も好きだねぇ」
「ふふっ、海鮮丼美味しいですね~。他にもお魚も貝も沢山取って来たので、色々作りますね!」
久しぶりのお刺身は本当に美味しかった。さすがに異世界なので、生で食べられるか良く鑑定したよ。でも、この世界のお刺身はドロップ品だけど、とっても美味しかった。
何と言っても謎の大間産のマグロだしね!
酵母の状態を見に行ってみると、酵母がしゅわしゅわと音を立てている。綺麗な瓶に濾して酵母液を移したら、パン生地に使う分だけ残して残りアイテムボックスに仕舞っておこう。
パン生地をこねこねしたら、濡れた布巾を掛けて発酵器に入れて明日まで置いておこう。
明日からはまた錬金術のお勉強頑張るぞ! 青の魔石も沢山手に入ったから、師匠にも渡しておいた。冷蔵庫が作れるようになったね。
錬金術師ギルドにも少し買い取って貰った方が良さそうだよね。青の魔石がないって言っていたからね。
「ヴァイス、昨日今日とありがとうね。おかげでとっても楽しかったよ!」
『我も楽しかったし、旨かったぞ! また色々な所へ行くぞ!』
「うんっ、楽しみにしてるね!」
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