第6話 初めての錬金術

 朝、起きて準備をしたら、まずは大きな甕にお水をいっぱいにする。錬金術にはお水を沢山使うから、水を汲んでおくことが朝一番のお仕事なのだそう。


 甕のすぐ側に木の桶があって、そこにコップ1杯の水を入れると、大きな甕に傾けていく。


『カノン、何をしてるんだ?』


「ん? 朝のお仕事でこの甕にお水をいっぱいに入れておくんだよ。師匠がこうやるって教えてくれたんだ~」


『そうか。だが、それではコップ1杯の水しか……ってなんでこの大きな甕に全部溜まってるんだ!?』


「えっ? ん-と、なんだっけ、こういうの……えーっと、あっ! 呼び水っていうんだよね!」


『いやいや、それは違うだろっ!?』


 大きな甕にお水がいっぱいになったから、桶を傾けるのを止める。


 きゅっ!


『ちょ、ちょっと待て。なんか今きゅっ! って音がしたぞっ!?』


「なんでだろうね~。魔法って不思議だよね~!」


『そうじゃないだろっ!』


 なんかヴァイスが色々言ってるけれど、魔法って凄いよね~。コップ1杯の水を入れたら大きな甕にいっぱいに入れられるんだから、とっても助かるよね!


『カノン、我がおかしいと思うくらいだからな?』


「だって、師匠がこうやるって言ってたんだから、きっと普通なんだよ~」


『そ、そうなの……か?』


 甕に水が汲めたから、朝ごはんの準備を始めよう。今日は時間があったら食材を買いに行きたいなぁ。


 3人の朝ごはんは簡単にハムと目玉焼き、パンとスープにした。みんなで一緒にご飯を食べたら早速練習を始める。


「魔力操作が出来るようになったら、蒸留水を作るからね」


「はい、師匠。蒸留水って錬金術の基本ですよね! 楽しみです!」


「その前に魔力操作を完璧にしないと出来ないよ」



 今日水汲みをして思ったんだよね。蛇口と同じように考えれば魔力操作も出来るんじゃないかな?

 蛇口を少しにすれば、少ない量の魔力を出せそうだよね。沢山出す時は、蛇口を沢山捻ればいいんだよね。


「うん、魔力操作出来そうな気がしてきた!」


『何か思いついたのか』


「うんっ!」


「それじゃ、食べ終わったらやってごらん」


 適正を見た宝玉に手を置いて蛇口を少し捻る感じで少しずつ魔力を流していく。


「ふむ、出来ているみたいだね。次は多めに流してごらん」


 今度は蛇口を大きく捻った感じに沢山流れるようにすると、私の周りでキラキラ金色の光が踊り出した。


「よし、出来たね!」


「やったっ!」


『よくやったな』


 やっぱり魔力操作は蛇口を思い浮かべれば大丈夫だったね。水汲みのお仕事をして良かった。


 魔力操作が出来たので、次は蒸留水を作る作業を教えて貰う事になった。

 蒸留水の作り方は錬金釜にお水を入れて、蓋を閉めたら蓋の上にある魔石に手を置き、魔力を流していくんだって。


 錬金釜は魔女のお鍋みたいなのに、蓋がついているんだよね。この蓋は真ん中が透明になっていて、中身が見えるのがなんだか楽しそう。


 まずは大きな甕に汲んでおいたお水を錬金釜に入れて蓋をする。蓋の上に付いている魔石の上に手を乗せて魔力を流してみる。少しすると蓋の上に×マークが出た。


「師匠、これはなんですか?」


「それは失敗ってことだね」


「えぇっ!?」


「もう一回だね」


 もう一度錬金釜をクリーン魔法で綺麗にしたら、甕からお水を入れ直して蓋を閉める。

 今度は蛇口からちょろちょろ出るくらいにして、魔力を流してみよう。


 魔力を流しながら少し待つと、チーン! と音がした。


「えっ、何このレンジみたいな音」


「今回はちゃんと出来たね」


 ちゃんと出来たらレンジみたいな音がするんだね。蓋を開けてみると、10本の水の入った瓶が並んでいる。鑑定スキルで見てみると、蒸留水と出ていた。


「師匠、この蒸留水を使うと何ができるのですか?」


「これからポーションを作れるんだよ」


「なるほど」


「ポーションも作ってみるかい?」


「ぜひっ!」


 癒し草の葉っぱと根っこを刻んで錬金釜に入れて、蒸留水も1本入れて蓋を閉める。蓋の上の魔石に手を置くと蒸留水を作った時と同じく、ちょろちょろ出るように魔力を流して行く。


 少しすると、チーン! と音がして、蓋を開けると1本のポーションが出来ていた。


「おっ、今回は1回で出来たね。でも品質がイマイチだね」


 鑑定してみると、回復ポーション(低級)と書いてあった。

 もう一回試してみよう。今度は魔力を流すのを普通に蛇口を捻ったくらいにしてみよう。


 チーン!


 鑑定をしてみると、今度は回復ポーション(中級)と書いてある。魔力をもっと流してみると、失敗した。

 魔力を流しすぎてもいけないのか、上級はどうしたらいいのだろう?


「師匠は上級も作れるのですよね?」


「ああ、作れるよ。自分で考えてやってごらん」


『カノン、その前に買い物に行かなくていいのか?』


「あ、忘れてたーっ! ヴァイス、ありがとう。ヴァイスはどうする?」


『我も一緒にいくぞ』


 ヴァイスを肩に乗せて市場に向かう。市場に着くとお野菜を沢山買い込んでおいた。

 人参、玉ねぎ、じゃがいも、キャベツ、トマトを多めに購入させて貰った。


 お肉はアイテムボックスに大量にあるから要らないけれど、お肉屋さんでソーセージとベーコンを購入させて貰った。


 食材屋さんでは小麦粉、卵、牛乳、バター、砂糖を大量に買っておいた。ささっと、お買い物をしたら途中でパンも買ってからお店に帰ろう。


「沢山買えたね~」


『お昼ごはんはなんだ?』


「トマトとベーコンのスープとパンにしようかと思ってるんだけど、どうかな?」


『うまいのか?』


「うん、私は好きだよ」


 そう言うと、しっぽがゆらゆらと揺れてご機嫌な感じだ。

 お店に帰ると、早速買ってきた材料でトマトのスープを作り始める。パンもこんがり焼いたら、みんなで食べよう。


『カノン、このスープ旨いな。パンと一緒に食べると凄く合うぞ!』


「うん、カノンの作るご飯は美味しいねぇ」


「ふふっ、良かったです」


 お昼ごはんを食べた後は、お店番をすることになっている。午前中は錬金術の勉強、午後はお店番なのです。お店番をしながら商品の説明をして貰った。


 商品は大まかにポーション系、アクセサリー系、生活に使うものに分かれている。

 アクセサリー系には、全て宝石がついている。


「師匠、この宝石は何ですか?」


「あぁ、それは魔石だよ。魔石の色で付けられる付与が変わるんだよ」


「なるほど。魔石を手に入れたら取っておいた方が良いのですね~」


『カノン、魔石が必要だったら我と取りに行けばいいぞ』


「ヴァイス、ありがとう!」


 昼間は大体街に住んでいる人達が多いみたいだ。冷蔵庫みたいな冷やしてくれる箱があったり、食べ物まである。


「師匠、食べ物も作れるんですか?」


「食べ物も作れるけれど、作り方が分からないと作れないよ」


「なるほど。師匠、後で錬金釜使わせてくださいー!」


「基本が出来てからにしな!」


「はーい」


 残念。早く基本を覚えて色々作ってみたいな。

 ヴァイスの好きなドーナツも作れるし、クッキーもすぐに作れるんじゃない?


 よし、基本を頑張って覚えるぞー! でも、今はお店番ですね。暇な時間にポーションに付いても考えてみる。


 まずはポーションの上級が作れるようにならないとだね! 魔力は流しすぎても少なすぎてもダメだった。後は何が必要なんだろう。

 癒し草の刻み方? 葉っぱの量? 根っこの量かな? 色々試してみるしかないね。


 夕方になると、冒険者達がポーションを求めてやってくる。お店にあるポーションは師匠が作っているので、全部回復ポーション(上級)ばかりで師匠の凄さが良く分かる。


「いらっしゃいませ」


「おう、ばあさん! じゃないっ!?」


「師匠に弟子入りしたカノンと言います。よろしくお願いしますね」


「あっ、俺は冒険者のゲルトって言うんだ。よろしくな! それで、回復ポーションを5本頼むな」


「はいっ!」


 ポーションを5本取り出して渡してお金を貰う。ゲルトさんはとってもガタイの良い背の高い男性で、大きな剣を持っている。

 やっぱり前衛だからポーションが必要なんだろうね。


 夕方になってお店を閉めたら、お夕飯を作ろう。今日はワイバーンのお肉を焼いて、後はスープを作ってパンで食べよう。


「師匠、寝る前に少し錬金しても良いですか?」


「あぁ、構わないよ。でも無理しすぎるんじゃないよ」


「はい、ありがとうございます」


 ご飯を食べ終わってお風呂に行ったら、お片付けをしてから錬金釜の所へ向かう。ヴァイスも一緒に来てくれた。

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