他人の幸せ

志央生

他人の幸せ

 ポストの中に入った連盟の封筒。ほかとは違う雰囲気を醸し出し、開ける前から中身がどういった物なのかを感じさせてくる。ため息を一度吐いてから、封をあけて確認すると案の定、予想通りの物が入っていた。


「結婚式の招待状か」


 招待状だけを抜き取り、封筒を投げ捨てる。結婚の報告と参列の可否を問う手紙。式の日時を確認し、自分の予定と照らし合わせる。


「いけなくはない、か」


 ややため息が漏れてしまう。いっそ予定が埋まっていてくれたほうがよかった。これでは参列せざるを得ない。手紙を机の上に一度置き、椅子に勢いよくもたれかかる。

 送り主は学生時代の先輩で当時は何度もお世話になった。ここ数年は連絡を取り合うこともなかったが、年賀状だけは送っていた。それはあくまでも付き合いの中で必要最低限のことだと思っていたからだ。それがここにきて、結婚式に招待されるとは夢にも思っていなかった。

 体を起こして机の手紙をにらみつける。祝う気持ちはあるが式に出向いて、参列する気にまではなれない。きっとこんなことを誰かに言ったら白状だと言われるかもしれない。


「どうしたものか」


 天井を仰いで、目をつむる。頭の中は参列するかの有無でいっぱいになっている。どちらを選んだとしても、きっと誰も責めはしない。ならば、自分の意思を尊重すべきなのだろう。

 机の上の手紙を目の前に移動させる。ペン立てに入っているボールペンを手に取り、もう一度手紙に目を通す。

 送り主たちの幸せが詰まっているのが感じられる。この二人は今も幸せで、きっとこれからさあきも幸せであり続けるのだろう。

 私は参列の可否に印をつける。人の幸せほど自分には関係がない、と思いながら。

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他人の幸せ 志央生 @n-shion

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