第30話 血牙

「グォァァア!」

 俺は『跳躍』で後ろに飛びながらゴブリンを分析する。


 ゴブリンの装備は黒い狼の毛皮。血で錆びて鈍器と化した鉈1本…投げたのを拾って2本。そして革製の指輪には大粒の魔石。魔法でも使うのだろうか。靴は…魚の皮か?

 地面を何度も蹴ってブレーキをかけ、素早く立ち上がる。


 俺は今、丘の斜面にいる。稜線から偵察していたところを背後から襲われた形だ。

 俺とゴブリンの背は変わらないが、俺の方が高い所にいるため見下ろしている。


ブン!ブン!

 危ねえ!

 ゴブリンの鉈は1度食らうだけで相当なダメージを食らいそうだ。しかも両手で使いこなしていると来た。

 コイツはかなり強い。あのグレイウルフキングと同じ匂いがする。


 俺は鉈を避けながら、『レジストアシスト』以外の付与を全て掛ける。


 ゆっくりになった視界の中、振り下ろそうとする鉈を持った左手を小太刀で叩く!

 二刀流というのは手数が多いが、その分だけ握りが弱くなる。

 取り落とした鉈を遠くに蹴る。


「は!」

 俺は右手の鉈を避けて、足に『スパイキーキック』でローキックを入れる。

 多少バランスを崩した…が、素早い切り返し!俺は避けたが風圧で前髪が舞う。

 俺はさらに『アクセルキック』を腹に入れて、反動で距離を取る。


「ゴブ!」

 装備もあるのだろうが全然ダメージが入ってない。

 どうやって倒そうか…


…バッ!

 危ね!後ろから新たなゴブリンが襲ってきやがった!

 俺は地面を蹴り距離を取るが…1,2…6体ほどに囲まれている。装備は槍3に銅剣2、弓1だ。

 やろう、デカいナリして卑怯な手段を!


 しかし流石にこれは勝てない。

 俺は東の方向にいる銅剣持ちゴブリンへ駆ける。

 接触の直前に『ヒール』と『跳躍』を使うと、地面を蹴って低く飛ぶ。


 そして『アクセルキック』!


「ぐっ!」

 左腕に食らったが、どうにか退路を開けた。

 『ダッシュ』で逃散!


 充分に距離を取った俺は、背筋に嫌な予感がして後ろを向く。


「う…」

 なんだ!?大柄なゴブリンが倒れたゴブリンを食ってんぞ!?

 口からは血が溢れ、牙を染めている。

 そしてゴブリンが黒いオーラに包まれ、視界に黒が爆発し…



バッ!

 気づいたら俺は氷の部屋にいた。


「おお、タツ殿ではないか」

「氷竜さん?…そうか、最後に立ち寄った噴水広場にリスポーンするんだったな」

 そういえばあの後ファストの噴水広場には立ち寄らなかったな。

 それよりも…


「なんですか?そのベッドは」

「凄いであろう?我が愛しのロウグのために作ったのだ」

 凄いとか言ってないが…。

 この間産まれた氷龍のロウグは、非常に薄い氷で作られたベットでスヤスヤ眠っている。


「で…誰にやられたのだ?」

 やっぱり聞いてくるか。


「ゴブリンなんですけど、背丈が俺ぐらいあるんです。

 なんか…仲間を食って黒いオーラを纏ったら急に強くなって」

「む…そうだ、ビーンじゃな。ゴブリンの王国を作って草原の中央部と北部の下半分を占拠しておる。最近は東部にも進出しているので遭遇したのだろう」

 ビーンと言うのか。それにしても東部に進出…だいぶ不味くないか?

 後でユウトに報告しておこう。


「そうだ、氷龍さん…いえ、氷龍様」

「?どうしたのだ?いきなり」

「俺に修行をつけてください!」

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