常識的なコンビニ強盗と非常識な店員
海鮮かまぼこ
経験したことの無い恐怖を感じた
俺はコンビニ強盗。突然だが、俺はもうすぐ強盗に入る。俺はそこいらの馬鹿とは違い、コンビニ周辺の人通りや防犯カメラ、店員の1人になる時間などの下調べから迅速な制圧方法、通報対策でさりげなく店内にいくつも仕掛けた電波妨害装置に逃走経路、特定されにくいように広く出回っている衣服、万が一疑われた時のためのアリバイ、そして幾度ものシミュレーションと、完璧な計画を練って来たる決行の時に備えていた。そして今、ついに決行しようとしている。俺は店の前で息を整え店内に押し入ると、瞬く間に店員に刀身15センチ程の包丁を突きつけた。
「声を出すんじゃねえ。金を寄越せ」
と言い、袋を出すと気の弱そうな店員は事務所に入った。俺が追おうとカウンターを飛び越えると、子供の頃にテレビで見たような戦隊もののヒーローのコスプレを首の下までしたさっきの店員が、
「悪は滅びよ!」
と言いながら突撃してきた。突然起きた予想外の事態に頭の整理が追いつかなくなった俺はパニックになり、とにかく包丁をぶん回した。10数秒してようやく冷静さを取り戻した俺は店員と向かい合い、コスプレ店員が暴れ出さないように気を付けながらじりじりとレジに歩を進めていると、店員の後ろ、つまり入口から客が1人入って来るのが見えた。この膠着状態を脱出するにはこれだ、と思いコスプレ店員の横に割り込み、入ってきた客を羽交い締めにし、
「あまり時間をかけずに金を寄越せ!早くしろ!こいつ刺しちまうぞ!」
あまり時間をかける訳にはいかず、さっさとトンズラしたいのだが、なかなか店員が動かない。意識を店員に向けていると、ふと視界が揺れ、頬に痛みが走った。俺は客に肘打ちを食らったことに気付き、急いで体制を立て直した。すると、そこにいたのはさっきの客とは思えなかった。
「悪は滅びよ!」
と言い、目の前にいたのは上着を脱ぎ捨て同様にヒーローのコスプレをしたさっきの客だった。再びの予想外の事態に俺は思わず1歩下がり、そこで当初の目的であったスピード勝負が最早絶望的であることに気付いた。逃走経路もアリバイもスピード勝負を前提としたもので、急いで逃げなければならないことに気付いた。2人に挟まれる構図になった俺は強行突破を試み、この店から逃げなければならないという気持ちとこのよく分からない2人への恐怖も相まって、
「うわあああぁぁぁーー!」
と叫び、包丁をぶん回して入口に走ろうとした。その刹那、扉の向こうから3人の人が走って来て、扉が開くとそこにはそれぞれ黄色、ピンク、緑のヒーローコスプレをした男3人が立っていて
「悪は滅びよ!」
と声を揃えて言った。5人揃って
「正義は勝つ!」と言いながら決めポーズをとり、一斉に飛びかかって来た。ヒーローが揃ったなどと考える余裕は無く、既に一連の流れで頭が停止していた俺はあっさり取り押さえられた。この連中に何をされるのかという恐怖ともし警察に突き出された時、俺はどうするのだろうという考えが頭でぐるぐる回り、そのうち考えることをやめた。ふとそのとき、警察が20人ほど店に突入してきた。
「ここにヒーローのコスプレをした男が3人入って行くのを見たという通報がありまして。まさか5人いるとは思いませんでしたが、
そこの包丁を持っている男も署に来てもらいます」
この言葉を最後に、俺たちは逮捕された。俺は事前に計画されていて、近隣住民を電波妨害で不安にした非常に悪質な犯罪として檻の中に、コスプレ男たちは弁明を最後までしていたらしいが、全く聞いて貰えずに檻の中に入れられたらしい。どうやら以前にも3回か4回か同じことをしたそうだ。そして俺は他の囚人たちより、ある意味深く反省した。同様に、コスプレ男達も深く反省した。
「もう二度とコンビニ強盗なんてしない」
「もう二度とコスプレなんてしない」
常識的なコンビニ強盗と非常識な店員 海鮮かまぼこ @Kaisen-kamaboko
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